立ち読み   戻る  

まえがき

 かつて日本は安全な国だった。時々の凶悪犯罪に眉をひそめることはあっても、毎日の生活に大きな変化までは起きないし、夜道を不安なく歩けた。人々が安心して暮らせる素晴らしい国だと世界的に評価され、私たちもそれを誇りに思ってきたはずだ。
 ところが今、その「日常的な安全」が崩れ落ちようとしている。急増する犯罪、無差別テロ、大災害の発生、社会的モラルの喪失、さらには隣国からのミサイル攻撃の可能性すら現在進行形で漂っている。もはや危機という言葉は遠い世界の話ではない。いつの間にか、ごく身近に存在するものになってしまった。
 本書は、テロ・戦争・犯罪・大災害といった危機に見舞われた際、個人レベルでいかに対処すべきかを解説したものだ。
 個人の危機管理を唱えると、不安をあおるな、という一見もっともらしい論を吐く人もいるが、本書で勧めるのは古典的名言の、備えあれば憂いなし、である。大切なのは、危機が私たちのすぐ後ろに存在することを認識し「備えよ、常に」を実践することだ。それによって、いざコトが起きたときに犠牲を最小に済ませられる。


目  次

まえがき

1、テロ・戦争から身を守る!  9

連続テロ攻撃に巻き込まれたら? パニックになるな。テロの恐怖に打ち勝て! 10
突然、銃撃されたら? すばやく地面に伏せて、被弾の確率をへらせ! 12
爆破テロに遭遇したら? 二段構えの爆発に用心。すぐその場を離れる 14
生物兵器の脅威とは? 無差別テロに向く最悪の非人道的兵器 16
炭疽菌とは何か? 感染地域をコントロールできる最適なテロ兵器 18
市民が狙われる化学兵器の怖さとは? 低コストで大量生産が可能な化学兵器 20
化学兵器から身を守るには? 防護マスクがベスト。化学兵器の実体を知る 22
不審な郵便物が届いたら? 開封せずに部屋を離れて警察に通報せよ! 24
核爆発から身を守るには? 地下街に避難し、放射線の直撃を避けろ! 26
核汚染から逃れるには1 衣服で肌を隠し、マスクして風下を避けよ! 28
核汚染から逃れるには2 窓を閉め、エアコンは使わず室内にとどまれ! 30
核汚染から逃れるには3 飢えと渇きはガマン。二日間は外出しない! 32
立てこもり犯の人質にされてしまったら? 犯人に逆らわず、目立たない存在になる 34
テロリストのハイジャックに遭ったら? 心身のバランスを保ち、長期戦を覚悟する 36
敵と間違われないためには? 海外では絶対に軍用品を身につけるな! 38
イザという時のための銃器操作1 安全三原則を守って最悪の事態に備える 40
イザという時のための銃器操作2 敵の腹に銃身を突っ込む気持ちで撃て! 42
イザという時のための銃器操作3 銃は肩に構えて撃つ。初弾は足もとを狙え! 44
服を着たまま水に落ちたら? 服や靴は脱がずに「背浮き身」で救出を待て! 46
戦争の危機が迫ったら1 スイス流に二ヵ月分の食糧と物資を備蓄せよ 48
戦争の危機が迫ったら2 調理、暖房用のエネルギーを確保する 50
戦争の危機が迫ったら3 家族が再会できるよう行動手順を決めておけ! 52

2、凶悪犯罪から身を守る!  55

狙われない歩き方とは? 背筋を伸ばせ!襲いにくい相手と思わせる 56
路上で強盗に襲われたら? 現金とカード類は別々に携帯せよ! 58
スリ、置き引きに遭ったら? 大声を出し、逆襲されないよう離れて追え! 60
ひったくりを防ぐには? 警戒している様子を見せて狙われにくくする 62
プラットフォームの危機 駅のホームでは絶対に最前列に立つな! 64
チカンを撃退するには? 防犯ブザーを鳴らして警告しろ! 66
チカンに間違われたら? 人違いをアピールして、当番弁護士を呼んでもらえ 68
ケンカに巻き込まれたら? 相手より先に110番して被害者の立場をとれ! 70
突然の暴力から身を守るには? 低い姿勢のまま突っ込み、全身で体当たり! 72
顔面・頭部の強打から身を守るには? 両手を後頭部に当てた実戦的受け身をとれ! 74
恐喝型の強盗に襲われたら? 金だけが目的の強盗なら財布をくれてやれ! 76
襲撃型の強盗に襲われたら? 後頭部への不意打ちをさけ、覚悟を決める! 78
カップル狩りに遭ったら? 大声を発して最後は決死の大暴れをせよ! 80
レイプされそうになったら? 最初の一撃にすべてをかける!狙いは二ヵ所 82
犯罪現場に居合わせたら? 犯人の特徴を記憶し、捕まえようとはしない 84
護身具は使えるか? 護身具によっては、軽犯罪法にひっかかる 86
身近にある護身具1 SOSから犯人逮捕まで、使える護身具「携帯電話」 88
身近にある護身具2 犯罪撃退に最も効果のある「防犯ブザー」 90
身近にある護身具3 ペンは拳よりも強し。気合いで突け! 92
身近にある護身具4 中高年の強い味方「ステッキ」で身を守れ 94
狙われるATMコーナー 現金だけでなくカードの盗難に気をつけろ! 96
これからの犯罪1 危険な駐車場。車の周囲をチェックして乗車! 98
これからの犯罪2 路上のカージャックにはロックで対抗! 100
USストリートギャングのケンカ術 現実の暴力は力まかせの攻撃でくる 102

