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軍用時計の誕生物語 |
●訳者あとがき ロレックスやバセロン・コンスタンチンといった高級時計を所有しようとすれば、それなりの出費を覚悟しなければならない。ところが、これらの時計を無料で身に付ける方法がある。それは兵士になることだ。軍用時計には、性能、価格、数量といった相反する条件を満たすことが要求される。また、一分一秒の遅れが多くの人命を奪うことにもつながりかねないだけに、民間用の時計にもまして高い技術が必要だ。この厳しい挑戦を受けて立ったのが、ロレックス、オメガ、バセロン、ロンジン、ブレゲ、ホイヤーといった、そうそうたる時計メーカーだったのである。 本書を読まれる方は、ここに登場する高級ブランドの数々に驚かれることだろう。だが、有名メーカーが今日の地位を築く理由となった精度、防水性、ハック機能、スプリット・セコンド、ウィームス・ベゼルなどの機能の多くは、軍用としての用途ぬきには発達しなかったのだ。軍用としての要求にこたえることでメーカーは技術を磨き、そしてそのことを誇りとした。それは、広告や文字盤に軍納入の事実が高らかに謳われていることでも明らかだ。軍用時計は現代の高性能時計のルーツなのである。 本書はそんな軍用時計の魅力を、かずかずの実例をもとに紹介する好著である。1996年にイギリスで刊行された A Concise Guide to Military Timepieces 1880-1990 を翻訳したもので、著者はポーランド系のイギリス人だ。著者の執筆の目的は、著者紹介によれば、これまで不当に低く評価されていた軍用時計の地位を向上させることにあるという。 たしかに、軍用時計は装飾性という点では民間用の時計にくらべて地味であるし、複雑なギミックもない。しかし、それはムダな機能がいっさいないからだ。軍用時計にはシンプルな美しさがある。そして、民間用の時計にはない兵士たちのドラマが伝わってくる。これが、軍用時計収集の魅力だろう。 軍装品収集の世界でも、軍用時計はこれまでなおざりにされてきた分野である。価格が高いことにもその原因はあるだろう。手入れも被服類にくらべると手間がかかる。しかし、第二次世界大戦時のドイツ兵の軍装をコレクションするならば、当時の兵士が身に付けていた時計もまた欠かせない一品であるはずだ。 そういった意味で本書は、時計のコレクターだけでなく、時計にいままで興味がなかった軍装品コレクターにとっても不可欠のガイドといえるだろう。
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