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 はじめに(一部)

 2018年12月、安倍晋三政権の下、次期戦闘機について、「国際協力を視野に、我が国主導の開発に早期に着手する」との方針が中期防衛力整備計画において決定され、これを踏まえて2020年から防衛省は本格的な開発に着手しました。
  最新鋭の戦闘機を国産することは戦後日本の夢の1つです。そして、その夢はこれから、10年以内に実現するものと確信します。言うまでもなく、戦闘機は今日の国家防衛の要です。航空優勢なしに国家を守ることはほぼ不可能であるからです。
  しかし、戦闘機を自国で開発生産することは容易ではありません。急速に発展する技術を克服し、新たな概念に挑戦する必要があるからです。
  将来の航空戦闘は、有人機にコントロールされた無人機のスワーム(蜂のような群れ)が限定された空間を埋め尽くすといった様相になるかもしれません。戦闘機も第6世代、第7世代などという概念がなくなり、最新の技術を使って常続不断に既存機の改良と改修が行われ、航空機というより空中指揮統制システムの飛行体といったものに変わっていく可能性もあります。すでにこうした変化の萌芽は見え始めています。
  いずれにしても戦闘機という技術の先端を行く兵器システムをアジアで、自力開発できた国は戦前では日本だけ、戦後は中国、台湾、韓国、インドくらいでしょう。しかもこれら戦後の開発生産国は米国、ロシアから何らかの協力や支援を得ているか、あるいは一部は他国の技術盗用があるといわれています。
  戦後、日本は戦闘機を米国から取得してきました。最初はMAP(無償供与)、そして日本の経済成長にともなってFMS(有償供与)により入手してきました。
  1988年頃からF‐2(FS‐X)戦闘機を日米で共同開発を始めましたが、日米両国にはそれぞれ事情があり、その過程で困難で複雑な交渉が行われました。相互に誤解や対立も生まれましたが、結果としては素晴らしい戦闘機ができたと思います。この開発で日米両国は多くの教訓と経験を学びました。そのF‐2戦闘機は今も日本の防空の重要な役割を担っています。(中略)
  次期戦闘機開発は緒に就いたばかりです。特に我が国主導の開発という方針を貫きながら、米・英両国との国際協力をどのように進めるか、とりわけ米国政府による技術支援の許可が下りて、ISPが本気になって開発協力に取り組んでくれるかという点で、最初の岐路に直面していると思います。このプロセスを乗り切って真の意味で第5世代戦闘機の開発に成功するには、これから多くの困難と苦渋に満ちた選択を乗り越えなければ完成には至りません。(中略)
  我々は、F‐X開発に関わるすべての事象を把握して執筆する必要があり、結局、3年に近い時間を費やしました。戦闘機開発の実情には機微な内容が多く含まれており、事実関係のすべてを書くわけにはいきません。部分的には抽象的な表現を使って記述せざるを得ませんでした。そのため個人名や正確な日時などはほとんど省きました。特定の人物しか知らないことも割愛しました。
  しかし、次期戦闘機の開発に情熱をもって取り組んでいる人の気持ちと考え方をできる限り代弁し、開発事業の複雑さを国民の皆様に分かっていただけるよう努めました。

 

目 次

 

目 次

 

はじめに 森本 敏 1

資料 次期戦闘機(F‐X)研究開発の経緯 17
略語集 25

第1章〈討論〉次期戦闘機開発、その経緯と展望 33

 討論のはじめに 33
  FS‐X開発のトラウマ 35
  新戦闘機実用化への過程と教訓 38
  次期戦闘機は第5世代機か? 42
  有人戦闘機プラス無人戦闘機共同運用の可能性 44
  次期戦闘機の基礎研究と先進技術実証機X‐2 48
  F‐2後継機国産化を後押しした「ビジョン」49
  次期戦闘機開発に関する政府の体制と開発構想 57
  国際協力による共同開発か、純国産開発か 59
  拡張性、改修の自由度への対応 61
  開発計画が遅れた背景と理由 63
  RFIの提示と米国企業の反応 65
  F‐22生産打ち切りの影響 67
  採用されなかったF‐22+F‐35派生型機構想 70
  次期戦闘機開発方針の転換期は2019年末 72
  日米双方の思惑と認識の差 76
  リスクとコスト低減のための検討 79
  日英共同開発のメリット 82
  国際共同開発における日本の選択肢 84
  次第に固まっていった日本主導の日米共同開発 87
  相互運用性の重視とビジネスの両立 90
  次期戦闘機開発の諸問題─システム・インテグレーション 93
  英国との協議、交渉の行方 96
  データリンク開発に欠かせない米国の協力 100
  システムに関する2つの考え方 102
  次期戦闘機が備えるべき機能 105
  米国にどのような支援を求めるか 108
  試験・評価に欠かせない米国の設備と支援 110
  次期戦闘機の生産機数と開発コスト 114
  次期戦闘機の所要機数 117
  調達機数と量産価格の適正化 120
  次期戦闘機の海外輸出 124
  実績のない戦闘機は売れない 126
  次期戦闘機開発のための企業連合と防衛産業 130
  オールジャパン体制の理想と現実 133
  責任の所在とリスク回避 136
  開発計画と技術者の持続性の構築 139
  防衛産業を維持育成する環境作りが急務 143
  企業が防衛産業から撤退する理由 144
  次期戦闘機開発事業の本格化─日米企業協議とISP 148
  相互運用性の実現と課題 151
  日本だけですべての開発は困難 155
  インテグレーション支援パートナーの役割 157
  共同開発と情報管理 160
  米・英両国との協議の現況と課題 164