3、身近な犯罪から身を守る!  105

住宅侵入盗を防ぐには1 ゴミ出しやちょっとの外出にも施錠せよ! 106
住宅侵入盗を防ぐには2 侵入に五分以上かかる防犯設備で守れ! 108
住宅侵入盗を防ぐには3 ワンドア・ツーロックで侵入を防げ! 110
住宅侵入盗を防ぐには4 新種のサムターン回しはこうして防げ! 112
車ドロボーの被害を防ぐには? ドアをロック。車内にいっさいモノを置かない! 114
侵入犯のウソを見破るには? 入られたらアウト。ドアチェーンなしでは開けない! 116
強盗犯に入られてしまったら? 抵抗しないが原則。見せ金を渡して退散してもらう 118
強盗犯の凶行から身を守るには1 窓ガラスを割り、大声を出して威嚇しろ! 120
強盗犯の凶行から身を守るには2 刃物で襲われたらイスを楯にして戦え! 122
刃物で切られたら? 切り傷は心臓より高い位置に保持して止血 124
ストーカーから身を守るには1 脅迫の証拠を集め、専門家に助けを求める 126
ストーカーから身を守るには2 あいまいな態度をとらず、拒絶の意志を伝える 128
エレベーターの安全な利用法とは? 乗る前に周囲を確認。二人きりはすぐ降りろ! 130
盗聴・盗撮を防ぐには1 浮気発見から産業スパイまで、盗聴目的は実務的 132
盗聴・盗撮を防ぐには2 盗聴器はどこにでも仕掛けられる 134
盗聴・盗撮を防ぐには3 デジタル機材の普及で増えた気軽な盗撮 136
盗聴・盗撮を防ぐには4 不安を感じたら、まず自分で探してみる 138
悪質商法から身を守るには? 不正と思われる料金請求は絶対に払うな! 140
非常時に備えた体造り1 ケガをしない体はストレッチで造る! 142
非常時に備えた体造り2 有酸素運動で脚力と持久力をつける! 144
非常時に備えた体造り3 戦いに勝つ肉体は筋トレで鍛えよ! 146

4、巨大地震から身を守る!  149

地震に備えて何を用意するか? 犯罪対策だけでなく、救助信号にもなる防犯ブザー 150
地震が起きたら何をするか? 第一撃は一分以内。頭部を保護し手足を守れ! 152
外出先で地震に遭ったら? 恐いのは群衆パニック。巻き込まれず出口を目指せ! 154
ビルで火災に遭ったら? スーパーの袋一枚で数分間の呼吸ができる! 156
街中で地震に遭ったら? 手近なもので頭部を保護し、落下物から守る! 158
高所から脱出するには? 飛び降りるな!ロープ類を使って脱出せよ! 160
防災・避難用具に何を選ぶか? 食品包装ラップや新聞紙は便利なサバイバル用品 162
非常持出し袋に何を入れるか? 公的支援が来るまでの三日分を目安に装備する 164
被災者が語る必要なものとは? 救急処置にも不可欠な「水」を最優先に考える 166
アウトドア用浄水器は使えるか? 持っていると安心な「携帯浄水器」 168
防災ライトは何を選ぶか? 光源はLED球。点灯時間を優先して選べ 170
救急キットには何をそろえるか? 薬は小分けし、持ち出せるように小型軽量化 172
体に火がついたら? 着たまま消すより、服を脱いでから消せ! 174
誤った応急手当てとは? 鼻血はつまんで止める。突き指は引っぱらない 176
防災非常食を用意するには? 軍用レーションを参考にメニューを揃えよ 178
屋外で炊飯するには? 鍋ひとつ、袋一枚で炊く野外炊飯術 180
避難所生活を乗り切るには? 歯磨き代わりにもなるガムでストレス解消 182
屋外で夜を過ごすには? 頭部を保温し、ポンチョシェルターで朝を待て! 184
火を起こすには? 燃料の切れたライターで火を起こす! 186
携帯用工具は何を選ぶか? プライヤー型の多機能ツールがベスト 188
野犬・猛犬に出くわしたら? 怖がった様子を見せず、大声で威嚇して追い払え 190
防犯・防災を考えたリフォームとは? 我が家を堅固な砦にせよ! 192

 迫り来るテロの危機1 北朝鮮特殊部隊の身体能力 54
 迫り来るテロの危機2 原発テロには日本食で対抗せよ 104
 迫り来るテロの危機3 個人レベルで何を備えるか? 148

