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はじめに

 近年の健康志向はますます強まり、モノが売れない時代にもかかわらず、家庭で使えるようにデザインされたトレーニング器具類の販売実績は好調だという。この風潮は当然といえば当然。運動不足は今さら説明するまでもなく、体力の低下、肥満の増長、姿勢の悪化、体型の崩れなどいくつものトラブルを引き起こす。そこで体を鍛えて体型および新陳代謝を改善させれば、身体的な問題が解決されるだけでなく、外観からもうかがえる若々しさが自信を生む。健康な体は日々の心理的なストレスをはねかえす一つの武器となりうるのだ。
 多くの人が「引き締まった体にしたい」「運動をして健康を維持したい」「もっと体力をつけたい」……と考える。でもジムに通う時間はないし、続かせる自信もない。結局、やる気はあるんだが実行に移せない。忙しい現代人からすればこうなるのもやむを得ないだろう。そんな人のために書いたのがこの『軍隊式フィットネス』シリーズである。
 ここで目指すのは総合的な体力アップ。筋量や筋力の増加はもちろん、さまざまなストレス耐性から心肺機能の改善まで体をかたよらずに強化させる。筆者が世界中の軍隊で採用されているMPFT(ミリタリー フィジカル フィットネス トレーニング)に注目したのはそのためだ。軍隊の体力トレーニングなどというと、外部から見れば何か特殊トレーニングでもやっているかのように想像されがちだが、実際はベーシックな種目とその応用で構成されていてトレーニングの入門者から上級者まで使える。もちろん運動量そのものは恐ろしくハードであるが。
 MPFTの特徴は、全身をムラなく鍛えてタフな肉体を造り上げるのと、誰もがどこででも実行できるようにトレーニング専用器具を必要としない種目を中心にしている点だろう。体力向上目的と手軽な種目という特徴は、一般のホームトレーニーにとっても有効なものとなる。実はシリーズ第1弾『軍隊式フィットネス』を出す際、軍人や警察官の鍛練法を解説するという、従来のトレーニング入門書にはなかった内容だけに幅広く受け入れてもらえるか心配であった。だが幸いにしてMPFTのコンセプトが理解されたらしく好評を得た。
 前著はもっぱら基本的なセルフレジスタンス エクササイズ(自負荷運動)を紹介した。シリーズ第2弾では、内容を進ませて道具を使う種目を主に取り上げる。道具といってもボールやタオルなど身近にある日用品を利用したもの。手軽さに変わりはない。また、体を内側から強化する意味でウエイトコントロールに関する情報も入れた。
 まずは体をどのように改造したいのか強くイメージして、それを目標に自分の生活サイクルにトレーニングを組み込めばいい。あとは実践あるのみだ。
 本著を活用して21世紀をサバイバルできる体を造っていただきたい。

