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◆【軍隊式英会話術】 vol.21
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簡単な表現で描写するクセをつけよう Takashi Kato
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21時間目 簡単な表現で描写するクセをつけよう
教科書で覚えた外国語は疑似体験だといえます。
言ってみれば、パソコンのゲームや遊園地の乗り物と同じで、どれほどリアルでスリルがあ
っても、所詮は決められたプログラムやレールの上を走っているに過ぎないからです。
ということは、教科書を丸暗記できたとしても、それだけでは「何でもあり」(Anything
goes)の現実社会に対応できる語学力ではないのです。
どのような状況でも臨機応変に意思疎通するためには、教科書を超えていく工夫が必要にな
ります。思いつくまま、いくつか例を挙げてみましょう。
陸軍時代のことです。
新任少尉には、自分の小隊の兵士にクラスを教える時間が設けられていました。
テーマはとくに指定されていませんでしたが、あえて捕虜虐待を禁じるジュネーブ条約
(Geneva Convention)を選びました。
新米小隊長(rookie platoon leader)にはいささか荷が重い話題でした。
しかし、将来戦場に赴くだろう若い部下たちに、今のうちから指針を示すことが大切だと思
い、そう決めました。
自ら選んだトピックに責任を覚えると、英語とはいえ準備の苦労も苦労とは感じなくなるの
は不思議でした。
国際協定の難解な言葉や理念を、高卒の部下たちに分かる平易な言い回しで説明してやらな
ければ、という気持ちもおのずと湧いてきました。
外国語で説得力をもつためには、明解な目標や強い使命感、熱意が不可欠です。
説得のノウハウなど、語学の教科書には書かれていません。
話は前後します。
習い始めの頃は、身の回りの事柄に好奇心を持つことが大切です。
時々刻々変化する環境を、小学生にも分かる表現で描写するクセをつけてください。
例えば天気です。
It is fine today.
(今日は晴れです)
ではいかにも教科書然としてつまらないですね。
過去と未来の天気を付け加えてふくらませてやりましょう。
It was fine this morning but is cloudy now. It would probably be raining
tonight.
(今朝は晴れでしたが今は曇りです。今晩は雨でしょう)
となり、時制の勉強にもなります。「今朝」の代わりに「去年」または地名を使えば、カバー
する時空が広がる分だけ、言語表現も豊かになります。
We had lots of rain last year but haven't had any this year yet. There
might be a
water shortage this year.
(去年は雨が多かったですが、今年はまだぜんぜんです。水不足になるかもしれません)
とか
It was fine all day long in Tokyo but rained heavily in Chicago.
(東京は一日中晴れでしたが、シカゴでは大雨でした)というような具合です。
竜巻とか雹(ひょう)、地震、津波のような非日常的な自然現象が起きた場合もかならず、
In such and such place, "there was a small typhoon", "ice
fell from the sky",
"the ground moved", "big waves came"
(どこどこで「小さい台風がありました」、「氷が降りました」、「地面が動きました」、
「大きな波がきました」)
と説明するように心がけてください。
"Small typhoon? That is called a 'tornado'" (小さい台風?それは竜巻だ)
と毎日の会話の中で教えてもらえれば、語彙も日ごとに増えていきます。
もう少し上達してきたら、新聞やテレビ、インターネットのニュースに注目しましょう。
最初は自分に興味のある分野を選ぶと、とっつきやすいかもしれません。
いつ(When)、誰が(Who)、どこで(Where)、何(What)を、なぜ(Why)、どうした
(How) (5Ws & 1H)という基本情報(Essential Element of Information: EEI)を説
明するのです。
母国語のレベルを下げ小学生でも分かる言葉を使うのがコツです。
仮に同時多発テロが昨日のことだったとしたら、こうなります。
Yesterday, terrorists flew passenger planes into the World Trade Center
Buildings.
WTC が分からなければ、「アメリカで一番高いビル」で良いのです。
Passenger や Planes を知らなければ「飛行機」でかまいません。
動詞があやふやなら collide(ぶつかる)や go into(突入する)でも意味は通じます。
留学する機会があれば、大学対抗弁論大会のクラスをとるのも一考です。
カリフォルニア州立短大の一年生当時このクラスをとりましたが、実は授業内容のパンフレット
をろくに読まないで登録したからです。
Introduction to Intramural Debate & Public Speech(初級学内弁論大会)とIntroduction
to Intercollegiate Debate & Public Speech(初級学校対抗弁論大会)の違いを説明され、
早々に尻尾を巻いたのですが、担当教授は、
Don't worry about grades. Just try it.
(成績は気にしなくて良い。やってみなさい)
と譲りません。留学生が学校対抗弁論大会に出るのは初めだったので、限られた語学力でどこ
までやれるか見てみたかったのでしょう。
結局、一回弁論大会に出れば及第点をくれるという言葉にのせられました。
弁論大会の手順は、くじ引きで与えられた3つのトピックから1つを選び、5分間の準備で5
分間話すというものでした。
ほかの大学の参加者たちは課題を与えられるや、トピック別にまとめられた新聞、雑誌の記事
を大きなカバンから取り出して一心不乱に読み始めます。
メモを取る者もいます。ぼくは持ち合わせの資料もありませんでした。あったにせよ、読む余
裕はなかったでしょう。
英語が母国語の、しかも百戦錬磨の弁士たちを前に萎縮(いしゅく)してしまっていました。
ほどなくして引いたくじには Dolly Patton(ドーリー パットン:有名なカントリーウェスタ
ン歌手)、draft(徴兵制度)、そして FRB(連邦準備制度委員会)とありました。
大雑把な意味すら分からない単語ばかりでした。
何について話せばいいんだ!棄権しようか?逃げてしまおうか?
つのる焦りに準備の5分は瞬く間にすぎました。
どう転んでも大失態は目に見えていました。
崖っぷちまで追い詰められ、そして思ったのです。
同じ恥をかくなら、ただ突っ立っているより何か言ってやろう!当たって砕けろ!
(Go For Broke!)
スタートのブザーが鳴りました。
次の数分間、留学生にとって英語がどれほど難しいか、文化の違いでまごつくことがいかに多い
か、そして、勉強に時間をとられて一般常識まではなかなか手が回らないことを体験から話しま
した。
いつまでたっても課題に触れないので、審査員たちは怪訝な表情でした。あと5秒になったとこ
ろで、
That is why I could not talk about any of the topics today. Honestly,
I don't even
know what they mean.
(そういう訳で、今日のトピックについて話すことが出来ませんでした。実を言うと、課題の
意味すら分からないのです)
と結びました。
審査員たちは顔を見合わせ、そして笑い始めました。
観客席から拍手が聞こえました。担当教授でした。
出口なしの状況を脱し、安堵が湧いてきました。この体験で、英語に度胸がつきました。教科書
からは得られない自信でした。
好奇心にせよ、度胸にせよ、使命感にせよ、教科書を超えるための動機付けは、外国語を採点の
対象、つまり教科として見ているうちは得られません。
英語であれ、日本語であれ、ロシア語であれ、言葉は意思を通じるための道具です。
道具とは実際に使ってみてはじめて手になじみ、使い方のコツも分かってくるものです。
読者の皆さんも、このことを念頭に勉強を続けてください。
次の授業に進む。
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DLIでの授業風景はこちらからどうぞ。
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