あとがきにかえて
崩れ落ちた安全神話を取り戻せ 195


あとがきにかえて
崩れ落ちた安全神話を取り戻せ

 近年発生する犯罪の特徴は、少年犯罪の増加と、外国人による出稼ぎ犯罪者の存在である。ひったくり・路上強盗などの街頭犯罪において、少年による犯行は年間統計で摘発の実に七割を占める。外国人による犯罪の多くは、異国の地で生活に困りやむを得ず犯罪に手を染めるのではなく、はじめから違法な荒稼ぎを狙って入国してくる連中によるものだ。すぐ国外へ高飛びできる準備を済ませているせいか、外国人犯罪者には手段を選ばない凶悪さが見られる。
 経済の悪化が犯罪を増加させているのは言うまでもない。ギリギリの線上にいた者が、食えないなら仕方がない、とばかり犯罪に走ってしまう。人がやるからオレもやる、悪いのは他人だ、社会だ、と自己に言い訳をして心理的な抑止を外すのだ。その結果、短絡的な犯罪も増えてくる。足や肩が触れた程度でいきなり殴りつけ、挙げ句に相手を死なせてしまう。
 しかも刑法犯罪が年々増加している一方で、二〇〇二年(平成十四年)の検挙率は二割を切り戦後最低に下がった。これでは犯罪が割に合うことになってしまい、さらなる犯罪の発生を招くだろう。

●マナーを守らせることが犯罪を減少させる
 このような犯罪は伝染病のごとく深く広がっていく。しかし打つ手がないわけではない。日本の犯罪風潮が米国の十数年遅れでやってくる点を考えれば、米国で効果を上げた犯罪対応策を参考にすれば良い。
 まず、犯罪は起きてからの対策より、どのように未然に防ぐかを考えるべきだ。犯罪が多発する地域はそれなりの理由があるから、その芽を早めに摘み取るべきである。
 そのためには住民が地域環境に注目し、監視が行き届いていることを外部にアピールする。もっともわかりやすいのが街の景観。
 建物の壁に落書きが書いてあり、通りにゴミが散らかり放題では、住民同士の関係が希薄なことがバレバレで、犯罪者を招いてしまう。自転車の違法駐輪やゴミの不法投棄からわかるように、人の心理は「みんなもやっている」が罪の意識を低くさせる。軽微な犯罪の積み重ねが人々のモラルを破壊し、やがて大きな犯罪につながることは、米国の犯罪研究から証明されているのだ。
 そこで落書きを消し、ゴミを拾う。そしてゴミ・タバコ・ペットボトルのポイ捨てなど、これまで軽いマナー違反としか見なされなかった行為を取り締まるように、街の自治会から警察に申し入れし、自分たちも自警団を結成して目を光らせる。
 このところ急増してきた窃盗犯や、アジア系外国人による強盗犯に対しては、地域住民による「声かけ」が大きな予防策になる。ふだん見かけない不審者を黙って見過ごすのではなく「何か御用ですか?」といった具合で軽く声をかけよう。道に迷っているだけかもしれないし、もし窃盗の下見なら声をかけられただけで、彼らは身の危険を感じて去っていく。雰囲気で危ないと感じるようなら110番すればいい。この「声かけ」は警察も推奨する犯罪予防策である。

●地域の防犯および防災力を高める
 防犯にしろ防災にしろ、真の危機管理は自分の住む地域全体で練っていかなければならない。一人の力で立ち向かうには限界がある。つまり、大きな危機を乗り切るには「自助」を原則として「共助」と「公助」の二つの助けを加えないと、完全な対策にはならない。
「共助」を実践するには、各地域の住民が町内会や自治会を通して結成している、自主的な防犯・防災組織に参加して行動するのがベストだ。都市部に住んでいる人にとって、このような組織活動は面倒だと感じられるかもしれないが、自分と家族を守るためには真剣に考えるべきだろう。もしほかの住民の危機管理意識が低いようなら、自分が引っ張っていくつもりで活動し、住民がともに協力し合う街を造っていく。
 防災組織の役割は、初期消火・負傷者の救出・救護・避難誘導・行政からの情報伝達・給水および救援物資の配分、など多岐にわたる。
 阪神淡路大震災では、倒壊した建物に閉じ込められた人の多くを、付近の住民が助け出している。また、バケツリレーで火災の延焼を防いだ地域もあった。
 地域自治体が主催する防災訓練や救護訓練に積極的に参加し、実践的な技術を経験しておき、イザという時に備えよう。公共の消火用具や災害時の発電機などがどこに収納されているか知っておくと便利だ。また、ふだんからの防災活動で放置された可燃物などをかたづけたりしていれば、放火事件の予防にもなる。


市民防衛フォーラム:
軍事・防災・防犯・武術・野外行動の各分野それぞれに興味を持つ人が集まり、政治および宗教信条に関わりなく、自己防衛のための技術のみに焦点を絞って調査と研究活動をしている市民グループ。活動歴は30年を超える。