●まえがき
最近、日本では「テロリズム」という言葉がマスコミをにぎわせ、重大な関心を集めている。
テロリズムとは、企業あるいは個人に恐怖を与える暴力行為であり、テロリストが行動を起こす理由は、政治的な主張から個人的恨みまで幅広い。それだけに企業や個人がテロから身を守る手段も広範囲となり、困難をともなう。
身の安全を確保したいなら、外部との接触をいっさい断つのが手っ取り早いが、社会生活を営む以上、それはできない。専門知識を持たない企業や個人ではテロに対処しようとしても限界がある。
そこで生まれたのが、身辺警護を専門に行なうボディガードである。
ボディガードの需要は1960年代後半、ヨーロッパで急増した。国際テロ組織が企業のトップや政府要人の誘拐・暗殺に乗りだしたからである。
だが当初、ボディガードは十分な特殊訓練を積んではいなかった。残忍なテロリストの攻撃を防ぐだけの知識も装備も持っていなかったのである。
彼らの多くは、警察から選抜されたエリートで、法律の枠内で行動することを義務づけられていた。
一例をあげれば、襲撃者を排除する方法としての「射殺」は、それが正当化される場合にのみ限られた、最終手段であった。そのため引き金を絞るのにためらいが生じ、テロリスト・グループに遅れをとってしまうのである。
この欠点を反省した欧米各国の首脳は、その任務を警察から準警察および軍の対テロ部隊に任せるように政策を変更していった。
軍の対テロ部隊では、常にテロリストを射殺するように徹底的に教え込まれる。逮捕し投獄したところで、解放を要求した新たなテロ行為が繰り返されるからである。
政府首脳や公的機関に対するテロには軍隊の対テロ部隊が投入されるが、民間の場合はどうか? テロの脅威にさらされるのは国家要人や政治家だけではない。
凶悪犯罪やテロの脅威から一般人が身を守るには、やはりボディガードに頼むしかないだろう。だが、費用がかかることは覚悟しなければならない。アメリカを例にとれば最低でも1時間100ドルは必要となる。そのため、依頼人に金銭的余裕があるか、よほど差し迫った危機がないかぎり、おいそれとはボディガードを雇えないのが実状であろう。
それならば発想を180度転換してみたらどうだろう。つまり自分がボディガードになって自分を守るのである。
ボディガードは特殊な技術を必要とするが、基本はそれほど複雑なものではない。あとは個人の能力でいくらでも応用がきく世界である。
それでは誰でもボディガードになれるのか? 答えは「イエス」である。基本的知識とそれを実践する努力があれば、ボディガードになることはできる。自分で自分の身を守り、家族や恋人を守ることができれば、高額の金を警備会社に払う必要がない上に、24時間フルタイムのボディガードを受けられることになる。
本書はそのための心構えとテクニックをわかりやすく解説したものである。さらに初心者だけでなく、実際にそうした職務につくプロの方々にも役立つよう、海外の最新の情報をできるだけ多く紹介してある。
本書で取り上げる「依頼人」が誰なのか、それはあなたが決めればよい。あなたの勤務する企業のトップでも、あるいは家族や恋人、もしかしたらあなた自身が依頼人かもしれない。
それでは、ボディガード・トレーニングを開始することにしよう。
まず、ボディガードの仕事がどういうものか、劇画で再現してみよう。
なお、記載されている内容はただ読むだけでなく、実際に行動してみることが大切である。
●あとがき
本書『ボディガード流護身術』の出来上がりは、いかがだったでしょうか? 読者の皆さんの興味や必要性を満たす物になっていれば、著者として望外の幸せです。
本書は、日本国内での護身要領を前提にしているため、海外の映画や小説に描かれているような派手なボディガードのイメージはあえて避け(もちろん実際にも存在しないが)、より現実的で、実生活に即応可能な内容になるように留意しました。
また当然ながら、機密事項に抵触する項目に関しては、詳細な解説を加えることは避けたことをお許しください。
