元米軍大尉が教える!!軍隊式英会話術
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元米陸軍大尉が教える!![軍隊式英会話術]
   
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【軍隊式英会話術】 vol.43

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◆【軍隊式英会話術】 vol.43
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軍法会議通訳                          Takashi Kato
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43時間目 軍法会議通訳


古い兵舎(old barracks)を改造した法務部(Staff Judge Advocate)の建物にやってき
ました。

入りざま、オレンジ色のツナギ(orange jumpsuit)の若者が両脇を憲兵(military police)
に挟まれて出てきました。両手には手錠(handcuffs)、腰にも縄が回されています。
ここはサンディエゴに近い南カリフォルニアの海兵隊基地(Marine Corps Camp)。
軍法会議(court martial)で証言する日本人女性の通訳が今回の任務です。

実戦部隊(line unit)が駐屯している基地だけあって、DLIのような学校とは空気が違い
ます。よく言えば将兵たちの顔に活気(spark of life)がみなぎっています。
しかしそれは、間もなく戦地に赴く者たちの、平和や命への希求(desire for peace and
life itself)なのかもしれません。

年季の入った下士官(seasoned NCOs)たちの入れ墨(tattoos)も、若い語学兵や士官が
多いDLIでは見慣れないものです。

 "Thank you for coming. I am Lieutenant JG Gibson, Judge Advocate officer.
  I am a defense counsel"

鼻から耳慣れない軍事用語(military terms)が出てきました。
Lieutenant JG は lieutenant Junior Grade の略で、海軍独特の階級名です。
陸軍、空軍、海兵隊では First Lieutenant と呼ばれています。中尉のことです。
Judge Advocate は法務官、つまり軍隊の法律家です。(よく来てくれました。ギブソン中尉
です。弁護側の法務官です)

 "This is Lieutenant Commander Smith, the prosecutor"
 (こちらはスミス少佐です。検察官です)

Lieutenant Commander も海軍の階級で陸軍、空軍、海兵隊の Major と同じです。
海兵隊には法務部がないので、海軍の法務官が軍法会議を担当するのです。

 "How do you do, gentlemen. I am glad to be of your help"
 (初めまして。お役に立てて嬉しいです)
 "First of all, we will swear you in. Please follow me"
 (では宣誓してもらいますので、付いてきてください)

今回の任務では、"swear" という動詞は頻繁に使われます。「ののしる」とか「毒づく」
という意味もあるのですが、もちろん裁判所では「断言する」とか「誓う」のほうです。

法務官たちの後について法廷(court room)に入ります。傍聴人席(spectators' seats)
の先に小さな木製の門があります。映画で見るのと同じです。この内側が法廷です。
正面奥に一段高くなった席があり、裁判長(judge)が座っています。海軍中佐
(commander)です。
その左が証人席(witness stand)で右に書記官(clerk)が座っています。
部屋の右側半分は二段の席になっています。ここが陪審員席(jury box)です。数人の海兵
隊員の男女が座っています。階級は下士官と士官が半々です。

宣誓(oath)がすむと証人喚問(testimony)です。東洋人女性がうつむき加減で入ってき
ました。目礼しながら「お願いします」と消え言えるように言いました。
検察官(prosecutor)が演壇(podium)について証人(witness)を見つめます。一言も
聞き逃さないよう、気持ちを引き締めて。

 "Mrs. Homes, please stand up and raise your right hand"
 「ホームズさん、お立ちになって右手を上げてください」

その調子です。言葉だけに頼らないで、状況に関する知識も使って通訳してください。

 "Do you swear that the evidence you shall give in the case now in hearing shall
 be the truth, the whole truth and nothing but the truth?"

