●序 文
本書は、第二次世界大戦に参加した各国将兵のユニフォームをわかりやすく解説したガイドブックである。全ページにわたって質の高いフルカラーのイラストレーションを使い、ユニフォーム自体やその製造法、素材、特徴について述べるだけでなく、ユニフォームに使われたさまざまな色のパイピングや記章、勲章などについても詳細に解説している。イラストレーションにそえた文章は、当然ながら被服自体についての解説にとどめたが、スペースが許すばあいには、あの史上最大の戦争に参加した陸・海・空軍の各部隊の編制であるとか男女の戦闘員が使用した武器といった細部にも触れた。ある戦域で特定の部隊が使用したユニフォームを取り上げた箇所では、その部隊が参加した戦闘についての情報も織りこむことにした。その理由は二つある。まず第一は、最大限の情報を提供することで、イラストで示された戦闘員の姿がより鮮明に浮かぶと考えたからである。もう一つの理由として、本書では戦死傷者の数を上げることによって、軍隊というものは戦い、必要とあれば死ぬために生まれた集団であることを読者に思い起こしてもらいたかった。
熾烈な戦闘に従軍する将兵にとっては、被服のどんな欠陥もたちどころに明らかになった。ただし忘れてならないのは、開戦当時、ほとんどの国では、第一次世界大戦以前に採用された制服を使用していたという事実である。それに加えて、天候や戦闘による消耗で、本書で取り上げたユニフォームのコンディションは、急速に悪くなっていった。1943年2月にスターリングラードで降伏したドイツ第6軍の将兵は、ぼろぼろになった制服を身にまとい、まるでホームレスの集団のようだった。
戦争が進むにつれ、主要交戦国の軍隊は現代戦に向いたユニフォームを採用するようになり、なかでもアメリカ軍とソ連軍は1945年には実用性の高い被服を着用していた。1944年までにあらゆる物資の欠乏に悩まされるようになっていたドイツ軍でさえ、現代でも通用するようなスタイルの迷彩服を将兵に支給している。とはいえユニフォームの違いにかかわらず、あの戦争で数百万という将兵が命を落としたことは忘れてはならない。 ピーター・ダーマン
●監訳者のことば
本書は、1998年にイギリスで出版されたUNIFORMS OF WORLD WAR U を全訳したものである。ここには第2次大戦に参戦した約30カ国の陸海空軍の軍装がオールカラーで270点以上収録されている。
これまで、筆者はヴェトナム戦争に限らず米軍全般のユニフォームについて読者から質問されることはあったが、最近では第2次大戦のフィンランド軍の軍装やイタリア陸軍の迷彩服についてたずねられることがあり、返答に困るケースも少なくない。それだけ読者の興味が広がってきている証拠であるが、本書はそうした主要参戦国以外のユニフォームに興味をもつ軍装ファンにも、またとない資料となるだろう。
さらに、本書を手にしていただければ分かるように、この日本版では訳者注として多くの補足説明がなされている。これは訳者である北島護氏の軍装に関する広範な知識によるものと言える。北島氏はこれまで同ミリタリー・ユニフォーム・シリーズの第4巻を除く全巻を翻訳しており、各国軍装に関して日本でも有数な専門家の一人といえるだろう。おかげで監訳者としての私の仕事は、原著書のテキストの誤りと訳文の用語の統一について指摘するにとどまったことを申し添えておく。
機能的で、しかも格好の良いユニフォームは、味方の士気を高めるだけでなく、敵に畏怖の念を与えるものである。逆に言えば、強敵と噂されている敵のユニフォームはその姿を見ただけで、味方の士気を喪失させかねない。また、戦場にあって、見慣れたユニフォームを着た友軍の来援ほど頼もしいものはない。同じユニフォームを着ているだけで特殊な信頼感を感じるものである。この気持ちは戦場体験者でなければわからないだろう。それほど軍人は自分のユニフォームに愛着と誇りをもっているのである。
本書で紹介されているユニフォームのなかには現在の軍隊が使用しているユニフォームの原形と思われるものも少なくない。ポケットの形や大きさ、ボタンの数や位置、素材に何を用いるかなど、どれ1つとってもそれぞれに理由がある。実戦で得た教訓が軍装品の1つ1つに活かされ、今日に至っているからである。極言すれば、伝統的に強い軍隊は、機能的で、格好の良いユニフォームを着用しているのである。そんな視点から本書を見るとまた別の発見があるだろう。末長く、本書を手元において、軍装にかんする理解を深めていただきたいと思う。 三
島 瑞 穂
●訳者あとがき
かつて第二次世界大戦の軍装に興味を持っている者にとって必携と言うべき2冊の本があった。イギリスのBlandford社から刊行されていたArmy Uniforms
of World War 2 とNaval, Marine and Air Force Uniforms of World War 2である。著名な軍装研究家のアンドリュー・モロが著したこの2冊は、第二次世界大戦に参加した20ヵ国以上の国の陸海空軍のユニフォームを写真に着色したリアルなイラストレーションと解説文で紹介した当時唯一の資料で、その内容はいま見ても色褪せていない。現在は絶版になっているようだが、この2冊で、呼び物のイラストレーションを担当していたのが、本書のイラストレーターの一人、マルカム・マクグレガーである。
モロ&マクグレガーのコンビは、その後、1981年にイギリスのOrbis社から、今度は軍装や記章のイラスト365点にくわえ、参戦国の陸海空軍の編制や戦歴などを解説した大作The
Armed Forces of World War Uを刊行する。この集大成的作品には、もう一人、イラストレーターとして、ピエール・ターナーが参加している。ターナーは、やはりBlandford社から刊行されたアンドリュー・モロのArmy