本書を最後まで読んでいただければ、「まえがき」で書いたように、誰でもボディガードになれることがお分かりいただけたと思います。
格闘技に精通する必要はないし、拳銃の操作法などの特殊技能も必要ありません。
ボディガードの基本は、ふだんからいかに注意深く行動し、危険に近づかないようにして、大事な人を守るかということです。
これは、ボディガードに限らず、日常生活でも十分に通用することなのです。たとえば、明日、ガールフレンドと食事をする約束をしたとします。それなら早速、レストランのアドバンスに出かけ、最寄りの駅からの道順や店の雰囲気、メニュー、営業時間、支払方法に至るまで調べておくべきです。そんな小さな努力が、彼女の安全を保証するだけでなく、彼女の尊敬と信頼を得ることにもつながります。
ボディガードというのは、緻密に行動できなくては務まらない職業です。いかに先を読み、まめに行動できるか、それが全てと言っても過言ではありません。
本書に記載されている内容を身につけるためには1項目ずつ、実践してみることが大切です。それが上達への近道であり、ボディガードになる秘訣といえます。
さて本書を作成するにあたり、国内外を問わず、多くの人々の協力をいただきました。
まず、世界的な大手銃器メーカーであるヘッケラー&コッホ社所属の公官庁訓練ディビジョン(H&K International Training Division
USA)に感謝の意を表したいと思います。彼らの協力なしでは、本書の企画は成立しなかったと言っても言いすぎではありません。
彼らは、米国警察SWAT隊や公官庁のボディガード養成を行なっているプロ集団です。彼らとは仕事を通じて5年以上の付き合いになりますが、今回は銃器の提供など様々なバックアップをしていただきました。
国内撮影では酒井康嘉氏および柳澤恵美子さんに協力していただきました。彼らには余暇を利用して、小社スタッフとして様々な専門業務に携わっていただいています。
また、撮影のために快く場所を提供していただいた東京港港湾運送事業協同組合にも感謝しなくてはなりません。95年の阪神大震災以来、危機管理対策において協力させていただいている団体でもあります。
イラストは、漫画家の永野あかねさんにお願いしました。射撃から軍事・警察関係まで幅広い知識を持っている彼女だからこそ、納得の行くイラストを書いてもらうことができたと思います。
さらに本書の企画に関わっていただいた小峯隆生氏をはじめ、心よく出版を引き受けてくれた並木書房出版部に深く感謝しています。
最後になりましたが、本書がどれほど読者の役に立てたのか、著者として興味があります。本書に関しての感想や質問、指摘などがあれば、同社出版部までお知らせください。今後の資料として活用していくつもりです。
毛利元貞(もうり・もとさだ)
1964年広島県生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊入隊。フランス外人部隊伍長、傭兵訓練学校教官を経て、各地の戦場で特殊作戦に参加。以後活動の場を対テロリズム関係へと拡げ、90年には国家指導者(ノーベル平和賞受賞者)警護部隊の対テロ訓練を行なう。以後、CQBおよび狙撃等の各種対テロ戦術訓練を実施。最近はIPSCプラクティカル・シューティング(現在Cクラス)にも力を注いでいる。現在は有限会社モリ・インターナショナルを設立、各種専門分野のコンサルタント業務およびセミナー運営に携わる。また、特殊戦闘の経験および技術を活かして専門誌に寄稿。ノンフィクションの執筆を続ける。最近では小説、コミック原作にも活動の幅を拡げる。著書に『傭兵マニュアル完全版』『傭兵修行』『新・海外サバイバル・ガイド(共著)』『軍隊流護身術』(いずれも並木書房)、翻訳書に『ザ・デルタフォース(監訳)』(並木書房)『世界の最強対テロ部隊』(グリーンアロー出版)、『コンバットスキル1・2(監修)』(ホビージャパン)、小説『デッドリー・フライト96』(KKベストセラーズ)がある。
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