第2章 日本の戦闘機開発と次期戦闘機の運用構想 168

 1、航空防衛力の意義─多次元統合作戦を牽引 168
  (1)戦争における航空機の役割 168
  (2)航空防衛力の重要性 172
  (3)航空防衛力における戦闘機の役割 173
  2、今後の航空防衛力に対する期待 199
  (1)我が国を取り巻く軍事環境 199
  (2)科学技術の進化・発展 205
  3、F‐2後継機の運用構想 207
  (1)F‐2後継機(F‐X)に求められる能力 209
  (2)開発にあたり考慮すべき事項 215

第3章 F‐2開発の経緯と教訓 田中幸雄、山ア剛美 220

 1、FS‐X(F‐2)日米共同開発の概要 220
  2、FS‐X開発の経緯 221
  (1)共同開発までの経緯 221
  (2)F‐16改造案決定と実務協議 224
  3、FS‐X共同開発からの教訓 240
  (1)日本側の反省・教訓 241
  (2)米国側の反省 248
  4、FS‐XからF‐Xプロジェクトへ 249

第4章 次期戦闘機開発の技術的課題(1) 250

 1、次期戦闘機の開発構想 250
  (1)将来戦闘機研究開発ビジョンの概要 250
  (2)31中期防における目標 252
  (3)令和2年度行政事業レビュー 255
  (4)次期戦闘機の開発構想 255
  2、技術開発のプロセス 259
  (1)防衛省における技術開発のプロセス 259
  (2)次期戦闘機における先行研究 260
  (3)ソフトウェアオリエンテッド開発 261
  (4)改修の自由度 269
  3、リスクとコストの削減 272
  (1)技術活動 272
  (2)プロジェクト管理 275
  (3)スマート・ファクトリー 279
  4、システム・インテグレーション 280
  (1)システム・インテグレーションとは 280
  (2)システム・インテグレーションの観点から押さえておくべきこと 283
  5、機体・エンジンの開発設計 284
  (1)エンジンの機能と機体とのインターフェース 284
  (2)機体とエンジンの開発プロセス 286
  6、次期戦闘機のエンジン設計 292
  (1)エンジンの研究開発と実績 292
  (2)飛行環境下のエンジンの運転試験 294
  (3)エンジンの耐久性 295
  (4)代替エンジンの検討 296

第5章 次期戦闘機開発の技術的課題(2) 298

 1、次期戦闘機のための国内研究開発の実績と成果 298
  (1)次期戦闘機の研究開発ビジョン 298
  (2)次期戦闘機に必要な技術 300
  (3)ステルス性に関する研究 302
  (4)機体に関する研究 310
  (5)エンジンに関する研究 316
  (6)アビオニクスに関する研究 324
  (7)機体構想に関する研究 330
  (8)ウエポンに関する研究 332
  (9)2019〜21年度のシステム・インテグレーションなどの研究 335
  2、次期戦闘機開発にあたっての基本的な事項 339
  (1)次期戦闘機はどのような機体か 340
  (2)戦闘機の世代区分 341
  (3)航空自衛隊の戦闘機体系と次期戦闘機の役割 344
  (4)次期戦闘機の要求性能 346
  3、独自開発と共同開発をめぐる議論 350
  4、日本主導開発の課題 356
  (1)開発技術者人材の確保 356
  (2)新たな効率的開発態勢の構築 358
  (3)開発インフラの不足 361
  (4)日本主導開発を追求する意義 363

第6章 次期戦闘機の運用上の課題 366

 1、インターオペラビィリティ(相互運用性)の確保 366
  (1)MADLとの連接 367
  (2)ミサイル、弾薬の相互運用性と国産装備品の運用 371
  (3)ステルス性能 372
  2、ミッション・システム 373
  3、電子戦 378
  4、無人機運用 379
  5、オープン・システムズ・アーキテクチャ(OSA)381
  (1)OSA規準の選択 381
  (2)次期戦闘機のOSA 385
  6、ソースコード 389
  7、維持整備体制 390
  (1)後方情報システム 390
  (2)搭載装備品の共用化 390
  (3)サプライチェーンの確保 391
  (4)3Dプリンターを利用した部品製作 392

第7章 次期戦闘機開発の運営管理上の課題 394

 1、開発経費、生産機数及び量産単価 394
  (1)開発経費 394
  (2)生産機数 398
  2、開発のプロセスの概要と開発期間 407
  3、企業連合と契約制度 411
  (1)要求性能の検討 411
  (2)開発・生産体制の構築 413
  (3)企業連合体運営上の課題 419
  4、国際装備移転 423
  (1)防衛装備移転三原則 423
  (2)海外輸出の可能性 425
  (3)輸出の形態とその課題 427
  (4)輸出に必要な要件 433
  (5)装備品輸出管理の制度と運用 436
  5、情報管理 446
  (1)企業に求められる情報セキュリティ 446
  (2)情報セキュリティ上の米国との関係 451

おわりに 岩ア 茂 455
執筆者のプロフィール 461