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◆【軍隊式英会話術】 vol.18
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聴解が一番難しい Takashi Kato
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18時間目 聴解が一番難しい
外国語を習うとき何が辛いと言って、聴解練習(listening)ほどフラストレーションがたまる
ものはありませんね。
大人にとって、同じ音を際限なく聞き続ける練習は機械的で退屈かつ苦痛です。だからついつい
後まわしにしたり、手を抜いたりしてしまうのです。
DLI(アメリカ国防省外国語学校)の学生にも、せっかく63週間にわたる試験漬けの日々に
耐えながら、たった1点の差で聴解検定に落ちる者が少なくありません。
卒業後、皆一様に「聞き」の難しさを口にします。なぜでしょう?
漢字が難しいとはいっても、読解練習(reading)には「もの」があります。
手にとって読み、漢和辞典で調べ、文法を駆使して理解することもできます。絵心のある学生な
ら、漢字を美しいデザインだと感じることだってあるでしょう。
漢字という表意文字に慣れ親しんだ日本人が、アルファベットの綴りを覚えるのは勝手が違いま
すが、勉強する「もの」があることに変わりはありません。
ところが、日本語にせよ英語にせよ、聴解は音が消えてしまえば何も残りません。
相手の声帯から発せられた音が鼓膜に届く。この時、音と意味が瞬時につながらなければそれで
終わりです。
待ったなしの一発勝負。一瞬で勝敗が決まるスポーツにも似ています。
そのうえ、リスニングを毎日続けるためには自分を律する厳しさが要ります。
グリーンベレー、レインジャー、海軍特殊戦部隊、戦闘機パイロットらは、熾烈な戦場で超人的
な忍耐力を見せるツワモノたちですが、彼らにとってすら、身の危険も軍規もない快適な自宅環
境で、毎晩3時間机に向かうのは容易なことではないのです。
こう考えると、聴解が一番難しいというのも頷けます。
「ネイティブの発音は、音と音がくっついていて理解できない」とよく言われます。
外国人と話した体験があれば誰もが持つ印象です。
しかし英語圏に住み始めて四半世紀が経ったいま、競りや競売(bidding & auction)で使われ
る英語を除けば、言葉の切れ目が分からないことはなくなりました。
また、DLIの学生が「消火栓から出る水柱のようだ」という日本語を改めて聞いてみると、きちん
と合間がとってあります。
ではなぜ、初心者の耳には、ネイティブの発音が川の流れのように聞こえるのでしょう?
その答えは、次の体験の中にあるかもしれません。
中学生のころ、私はFEN(極東放送)という米軍のラジオを聴いていました。アメリカの歌謡ヒ
ットチャートを聞くためでした。これは日本版のものより数週間早く、生のアメリカに触れられ
るのがうれしかったのです。
最初、切れ目ないメロディにしか聞こえなかった局名クレジットの部分を、1年たったころから
口ずさむようになりました。意味も分かっていました。
いまでも覚えています。
「ディス イズ エフ イー エヌ、ファー イースト ネットワーク、アメリカン
フォースィーズ レイディオ」
(This is FEN. Far East Network. American Forces Radio: こちらFEN。極東放送、米軍ラ
ジオです)でした。
同じようなことは、当時大ヒットしたビートルズの名曲「LET IT BE」でも体験しました。
両者に共通しているのは、英語の音が自然に口をついて出るようになるまで繰り返したこと、そ
して、単語の意味が簡単だったので、音と意味がほぼ完全に融合していたことです。
「レッイッビー」という音が鼓膜を振動させたとき、それが Let It Be であり「なるがままに」
という意味だと分っていたので、単なる切れ目ない音として流れ去ってしまわなかったのです。
残念ながら、これらは2つの孤立した特例だったので、英会話に役立つ聴解能力にはつながりま
せんでした。
だからアメリカにやってきたとき、未知の音の洪水に見舞われて動転、落胆、失望し、ふさぎ込
んで出不精になってしまったのです。
しかしいま振り返ってみると、その後の日常英会話に慣れるプロセスも、中学時代と同様のコー
スを辿りました。
例えば毎日の挨拶である「ファッツ アップ」が What's up? で 「ファッゴーインオン」が
What's going on? 「ハウズライフ」が How's life? だと分かり音が声帯に浸み込んで
いくと、耳にもいつしか分かれて聞こえるようになりました。
逆に言えば、友人から「アイガッタゴー ウォナライド」(行かなきゃならないんだけど、乗っ
ていく?)と声をかけられたとき「どこかで聞いた言葉だ。意味は何だった?」と考えているう
