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 はじめに(一部)

 人生の大半を幹部自衛官として、わが国防衛の第一線で「国防」の気概溢れる隊員たちと汗と泥にまみれて訓練に明け暮れ、また、国防の中枢である防衛省陸上幕僚監部などで勤務した経験を有する筆者は、「憲法9条を守れ!」とか「憲法があれば、わが国の平和と独立を維持できる」との考えがどうしても理解できなかった。
  この一種の宗教とも言えるような考えが戦後、なぜ日本に根付いているのか、との疑問を追究するうちに、憲法の制定過程や終戦後のGHQの占領政策に興味を持ち始めた。
  そのような時、「私たちは自分たちの行為なら犯罪と思わないことで日本を有罪にしている。これは正義ではない。明らかにリンチだ」あるいは「近代日本は西洋列強がつくり出した鏡であり、そこに映っているのは西洋自身の姿なのだ。つまり、近代日本の犯罪は、それを裁こうとしている連合国の犯罪である」などとして東京裁判や占領政策を真っ向から批判する一冊の著作に出会った。アメリカ人ジャーナリストのヘレン・ミアーズ女史が書いた『アメリカの鏡:日本』である。この原書は1948(昭和25)年に出版されるが、ダグラス・マッカーサーの逆鱗に触れ、発売禁止・翻訳禁止の烙印を押されてしまった。そして、1995(平成7)年、翻訳者が泣きながら訳出したといわれる日本語版が刊行され、ようやく私たちも読めるようになった。
  この書籍から受けたショックを今でも鮮明に覚えているが、これがきっかけとなり、これまでに学び、そしていつの間にか自分の頭の中に定着していた「歴史」に疑問を持ちつつ、占領政策、大東亜戦争、昭和初期、大正、明治、江戸、ついには、初めて欧州人と関わり合いを持った戦国時代までさかのぼって「歴史」を自学研鑽するようになった。

目 次

はじめに 1

1 幕末までの「国防史」の概要 11

日本および日本人の特色/「大航海時代」と信長・秀吉の「国防」/江戸時代前半の「国防」/欧州諸国の「大変革」と周辺情勢の変化

2 幕末の情勢変化と幕府滅亡 24

ロシア・イギリスの接近と対応/「ペリー来航」/江戸幕府の狼狽と「開国」/「安政の大獄」と「桜田門外の変」/「尊皇攘夷」運動の広がりと幕府滅亡

3 明治維新による国家の大改造 34

「明治維新」と諸外国の関わり/「立憲君主制国家」の成立/「殖産興業・富国強兵」相次ぐ国家の大改造/「征韓論」と「西南戦争」/「大日本帝国憲法」の制定/明治時代の「国民精神」を育てたもの
4 日清戦争の原因・経緯・結果 48

「統帥権の独立」と旧陸軍の兵術/日清戦争の原因となった朝鮮半島情勢/日清戦争の経緯/「下関条約」締結と「三国干渉」/「台湾平定」と「日清戦争」総括

5 日露戦争の原因・経緯・結果 62

世界を仰天させた「日英同盟」締結/「事大主義」の朝鮮とロシアの南下政策/日露の「戦力」と「作戦計画」/日露戦争の経緯/日露戦争の総括

6 大日本帝国の完成 78

「ポーツマス条約」締結/異質で強大なアメリカの登場/日露戦争勝利の成果ときしみ/「日韓併合」とその後の日ロ関係/明治時代の終焉

7 大正デモクラシーと第1次世界大戦 91

大正デモクラシー─第1次護憲運動の原因と結果/第1次世界大戦の勃発・拡大とわが国の参戦決定/陸海軍の対独戦争と「対華二十一か条要求」/相次ぐ派兵要請と地中海へ海軍派遣/「ロシア革命」と「シベリア出兵」

8「激動の昭和」の道筋を決めた大正時代 106

パリ講和会議と日本/「国際連盟」の誕生/「ワシントン会議」と「日英同盟」の破棄/海軍軍縮と「ワシントン体制」成立/陸軍の軍縮と「関東大震災」/「大正デモクラシーの総決算」と「大正時代」総括

