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◆【軍隊式英会話術】 vol.13
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恋は英語で!(2) Takashi Kato
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13時間目 恋は英語で!(2)
外国語を学ぶとき、もっとも大切なのは動機付け(motive)です。
「英語が話せるようになりたい」「外国で生きてみたい」「英語で意志を伝えたい」「異郷で
恋に落ちてみたい」という強烈な願望(strong desire)、つまり情熱(passion)です。
情熱があれば努力ができるのです。
(If you have a passion, you can make efforts)
勉強が辛くなったとき、やめてしまいたいとき踏ん張りが利くわけです。
語学は粘りです。(Learning a language is a matter of tenaciousness)
天才(genius)も度外れた適性(extraordinary aptitude)も必要ありません。粘りがあれ
ば外国語は7割がたものにしたも同じなのです。あとの2割は「こういうことを外国語で言っ
てみたい」という知的好奇心(curiosity)。そして残り1割が上達のための技術(technique)
、つまりコツ(knack)でしょう。
しかし、ぬるま湯のような動機付けでいくら技術だけ学んでも、それでは小手先の誤魔化しで、
ものにはなりません。
心底から言いたいこと、分かってもらいたいこと、分かりたいこと、伝えたいことがなければ、
どのようなコツも宙に浮いてしまうからです。
他人を理解し、自分を理解させるのであれば、恋ほど理想的な動機付けはありませんね。外国語
が苦手ならばなおさらです。宿題なら辛くて投げてしまう英作文も、したためる相手が意中の人
なら自ずとやる気が湧いてくるものです。
会話練習にしても、思いのたけを伝えたい熱い気持ちが、教科書には載っていない大胆で新鮮な
表現を思いつかせてくれることだってあるでしょう。
ぼくにも覚えがあります。70年代末、北カリフォルニアの田舎町で孤立無援の留学生活を送っ
ていたころのことです。
連日、目覚めてから眠りに落ちるまで、語学の三重苦、つまり「聞けない、話せない、読めない」
に悩まされていました。
当時はタバコを吸っていたのですが、コンビニで英語を話すのが嫌でやめてしまったほどです。
里心(homesickness)がついて旅行代理店に行ってはみたものの、応対に出たエージェントが
ぼくの発音を解せず航空券は買えずじまい、というオチまでついてきました。
そんなある日、大学の留学生課が個人教師(tutor)を斡旋してくれたのです。カフェテリアで待
っていたのは、図書館でよく見かける知性的な感じの女性でした。
キャンパスを闊歩する、開けっぴろげで陽気で、太陽(sunshine)みたいに輝くカリフォルニア
娘ではありませんでした。一目見たときから、穏やかな月光(moonlight)にも似た雰囲気に興
味を引かれました。
大方のアメリカ人学生は英語の苦手な留学生を前にすると大声になりがちでした。「分からない
のはよく聞こえないから」という早とちりで、英語は世界語だと信じる単一言語主義者
(monolingualist)らしい単純さです。
しかしこの娘は違いました。いつまでも静かに耳を傾けてくれたのです。彼女の前だと、たどた
どしい英語(broken English)が恥ずかしくありませんでした。
おのずと留学生たちの間でもっとも慕われる個人教師でした。そんな彼女の注意を引きたいばか
りに、与えられた宿題以上に勉強をこなし、毎回なにかしら気の利いたことを言おうとしました。
そして気がつきました。英語だと、日本語でなら赤面して言えないようなセリフが自然に出てく
るのです。まだ感情移入ができていなかったせいもあったでしょう。
しかし、英語は契約社会の中ではぐくまれてきた言葉なので、直裁で実用的(straight and
practical)、つまり、情緒的な日本語より曖昧さが少ないのです。
ですから日本人でも、元来自己主張を恐れないタイプは、むしろ英語のほうがいきいきと話すこ
とができるのです。ぼくもそんな一人だったようです。
You are the most wonderful teacher I have ever met
(あなたのような素晴らしい先生には会ったことがありません)
You are smart and beautiful
(あなたは頭が切れるうえに綺麗だ)
I like you so much
(あなたのこと、大好きです)
などと言って嬉々とし、ひとり胸を高鳴らせました。苦痛だった英会話が、みるみる楽しくな
っていきました。
あるとき返してもらった宿題の最後に走り書きがあった。
I too am fond of you very much, Takashi.
とありました。辞書を引いてみて驚きました。「わたしもあなたがとても気に入っているわ」
という意味だったからです。
"I am fond of you"
何度も繰り返して言ってみました。
歓喜と期待が湧き起こり、こめかみが疼きました。その瞬間、めくるめく悦楽のなかで、英語
を英語のまま感じていました。(I felt in English)
翌日カフェテリアで会ったとき、意を決して言ってみたのです。
"I am fond of you"
驚きの表情が、すぐ微笑みに変わりました。
"Way to go, Takashi"
(その調子よ、タカシ)
真摯な笑顔でした。
叫びだしたい衝動をかろうじて抑え、キャンパスに走り出ました。陽だまりで遠くの山々を見
やると、飼いならされていない大自然が手の届くところにありました。
「アメリカも悪くないか」
(After all, America is not that bad)
と思い始めている自分がいました。
"Way to go, Takashi"
(この調子だぞ)
英語が好きになれそうな予感がしました。
次の授業に進む。
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