ちは音の流れを止めることができず、その速さに理解がついていきません。
ネイティブの発音を静止させる秘訣は、英語の音と意味を完璧につなげることなのです。
そのためには、まず音を声帯に記憶させます。水泳のフォームや習字と同じで、考えないででき
るようになるまで繰り返してください。
毎日の生活でも授業でも英会話学校でも、分からない表現に出くわしたら、すぐさま手帳に書き
込み意味を調べてください。
例えば「アイガッタゴー ウォナライド」が I have got to go. Do you want a ride? のア
メリカ的口語表現だと分かったら、あとは全文暗記です。
このとき、かかる時間を勉強の成果を同一視してはいけません。ゴールは綴りと発音を完璧に自
分のものにすることで、それに5分かかるか2時間かかるかは、聞く能力向上とはまったく関係
ないからです。
暗記達成と勉強時間を混同すると「2時間も勉強した」という疲労や満足を、まだ身についてい
ない語学力と錯覚してしまいます。
そうなるとあとでひどく落胆します。思い込みの仮想能力(imaginary ability)は本来の学習
を妨げ、途中で英会話を投げ出してしまう一因になります。
留学当初、心理学のクラスで schizophrenia( 統合失調症:以前は精神分裂症と呼ばれていた)
という言葉を覚えなければならないことがありました。
難しい言葉でししたから自宅の勉強だけでは足りず、キャンパスを移動中もカフェテリアで休憩
中も念仏のように、
「スキツォーフリーニア、スキツォーフリーニア、スキツォーフリーニア」と唱えたものです。
当然、まわりのアメリカ人学生は変な目で見ましたが、覚えるためにはそうするしかなかったの
です。
ほかの幾百の単語や熟語や慣用句にしても同じでした。外国語をマスターするとは、こういうこ
との地道な積み重ねなのです。
音と意味をしっかり結び付けるには、文章の中で覚えるのが一番です。文脈が記憶を補強してく
れるのです。
例えば disintegrate(分解する。バラバラになる)という動詞を覚えるのであれば、これが使
われた短文の新聞記事をインターネットの辞書や検索で探すと良いでしょう。
例えば
Upon reentry into the atmosphere, Space Shuttle Columbia disintegrated
midair.
(スペースシャトル コロンビア号は大気圏に再突入した際、空中分解した)
という文章が目に付いたら、これを空で言えるようになるまで繰り返します。
こうすると、主語である<コロンビア号>と<空中分解>という動詞が事実を通してつながり忘
れません。
火の玉となって飛散するシャトルのイメージも長期記憶の一助となるでしょう。
同時に反意語 integrate(統合する。ひとつにする)もペアで覚える癖を付けてください。
ひとつの基盤に集められた回路、つまり集積回路が integrated circuit なのだと分かれば記
憶の中に<分解する、統合する>という漢字ネットワークができます。
ネットワークが広がるにつれ、ネットに引っかかる語句の数も増えていく仕組みです。
それでも習い始めの頃は、会話を交わす相手によって分ったり分らなかったりするものです。
音を聞いてから意味を探し出すまでに時間がかかりすぎるので、相手の発音が不明瞭だったり早
口だったりすると、とたんに理解が鈍るせいです。
しかし、音と意味の融合が深まるにつれ、相手による理解度の差はなくなるものですから心配に
は及びません。
地道な聴解、発音、語彙増強練習を根気よく続けていくと、英語と言う池に置かれた飛び石
(音と意味がつながった単語や句)が増えていきます。
飛び石がある一定数を超えたとき「英語と言う埋立地」で床体操や全力疾走ができるようになり
ます。
聴解能力が爆発的に伸びるのはこの瞬間です。
その時まで、弓を引き絞る弓道修練のイメージを心に浮かべ、飛び石の数を増やしていってくだ
さい。諦めさえしなければ、英語は必ず聞けるようになります。
次の授業に進む。
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DLIでの授業風景はこちらからどうぞ。
http://www.namiki-shobo.co.jp/gntaisiki/guntaiphoto.html
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DLIでの授業風景はこちらからどうぞ。
DLI写真館
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【著書の紹介】
米軍将校時代の体験をまとめた本「名誉除隊-星条旗が色褪せて見えた日-」を発売してい
ます。
興味のある方はぜひご一読下さい。
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