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●目 次

 まえがき

1、外出時の危険から身を守るには

  声をかけられても立ち止まらないで!
  他人とは目を合わせない
  背後から「抱きつき男」
  誰かにあとをつけられてる!
  複数の帰宅経路を持ちましょう 
  イザというときの避難場所を用意する 
  頼りになる「防犯ブザー」

2、通り魔は白昼に現われる?

  元祖「恐怖の包丁男」!
 「ナイフ男」がやって来る!
 「石投げ男」がねらっている 
 「ゲンコツおじさん」にご用心! 
 「引ったくり」は少年が犯人なの? 

3、路上のチカンは露出狂!

 「ムササビおじさん」はうれしくない
  見せたい男たち
  驚く顔が見たいらしい
 「すれ違いざまにさわる」男の手口

4、電車内チカン警報!

  朝・夕・深夜・ところかまわずチカン!
  挙動不審は彼らの合図 
  居眠りはチカンを誘う
  のぞき込み男は不気味!
  知的に撃退!
  痴女っているんです

5、公衆トイレの危険を予見!

  女性用トイレにいる男 
 「トイレに不審者!」
  天井裏にネズミ男発見!
  見上げたら男と目が合った!
  トイレで押し込まれた! 

6、エレベーターは死角い箱 

 「エレベーターを調べーた?」
  乗る前も降りたあとも安心しない!

7、自宅は安全・態勢万全?

 「ピンポーン」は危険の合図
  洗濯物は挑発する!
  郵便物は危険物?
  ドロボウの気分で自宅をチェック
  電話は凶器? やっぱり武器!

8、カギは防犯のキーワード

 「うっかり」が「がっかり」に!
  カギが安全とは限らない!
  カギは生命を守るカギ 
  パンツ一丁男が闖入!
  助けを呼ぶなら 
  侵入されてしまったら


●まえがき

 日本が世界一安全な国だと自他ともに認めていたのは、すでに過去のことになってしまいました。
 かつては凶悪犯罪はアメリカの大都市や政情不安な国のものであり、対岸の火事あるいは映画の中の出来事のように、日本人には実感のないものでした。
 ところが最近はマスコミをにぎわす凶悪な事件が次々と発生しています。
 国際化にともなう外国人による犯罪の多発、若者による窃盗や強盗事件、未成年者の売春や麻薬常習にみるモラルの欠如、日常的になってしまった殺人事件等々……。
 その一方でチカンなどの性的犯罪、新聞やテレビであまり報道されることのない、いわば水面下の小さな犯罪も増えてきていることには、まるで姿の見えない恐ろしいものがヒタヒタと迫ってくるような戦慄を覚えます。
「犯罪の増加」はつまり「被害者の増加」です。いつの場合も子どもや高齢者、女性などが被害者になっています。体力的に劣る、反撃できないなど、犯罪者は自分にとってリスクの少ない、確実に犯罪を行なえる相手を選んできます。
 子どもが性的被害を受けたり、女性がチカンや引ったくりの標的となり、高齢者が金品を強奪されるなど、弱者は常に危険にさらされています。「オヤジ狩り」などといって男性ですら一人歩きの危険性が高まってきています。
 弱肉強食の構図とでもいうか、無抵抗のままなすすべもなく犯罪のえじきとなってしまう弱者はまさに日々増加しているのです。ただ黙ってやられてしまうしかないのでしょうか? このまま被害者が増えていくことをくい止めることはできないのでしょうか?
 今までは「護身術」というと身体をつかった武道や格闘技的な要素が主流で「こう襲ってきたらこうかわす」という実践的なものでした。しかし、子供や女性などが少々訓練したところで犯罪者を撃退することは不可能です。それらの技術の習得はムダとは言いませんが、それよりも「転ばぬ先のツエ」を手にする方がだれにでもでき、被害を未然に防ぐ、もっともかしこい方法です。
 本書は「自分の身は自分で守る」ために日常生活の中でどのように気をつけたらいいか、これだけは知っておきたいという知的な護身のテクニック、つまり「知的護身術」を紹介したものです。
 犯罪や被害の可能性を知る状況判断の仕方、万が一危険に遭遇してしまったときにはどのようにしたらよいか、といったことを実際に身近に起こった事件から、ケーススタディしていきます。ここで紹介した事例は、筆者が体験したものを含めてすべて現実に起こったことばかりです。