これはアメリカの裁判モノ映画で何回も聞いたことがありますね。
キーワードは "the truth, the whole truth and nothing but truth" です。かなりくどい英
語的表現です。

直訳すれば「真実を、すべての真実を、真実のみを」ですが、要するに「真実だけを包み隠さず」
ということです。証人に分かりやすく通訳してください。
「この裁判で、真実だけを包み隠さずありのままに告げることを誓いますか?」

「はい、誓います」
 "Yes, I will"

 "Please be seated"
「座ってください」

そうです。通訳は本人たちが行った通りを一人称(the first person)で言えばいいのです。
弁護人の中尉が、人物確認の質問を終わりました。

 "Your witness"

中尉の声に、検察官が立ち上がりました。反対尋問(cross-examination)です。

 "Mrs. Homes"
「ホームズさん」

 "On the 15th of April this year, do you remember where your husband was
  in the evening?"
「今年の4月15日の夜、ご主人がどこにいたか覚えていますか?」

「はい、覚えています」
 "Yes, I do"

 "Please tell us where your husband, Sergeant Homes, was"
「ご主人であるホームズ軍曹がどこにいたか教えてください」

「主人は夜勤に行っていました」
 "My husband was on night duty"

そうですね。軍隊の場合は "night shift" より "night duty" の語感が適当です。

 "Mrs. Homes, what did you do that night?"
「ホームズさん、その晩、何をしましたか?」

「仕事をしました」
 "I worked"

 "Where did you work?"
「どこで?」

「レストランで」
 "At a restaurant"

 "What is the name of the premises?"
「なんという店ですか?」

「ワサビです」
 "It is called Wasabi……meaning horseradish"

検察官の顔に浮かんだ疑問を素早く読み取りましたね。上手くなってきました。その調子です。

 "Mrs. Homes, do you have children?"
「ホームズさん、お子さんがいらっしゃいますか?」

検察官が突然話題を変えて切り込んできました。注意を集中してください。

「はい。2人です」
 "Yes, we have two"

 "How old are they?"
「おいくつですか?」

「息子が2歳で娘が1歳です」
 "Our son is 2 and daughter is 1"

 "Did you have a baby-sitter that night?"
「あの晩、ベビーシッターを雇いましたか?」

「いいえ、いつもの人が来られなかったんです」
 "No. The usual baby-sitter could not come"

 "So what did you do with the children?"
「では、子供たちをどうしたんですか?」

「夫のところに連れて行きました」
 "I brought them to my husband"

 "Have you done this before?"

 "Objection, your honor! Not relevant to this case"
「裁判長、異議あり!本件に関係ありません」

弁護人が立ち上がって証人の答えを止めようとしました。反射的に通訳できました。上出来です。

 "Overruled. Mrs. Homes, please answer"
「異議を却下する。ホームズさん、答えてください」

裁判長が促しました。

「前にもこうしたことがありますか?」

「こうしたことって?」
 "What do you mean by 'like this'?"

証人の疑問もうまく伝えられました。裁判の公正さのために、きめ細かく意思の疎通を図って
ください。

 "Have you ever left your children with your husband on night duty before the 15th
  of April this year?"
「夜勤についているご主人に、今年の4月15日以前にも子供を預けたことがありますか?」

「いいえ、ありません」
 "No, I have not"

 "What time did you leave the children with your husband?"
「何時にお子さんたちをご主人に預けましたか?」

「お店に出たのが5時ですから、4時30分ぐらいです」
 "Since I arrived at the restaurant at 5, it was about 4:30"

 "Did you go into your husband's place of duty?"
「ご主人の持ち場に行きましたか?」

「いいえ、主人は外の駐車場で待っていました」
 "No. My husband was waiting at the parking outside"

 "What time did you pick them up that night?"
「その晩、何時に子供さんたちを迎えに行きましたか?」

「11時半ごろです」
 "About 11:30"

 "Did Sergeant Homes tell you that he had been in trouble because of the children?"
「ホームズ軍曹は、子供のことで困ったことになったと言っていましたか?」

「はい。そう言っていました」
 "Yes, he did"

軍曹はこの晩、当直下士官(Staff Duty NCO)だったのです。
これは、皆が寝静まったあとも一晩中、兵舎の保全を一身に預かる任務です。
事故や事件が起こった場合、上官に連絡して指示を仰ぐ役割です。戦時(wartime)ですから
、海兵隊の兵舎を狙ったテロは充分考えられます。
そこに乳幼児(small babies)を連れてくれば、仲間と子供たちの安全をないがしろにするこ
とになります。