9 波乱の幕開けとなった昭和時代 121

「昭和金融恐慌」と「山東出兵」/「世界恐慌」の発生と影響/「ロンドン海軍軍縮会議」と「統帥権干犯問題」

10 大陸情勢と「満州事変」129

「満州事変」とは/満州事変前夜の中国情勢/「満州事変」勃発/昭和陸軍の台頭/朝鮮軍越境と事変の拡大/「満州国」樹立と国民の支持/リットン報告書と国際連盟脱退

11 内外の情勢変化と「支那事変」146

「二・二六事件」の背景とその影響/「支那事変」前夜の中国情勢/「盧溝橋事件」発生と拡大/そして「支那事変」へ/「支那事変」内陸へ拡大/コミンテルン・共産主義者たちの暗躍/「東亜新秩序」声明とその影響

12「ノモンハン事件」の背景と様相 166

日ソ対立の要因─ソ連側/日ソ対立の要因─日本側/「ノモンハン事件」勃発/停戦協定と事件総括

13 日米開戦に至る内外情勢 175

危機迫る欧州情勢と「第2次世界大戦」勃発/「石油の一滴は血の一滴!」/日本の戦争指導組織─陸海軍の対立/アメリカの「日米通商航海条約」破棄と第2次近衛内閣誕生/「日独伊三国同盟」と「日ソ中立条約」締結

14 日米交渉の経緯 188

「日米諒解案」をめぐる混乱と裏切りの「独ソ戦」/南部仏印進駐と米国の「対日石油全面禁輸措置」発動/「日米首脳会談」の提案と決裂/「帝国国策遂行要領」決定/「新たな帝国国策遂行要領」決定/つぶされた「暫定協定案」と「ハル・ノート」/「日米開戦」決定/米国側からみた「日米開戦」に至る経緯

15「大東亜戦争」の戦略と経緯 207

「陸軍省戦争経済研究班」(秋丸機関)の戦争研究/戦争戦略(「腹案」)の概要/「真珠湾攻撃」の真実/「ミッドウェー海戦」「ガダルカナル島の戦い」をめぐる議論と結果/「絶対国防圏強化構想」への転換と粉砕/「捷1号作戦」の発動と失敗/東京大空襲と「沖縄戦」

16「ポツダム宣言」から終戦 231

トルーマン大統領誕生/「対ソ交渉」に頼る/「ポツダム宣言」/原子爆弾の投下/天皇陛下の決断、そして降伏
17 占領政策と日本国改造 240

マッカーサー登場/最初の指令の?末と天皇陛下のご訪問/トルーマン政権による「対日政策」指示/初期の占領政策と「WGIP」/「日本国憲法」の制定と意義/「3R・5D・3S政策」/「東京裁判」の性格・結果・評価

18 内外情勢の変化と占領政策の変更 264

「鉄のカーテン」と「トルーマン・ドクトリン」/中国共産党政権の誕生/朝鮮半島の分断/国内情勢とGHQ内の対立/対日講和・再軍備をめぐる議論/「ドッジ・ライン」とその弊害/自衛権容認と講和条約をめぐる議論

19「朝鮮戦争」とその影響 285

開戦前夜の南北情勢/「朝鮮戦争」勃発と経緯/「朝鮮特需」と「警察予備隊」創設/マッカーサー解任・離日/マッカーサー証言

20「サンフランシスコ講和条約」締結と主権回復 296

対日講和をめぐる各国の主張/講和問題に対する国内の議論/サンフランシスコ講和会議の招集・条約調印/主権回復

21 大東亜戦争に至る「国の形」──総括(その1)306

「日本国防史」を振り返る/「大日本帝国憲法」と統治制度/「統帥権の独立」の特色と根本問題/見直されなかった「統治制度」/「ファッショ化」と「ポピュリズム」の台頭

22 大東亜戦争の教訓・敗因と歴史的意義──総括(その2)322

「大東亜戦争」の教訓/「大東亜戦争」の敗因分析(1)─国内的要因/「大東亜戦争」の敗因分析(2)─欧米諸国と絶対的な差異/「大東亜戦争」の歴史的意義/できなかった「共産主義拡大の阻止」

23 二度の敗北とその影響──総括(その3)339

日本は、二度敗北した!/「精神的破壊」の影響/周辺国の精神的破壊

24「国防史」から学ぶ四つの知恵 347

「静」と「動」の繰り返し/その1「孤立しないこと」/その2「相応の力をもつこと」/その3「時代の変化に応じ、国の諸制度を変えること」/その4「健全な国民精神を涵養すること」

おわりに 360
参考資料 367

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。日本製鋼所顧問を経て、現在、至誠館大学非常勤講師、パソナグループ緊急雇用創出総本部顧問、セーフティネット新規事業開発顧問、ヨコレイ非常勤監査役、公益社団法人自衛隊家族会理事、退職自衛官の再就職を応援する会世話人。