Uniforms of World War 1やブライアン・リー・デイヴィスのGerman Uniforms of the Third Reich 1933-1945でイラストレーションを担当しており、そのほかにも、イギリスの戦史家マイクル・バーソープと組んでBritish
Infantry Uniforms Since 1660、British Cavalry Uniforms Since 1660、The British
Army on Campaign 1816-1902(全4冊)などにイラストレーションを提供している。
本書は、このモロ=マクグレガー=ターナーのThe Armed Forces of World War Uの軍装イラストレーションを中心にして、それに解説を加えたものと言っていい。記述を見ると、前述のモロ氏の各著作や、やはりBlandford社から刊行されていた記章研究家グイド・ロシニョーリのArmy
Badges and Insignia of WW2(全2冊)、Air Force Badges and Insignia of World War U、Naval
and Marine Badges and Insignia of World War Uを明らかに参考にしたと思われる部分も散見される。その点では、本書は定評ある著作の集大成的内容を持っているとも言えるだろう。
ただし、ここ十数年で、軍装に関する研究は飛躍的に進歩した。とくに、ドイツ、アメリカ、イギリスといった国々の軍装については、決定版的な著作が数多くあらわれている。また、ソ連やイタリア、フランス、日本といった、これまで調査が遅れていた分野でもすぐれた著作が刊行されるようになっている。
本書の翻訳に際しては、そうした最新の研究結果や現存する実物の被服を参照しながら記述を逐一チェックし、誤りと思われるものは訂正し、記述が不足している部分については「訳者注」としてスペースの許すかぎり挿入した。したがって、かなり正確な記述になったのではないかと思っている。しかし、なにぶん扱う国が多岐におよび、複数の資料で裏づけを取れなかった場合もあるので、もし誤りが残っていれば、ご教示いただければ幸いである。
用語については、上衣やオーバーコート、個人装備などの被服の名称については、一種類に統一した。また、採用年度をあらわす記号はM19××というスタイルに統一した。ただし、ドイツ軍のM44上衣のように、より一般的な呼び方が定着している場合には、そちらを優先した。部隊名や編制単位については、国情の違いもあるので、それぞれの国で一般的な訳語を使い、あえて統一はしなかった。
翻訳作業中には、フランス軍やソ連軍の制服の資料が刊行されたり、フィンランドでタイミングよくM1936上衣の資料が刊行されたりと、運に恵まれたが、インド兵のターバンの巻き方からフランス空軍下士官の上衣のボタンの数まで調べなければならない作業は予想以上に困難をきわめた。そんななかで、日本軍の軍装に関する中西立太氏や柳生悦子氏の著作、「コンバット・マガジン」の菊月俊之氏の著述、新紀元社「第二次世界大戦軍装ガイド」など国内の著作・著述には大変助けられた。記してお礼を申し上げたい。 北島 護
●マルカム・マクグレガー(Malcolm McGregor)
写真をもとにしたリアルな軍装のイラストレーションで世界的に有名なイラストレーター。主な著書に Army Uniforms of World War 2、Naval,
Marine and Air Force Uniforms of World War 2、The Armed Forces of World U、Modern
Fighting Men などがある。本書では主に連合軍を担当した。
●ピエール・ターナー(Pierre Turner)
マクグレガーとならぶ軍装イラストレーションの第一人者。主な著書に Army Uniforms of World War 1 、German Uniforms
of the Third Reich 1933-1945、British Infantry Uniforms Since 1660、British Cavalry
Uniforms Since 1660、The British Army on Campaign 1816-1902(全4冊)などがある。本書では主に枢軸軍を担当した。
●ピーター・ダーマン(Peter Darman)
もとイギリス国防省勤務の軍事ジャーナリスト。主な著書にA-Z of the SAS、SAS-The World's Best、Surprise Attack
: Lightning Strikes of the World's Elite Forces などがある。
●三島瑞穂(Mizuho Mishima Bobroskie)
元アメリカ陸軍軍曹で特殊部隊グリンベレー在隊21年のキャリアをもつ。1959年、米陸軍に志願入隊。60〜72年、ベトナム在第5特殊部隊グループ、沖縄第1特殊部隊グループおよびMAC/SOGに在隊し、長距離偵察、対ゲリラ戦など、ベトナム戦争の全期間に従事。特殊部隊情報・作戦主任、潜水チーム隊長をへて、80年退役。現在、危機管理コンサルタントとして活躍する一方、各軍事雑誌に記事を執筆。著訳書に『グリンベレーD446』『コミック・ザ・ナム』『ヴェトナム戦争米軍軍装ガイド』『第2次大戦米軍軍装ガイド』『ヴェトナム戦争米歩兵軍装ガイド』(いずれも並木書房)、『有事に備える』(かや書房)などがある。ロサンゼルス在住。
●北島 護(きたじま・まもる)
早稲田大学第一文学部卒業。英米文学翻訳家。専門は世界の特殊部隊と英国陸軍史。訳書に『特殊部隊』『SAS戦闘マニュアル』『ヴェトナム戦争米軍軍装ガイド』『ドイツ武装親衛隊軍装ガイド』『第2次大戦米軍軍装ガイド』『実録ヴェトナム戦争米歩兵軍装ガイド』『軍用時計のすべて』『第2次大戦各国軍装全ガイド』『SAS特殊部隊員(近刊)』(並木書房)がある。
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