 なお本書の撮影は自衛隊体育学校の協力を得ることで実現できた。関係各位の多大な尽力に心からお礼申し上げます。
 平山 隆一


目 次

はじめに
第1章 筋力トレーニングの基礎知識
体力(フィジカルストレングス)の向上/超回復の原理/身体の可逆性/継続性の原則/POL(漸進性過負荷)の原則/特異性の原則/全面性の原則/個別性の原則/意識性の原則/トレーニング中の基本事項/無理な負荷は避ける/休養の大切さを知る
第2章 3か月肉体改造プラン
プレトレーニング期間/ステップ1/ステップ2/ステップ3
第3章 ウォームアップの大切さ
ウォームアップで備える/脚を大きく動かして体を温める/クーリングダウン(整理運動)
コンビネーション スクワット/ベント ツイスト
第4章 しなやかな体をストレッチングで得る
ストレッチングのメカニズム/ストレッチングの種類/ストレッチングの実践法
トレーニング前のストレッチング11種目
1ツーアーム サイドストレッチ/2アッパーバック ストレッチ/3チェスト プル/4ハムストリング&バイセップス ストレッチ/5クワドリセップス ストレッチ&バランス/6グロイン&ショルダーブレード ストレッチ/7カーフ ストレッチ/8ランジ ストレッチ/9トルソ ローテーション/10ワンレッグ ツイスト/11ネック ロール
モーニングストレッチング8種目
1ベントニー ヒップロール/2ヒップ ストレッチ/3クワドリセップス ストレッチ/4コブラ ストレッチ/5フロア ニール/6バック ストレッチ/7ロング シット/8シーテッド サイド ベンド
第5章 身近な道具を利用したエクササイズ48種目
フラッシュライト
アームスイング&サイドベンド/バック ベンド/トルソツイスト/フォワード ベンド/ペック&デック/プレスダウン ビハインドバック/ライイング プレスアップ/インクライン ラテラル レイズ/ベントオーバー ラテラル レイズ/パドリング/ダイアゴナル シットアップ/エクスターナル ローテーション/インターナル ローテーション/サムレス グリップ リバース カール/レバレッジバー エクササイズ/インディアン クラブ エクササイズ/リスト ローラー エクササイズ
イ ス
プローン ペック フライ/ライイング プッシュアップ/リバース シュラッグ
ボール
バランス プッシュアップ/スライド アクション/シーテッドニーレイズ/サイド レッグ レイズ/ストレートレッグ ツイスティング トゥ タッチ
タオル
タオル ロウイング/スティフレッグド デッドリフト/タオル ショルダー プレス/スクリュー カール/フレンチ プレス/タオル クランチ/サイドネック フレクション/ネック エクステンション/サイド ベンド/プローン レッグ カール/フロント&サイド レイズ
デイパック
ウエイテッド プッシュアップ/グッド モーニング
電話帳
ペック ロック/ファーマーズ ウォーク/ステップアップ/コア トレーニング
その他
フルストレッチ クランチ(マット)/ボール グリップ(テニスボール)/フィンガー スプレッド(輪ゴム)
自宅でできる簡易体力テスト8種目
米海兵隊女性兵士の体力検定基準
第6章 セルフレジスタンス エクササイズ18種目
1 胸 部
ミリタリー プッシュアップ/インチワーム
2 上背部
エルボー プレス/ロークロール
3 肩 部
サイドレイズ/ワンアーム ボディツイスト
4 頸 部
トライアングラー スタンド
5 上腕部・前腕部・手部
6 体幹部
クランチ/ヒンドゥー マジック/ツイスティング レッグ プッシュ/デザート リザード
7 臀部・脚部
ボディ ウエイト スクワット/ワイドスタンス スクワット/シングルレッグ スクワット/ステッピング スクワット/ニー バスター/ヒナドリ/トゥ エクササイズ
第7章 ウエイトの自己管理学
内臓脂肪の危険性/体脂肪増加のメカニズム/ちょっとした油断が中年太りを招く/自分の体脂肪率を測ろう/シェイプアップの3要素
第8章 和食の良さを見直す
間食に洋菓子系を避ける/トレーニング前後の食事
第9章 エアロビクスが体脂肪を燃やす
心拍トレーニング/心拍数の測定/適切なターゲットゾーンを知る/体脂肪燃焼エクササイズ/サーキットトレーニングの効果/フィールドトレーニング/山岳トレーニングのポイント/山岳ウォーキング装備
資料 旧日本陸軍の体力向上運動
トレーニング関連用語集
 監修者のことば

[コラム]
過大な負荷に注意する
PT(フィジカルトレーニング)ギア@「ハンドグリッパー」
日々の歩幅を広くする
PTギアA「鉄下駄」
「US NAVY SEAL」フィジカルトレーニング@
PTギアB「マグライト」
PTギアC「エキスパンダー」「エクササイズチューブ」
PTギアD「鉄扇」
PTギアE「フィットネスローラー」「プッシュアップバー」
「US NAVY SEAL」フィジカルトレーニングA
身長と体重から体格度をチェックする
「US NAVY SEAL」フィジカルトレーニングB


