元米軍大尉が教える!!軍隊式英会話術
メルマガ登録・解除 ID: 0000229939
元米陸軍大尉が教える!![軍隊式英会話術]
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
1時間目の授業に戻る。


【軍隊式英会話術】 vol.15

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆【軍隊式英会話術】 vol.15
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
15時間目 やめたくなったら読む話                    Takashi Kato
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


15時間目 やめたくなったら読む話



イラクでは言葉の壁(language barrier)のせいで、無為(むい)に命を落とす人があとを絶
ちません。

米軍の検問所(check point)で英語の停止命令が分からず直進し、銃撃されて死亡した妊婦や
子女の話は痛ましいものです。

戦場(battle field)という極限状況(extreme situation)での話だけではありません。
外国に住んでいると、金太郎飴のような日常(same & old everyday life)が、あるとき不意
に死神の相(deadly face)を呈することがあるのです。

もう10年以上昔のことになりますが、ルイジアナ州でハロウィーンパーティの会場と間違えて
別人の敷地に足を踏み入れた日本人留学生が射殺されました。

一説によると please(どうぞ)と freeze(動くな)を聞き違えたのだといいます。

耳が慣れないうちは区別しにくい音でしょう。ことに「どうぞ」と言われるものと思い込んでい
ると、実際そう聞こえてしまうものです。

皆が仮装するハロウィーンでしたから、突きつけられた44マグナム拳銃も、コスチュームの玩
具だと思ってしまったのかもしれません。

自分にも笑えない思い出があります。
北カリフォルニアの田舎町で射撃を始めた頃の話です。

銃は撃ったあとすぐ手入れをしないと、火薬の燃えかすがたまって錆(さび)の原因になります。
スポーツ用品店で手に入る潤滑油に Rustkiller というのがありました。Rust が「錆」で
killer が「殺し屋」だから直訳すれば「錆殺し」と仰々しいですが、ようするに錆止めです。

たまたま英語には一字違いで lust という言葉があります。これは強い性欲とか色情という意味
ですが、日本語にはLとRの発音の区別がないからカタカナで書くとどちらか分かりません。
(同様に、ドイツの古参銃器メーカーである Luger とアメリカの新興メーカー Ruger もカタカ
ナにすると同じになってしまいます。この場合はドイツのルガーとかアメリカのルガーと言って
区別するしかありません)

その日、持参したメモにもあいにくカタカナで書いてありました。応対に出てきた大柄な女主人
に言いました。
 
 Excuse me, I need Lustkiller
 (すいません、性欲抑制剤が要るんですが…)

主人の目が老眼鏡の向こう側で大きくなりました。

 What do you want, honey?
 (何がいるんだって、ハニー?)

ハニーというのは恋人に使うものだとばかり思っていたので面くらい、しかも、ただでさえ辛い
英会話でしたから、これで一気に血が登りました。
からかわれているのではないか?

疑心暗鬼になり、より正確に発音しようと舌を前歯の後ろに押し当て、ことのほかゆっくりと
LUSTKILLER と言い直したのです。

老眼鏡で拡大された巨大な碧眼(へきがん)が、ぼくの顔と大時代な機械式レジスターの下を何
回か往復しました。

 どうも様子が変だ。(Something is funny)
 なにかオカシイ。(Something is not right)
 マズイ。(Something is definitely wrong)

不安にかられ、

 I want to clean my rifles
 (ライフル銃を掃除したいんです)と言っていました。

と、主人の表情が一気にゆるみ、

 Oh, you mean Rustkiller
 (なんだ、錆止めのことなのね)

と言って笑い出しました。

その日はわけが分からず、潤滑油だけもらって帰宅しました。
「たかがオイル一缶に…」
延々とつづく英語との格闘を思いやり、やれやれという気持ちでした。

後日この店に弾薬も買いに行くようになり、馴染み客になりました。あるとき女主人が言いま
した。

 "Honey, when you said you wanted "Lustkiller" the first time you came, I had to
  think hard if I should grab my .357 underneath the rigister, you know"
 (ハニー、あなたが最初に来て、性欲抑制剤がいるんだと言ったとき、レジスターの下の
  357マグナム拳銃を取ったものかどうか迷ったわ)