下級下士官 (Junior NCO)とはいえ, ホームズ軍曹の行動は明白な命令違反(Disobedience
to orders)です。

 "The prosecution has no more questions at this time"
「これで検察側の質問を終わります」

裁判長が休廷(recess)を宣し、陪審員(jurors)が別室に移りました。裁判長が退廷したあ
と、弁護士がやってきて証人に話し始めました。弁護士のうしろに立っている若い海兵隊の軍曹
がご主人のようです。

 "Mrs. Homes, the jury will start deliberating soon"
「ホームズさん、陪審員がもうすぐ評議を始めます」

 "It might take 30 minutes or 3 hours. We don't know"
「30分ですむかもしれないし、3時間かかるかもしれません」

「はい」
 "I see"

 "All we can do now is to wait"
「いま出来るのは待つことだけです」

 "We will call you when they reach a verdict. Depending on it, we might ask you
  to testify again"
「評決が出たらお呼びします。結果によってはもう一度証言してもらうかもしれません」

証人は頷くと、夫の方を見てから歩き始めました。通訳も、彼女と一緒に待つしかありません。

再び法廷です。裁判長が証人に向かって言います。

 "Mrs. Homes, please be reminded that you are still under oath"
「ホームズさん、宣誓したことを忘れないでください」

「はい」
 "Yes"

弁護人が立って質問を始めます。

 "Mrs. Homes, the jury found your husband, SGT Homes, guilty of disobeying orders.
  He might go to jail for that. Do you understand that?"
「ホームズさん、陪審はあなたのご主人であるホームズ軍曹を命令違反で有罪との評決を下し
ました。刑務所に行くことになるかもしれません。お分かりですか?」

「はい、分かっています」
 "Yes, I am aware of that"

 "Before sentencing, do you have anything to say?"
「判決言い渡しの前に、なにか言うことはありますか?」

証人の肩が震えています。感情に流されないで、きっちり通訳してください。

「夫は間違いを犯しました。それは私にも分かります。でも、ホームズは良い父で、優しい
  夫です」
 "My husband had made a mistake. Even I know that. But he is a good father and
  gentle husband for me"

「彼は、いつも子供に本を読んであげたり、一緒に遊んだりしてくれます。沖縄にいた時は、
  私の父や母の面倒も見てくれました」
 "My husband always reads books for our kids and plays with them. When we were in
  Okinawa, he even took care of my parents"

 "Are you concerned that SGT Homes might lose his job?"
「ホームズ軍曹が仕事を失うかも知れないと不安ですか?」

弁護士が聞きます。若い未経験の中尉は感情を押し包むことが出来ません。本人も悲痛な表情です。

「はい、とても。私は1カ月に500ドルしか収入がありません。夫が刑務所に入ったら、
  どうしたらいいか……」
 "Yes, very much. I earn a mere 500 dollars a month. If my husband goes to jail,
  I don't know what to do....."

気丈な婦人の忍耐もそこまででした。嗚咽(sobbing)がしんとした法廷内に響きます。誰も何
も言いません。言えません。裁判長も唇を噛んでいます。

 "I have no more questions, your honor"
「裁判長、これで質問を終わります」

 "Mrs. Homes, you are excused"
「ホームズさん、退廷してけっこうです」

裁判長の声に、証人が一礼して立ち上がりました。ハンカチで目頭を押さえてい
ます。

このあとは、陪審の評決(verdict)と証人による最終弁論を考慮し、裁判長(judge)が判決
を言い渡します(sentencing)。もう、証人が証言することはありません。任務は終わりました。
 "Thank you for your interpretation. Your service was indispensable for the fair trail"
「通訳をありがとうございました。あなたの貢献は、公正な裁判に不可欠なものでした」
弁護士も検察官も異口同音に繰り返します。

判決がどうなるのか、若い日本人女性の将来がどうなるのか、正直言って最後まで見届けたい
思いです。しかしそれは私情(personal feelings)です。後ろ髪を引かれますが(with much
hesitation)、法廷を後にするしかありません。任務は完了しました。(Mission Accomplished)


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