 監修者のことば

 文明が発達し、機械化が急速に進んできた現代、生活全般において便利さ(楽になってきた)は増してきました。しかしその反面、身体を動かすことが本当に少なくなってきました。その結果、健康が根本から脅かされはじめたことは、否定しようのない事実です。
 人類は、その昔から体を動かし食物を得ていました。それが自然なことであり、動物として生きる限り当然のことなのです。
 健康でない人が加速度的に増加し、それに伴い成人病も増加、最近ではその年齢層が若年化し、成人病が生活習慣病と改名されています。
 少し前までは、「歩く」それは生活の一部でした。それが今では、ウォーキングエクササイズなどと称され運動種目の一つとして当たり前のように言われています。
 日常生活において体を動かさないことがあまり気にならない人が意外と多くなっています。また、体力の必要性について疑問視する人、体力そのものを特別視する人など少なくないでしょう。優れた体力(走るのが速い、ジャンプ力がある、重いものを持ち上げることができるなど)は普通の人にはさほど必要ではありませんが、自分の体をコントロールできる体力(階段を昇っても息切れしない、買い物で少し歩いたぐらいでは疲れない、そして何より健康である)の保持こそ必要なのであり大切なのです。
「運動をしたいんだけれども、運動する時間や場所あるいは用具がないからできない」などという人が多いでしょう。しかし、そう身構えなくても先に述べたように、エクササイズとしての歩くではなく、ふだんの生活でのただ歩くことも運動なのです。身の回りを見渡すと運動できる環境はいっぱいあります。
 この本では、日常使用している身近な用具を使って自宅でできるトレーニング内容を紹介しています。みなさんの健康維持あるいは体力向上の一つのマニュアルとして参考にしていただければ幸いです。
 最後になりましたが、私の所属する自衛隊体育学校について、ここで簡単にご紹介しておきます。自衛隊体育学校は広大な敷地を持つ陸上自衛隊朝霞駐屯地(総敷地面積約90万平方メートル、演習場約70万平方メートル)内にあり、昭和36年8月17日に陸・海・空自衛隊の共同機関として創設されたものです。
 科学的なトレーニング施設を持ち、年間を通じて各種の課程教育(オリンピックを目指す特別体育課程・一般隊員を対象とした一般体育課程)および武道・球技の集合訓練を実施し、自衛隊の陸・海・空各部隊の体育指導者の育成と、体育に関する調査・研究をその使命としています。
 体育指導者としての専門的な知識・技術・実技指導能力・体育管理能力の向上はもとより、スポーツプログラマー、C級スポーツ指導員、各種審判員、体力テスト判定員、日赤水上安全救助員等といったスポーツ関連の公的資格の取得も目指しています。
 また、自衛隊体育学校には、10個競技種目班(陸上班、水泳班、近代五種班、柔道班、レスリング班、ウエイトリフティング班、ボクシング班、射撃班、アーチェリー班、女子ハンドボール班)が編制され、特別体育課程学生およびそれぞれの監督・コーチが、国際舞台で活躍できる選手の育成を目指して、日夜厳しい練習に取り組んでいます。とくに、わが国においてマイナーであると言われていた競技の底入れに、体育学校は、学校創立当初から力を尽くしてきました。最近においても、ウエイトリフティング、レスリング、射撃等の分野で活躍しており、オリンピックおよびアジア大会では、数多くのメダリストを輩出しています。

 私とともにモデルをつとめてくれた自衛隊体育学校職員の野呂文明、戸田明利、松方正義の三名に感謝の意を表します。
森下 敬介


森下敬介(もりした・けいすけ)
自衛隊体育学校体育教官。自衛隊の体育指導者に対する各種のトレーニング法、運動生理学、陸上競技等の教官として指導にあたる。また、銃剣道連盟要請によるC級スポーツ指導員講習のトレーニング法の講師もつとめる。スポーツプログラマー協議員、陸上競技C級コーチ、トレーニング指導士、体力テスト指導員の各種公認資格等を持つ。
平山隆一(ひらやま・りゅういち)
1953年、栃木県生まれ。学生時代からの射撃とアウトドア行動熱が高じて78年に渡米。以後、アリゾナ、テキサス、カリフォルニアなどに住みながら北米大陸を中心にバックパッキングの旅を続ける。89年に帰国。これまで、多様なアウトドア行動に対応できるよう、さまざまなトレーニング法を調査、実践してきた。月刊『Gun』誌(国際出版社刊)で「野外実践講座」を連載中。著書に『フィールドモノ講座』『ツールナイフのすべて』『軍隊式フィットネス』(いずれも並木書房)がある。