表情はなごんでいましたが、彼女は南部出身の気丈な未亡人でしたから、冗談や誇張ではない
のは分かりました。

LとRの発音を混同したばっかりに、危うく銃を向けられるところだったのです。
運が悪ければ撃たれていたかもしれません。

英語を学ぶにはカタカナを使ってはいけない。日本語の表記では表せない音があるからです。
発音の大切さを、文字通り身をもって学ばされた一件でした。

同様の理由から、DLI(アメリカ国防省外国語学校)の学生にもひらがなカタカナは最初の
2週間でマスターさせています。アルファベットと使っていると、いつまでたっても日本語の
発音ができないからです。

例えば固有名詞だが、「加藤」「宮田」「ニコン」をローマ字で表記する癖を温存すると
「Kato:ケイトー」「Miyata: マイヤタ」「Nikon: ナイコン」という訳の分からない名前にな
ってしまいます。

「竹下」など下手をすると「Take shit a: テイク シット」つまり「排便する」という飛
んでもない意味にもなりかねないのです。

「病院」と「美容院」の違いは表意文字である漢字なら一目瞭然ですが、音のみを表すアルフ
ァベットでは区別がつきにくいものです。

デートの前のオメカシに美容院に行くつもりが病院に連れて行かれたり、食中毒で往生してい
るのに美容院の軒先に置いていかれることにもなりかねません。

米軍連絡士官(liaison officer)が「士官クラブ(Officers' Club)に連れて行ってくださ
い」を「痴漢クラブ(pervert club)に…」とやったら新聞沙汰です。

すし屋で勘定を頼むとき、英語の how much? がハマチに聞こえ、英語なまりの ikura?
が「イクラ」に聞こえ、いつまでたっても帰れないというジョークもあるくらいです。

しょうじょ(少女)としょうじゅう(小銃)も間違えやすいし、ほへい(歩兵)とほうへい
(砲兵)を区別できないと語学兵は仕事になりません。

そうは言っても、学校で学んだ外国語から完全にアクセントを消し去ることはできません。
ある意味でその必要もないのです。

ことに英語は世界各地で使われてきた言葉ですから、長く大英帝国の植民地だったインドにイ
ンドなまりがあるのも必然なら、スウェーデンなまりやロシアなまり、日本語なまりがあって
もおかしくないはずです。

お国柄が出て、むしろほほ笑ましいぐらいです。
しかし、上記のような誤解を避けるためには、ポイントを押さえた発音練習が必要です。
ここで言うポイントとは日本人が間違えやすい音のことです。

前述のLとRを含む単語、原語と著しく異なる音、たとえば thrill(スリル)、?thoroughbred
(サラブレッド)、three (スリー)の th や career(キャリア)の ca また hamburger(ハ
ンバーガー)やMcDonald's(マグドナルド)の Mcなどに注意する必要があります。

口の開け方、舌の位置などの要領が飲み込めたら、あとは気が遠くなるような反復練習に尽き
ます。

サッカー選手の華麗なドリブルしかり、ピアニストの繊細な指さばきしかり、体操選手のサマー
ソルトしかり、プロはその動作が無意識に完璧に確実に、何回でもできるようになるまで練習を
重ねます。

マスターした後も、技量維持の練習を欠かしません。身体に覚えさえるとか筋肉に記憶させる
(muscle memories)というのはこのことです。

考えてみれば声帯(vocal code)も筋肉なのですから、発音を覚えスムーズにするためには、
その音を声帯に浸み込ませるしかありません。人にもよりますが、難しい単語や句なら数百回の
反復が必要です。

確かに退屈な作業(boring work)です。
しかし、これが「英語という大きな池に飛び石を置く」ということなのです。
石の数が増えるにしたがい動ける土地が増え、単語レベルから文章レベルに、やがては文節単位
で話せるようになります。

声帯が英語の音に慣れるほど、発音も楽になります。

 「英語で話せるようになりたい!」
 (I want to speak in English)

この情熱が強いだけ、飛び石の数も速く増えます。


次の授業に進む。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

DLIでの授業風景はこちらからどうぞ。
DLI写真館

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【著書の紹介】
米軍将校時代の体験をまとめた本「名誉除隊-星条旗が色褪せて見えた日-」を発売してい
ます。
興味のある方はぜひご一読下さい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
topに戻る