「知的護身術」とは、
@「自分を知る」……犯罪の被害者になる可能性は?
A「自分の置かれた状況を知る」……危険な場所、時間帯ではないか?
B「シミュレーションの習慣をつける」……日ごろから危険を予測し、危険に近づかない。
C「避難方法を用意する」……万が一犯罪や危険に遭遇してしまったら、なんとしても身の安全を守らなければなりません。被害を最小限にくい止めてその場から逃げ出すこと。それしかありません。そんなとき防犯小道具は役に立ちます。なかでも防犯ブザーはもっとも手軽で有効な道具です。そして、もっと簡単で効果的なのは、大声を出すことです。ただし練習していないととっさの場合に声が出ないということも知っておいてください。
 また、電車内で濃い色のサングラスをかけるだけでもチカンを寄せつけないなど、ちょっとした工夫で被害を防ぐことができるということを知っていただきたいのです。
 イザというとき、だれも助けてくれないときにどうしたらいいか? 「自分の状況を自分で把握して自分が対処する」方法をきちんと考えておきましょう。
 危険はあなたが一人でいるとき、またはあなた一人に襲ってくる可能性がもっとも高いのです。あなた自身が自分の身を守るためにベストを尽くさなければなりません。
 本書を読むことで護身の基本が身につくように心がけました。きっと今までと違った防犯意識を持つことができると思います。
 ひとりでも多くの人が被害を受けずにすむように、この本が役立てば幸いです。


●あとがき

 本書を書き上げてからも「石投げ男」の犯人はまだつかまっていません。それどころか同一犯か模倣犯による事件が続発しています。
 また各地で子供をねらった性犯罪、誘拐未遂などが報告されており、小動物の虐待事件なども猟奇的で、不安な社会情勢が日本中を包み込んでいます。
 米国の新聞に、九七年五月に神戸で発生した小学生殺人事件を紹介した、ワシントンポスト紙東京支局のメアリー・ジョーダン記者の記事中に、
「日本では犯罪が増え続けており、九五年に起きた『地下鉄サリン事件』以降、衝撃的な凶悪事件が発生して、国の安全意識は失われてしまった」
 という一文があります。
 たしかにあの事件以来、犯罪情勢は凶悪化する一方であり、ひとつの契機であったかのような印象はぬぐえません。今の日本に漂う不安感、危機感はあたかも目に見えないけれども人の生命を脅かす毒ガスのように、いつの間にか私たちの社会に充満してきているようです。
 しかし凶悪事件だけでなく、私たちが日常的に遭遇する可能性の高い犯罪の増加こそ忘れてはならないものです。
「たかがチカンや露出狂」ではないのです。屈折した犯罪はその対象をさらなる弱者、つまり子供にねらいを定めるようになります。あきらかに犯罪であるということを彼らは身をもって知るべきですし、女性は断固として彼らを許さないという姿勢でいなければならないのです。
 学校教育の現場や家庭でももっと防犯意識を高めて、社会そのものが犯罪を許さないという強い意識を持って立ち向かわなければなりません。
 しつけを受け持つ母親や、将来子どもを持つであろう若い女性たちが、まず自分の身を守る方法を身につけて、それを伝え教えてゆくことが大事なことなのです。
 また地域社会の協力態勢も重要です。被害を受けたり目撃したら届け出て「再発防止」を心がけるのはもちろんのこと、犯罪を発生させない「未然防止」がこれからの最大の課題といえるでしょう。
 安全な社会を取り戻したい。しかしここまで悪化してしまった状況では、「安全を望む」よりは「危険を避ける」ことの方が先決です。一人一人が自分を守ることができてこそ、社会の安全につながるのです。
「自分の身を守ること」つまり個人レベルでの「危機管理」を徹底しましょう。
 今日もそして明日も無事でいられるように、「毎日がサバイバル」という認識で生活していくことが、これからの時代を生き抜くキーワードなのです。
 最後になりましたが、本書執筆にあたり、貴重な体験を語ってくれたかつての職場の女性や友人、知人に感謝しています。


●さえき・ゆきこ(佐伯幸子)
東京都生まれ。大学卒業後、会社員として秘書、営業企画部署に勤務。その後、書店経営に転身。6年間の書店店長時代に多数の万引き犯を捕まえたほか、いわゆる危ない人々と接する経験をもつ。現在は防犯コンサルタント、プロテクションコーディネーターとして「女のシティサバイバル」などをテーマに講演および執筆活動している。犯罪学、心理学をベースに女性や弱者の日常的な危機管理について調査研究をつづける。「防犯社会学」を提唱している。