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はじめに

 変化に富み、困難だが自分の能力が試せる仕事がしたくて警官になった。刑事事件に興味があったし、ドアを蹴破って突入して凶悪犯を追い詰めるといった現場体験に惹かれたのも理由だ。
  それ以外では、大学で文芸創作専攻だったことがある。警察業務が興味深いストーリーのネタになりそうだと感じていた。この予感は当たっていたようだ。
  巡査として一三年目、巡査部長として最初の一年をつい最近終えた。最初の七年をミルウォーキー市警で勤め、現在はサンフランシスコ市警勤務。昼夜勤務、路上犯罪担当、徒歩巡回などを経て現場訓練教官や風紀犯罪取締り班で売春のおとり捜査もやった。一三年はそれほど長い時間とは言えないが、警察業務の裏ワザをいくらか身につけるには十分だった。実際、濃紺の制服は色褪せて紫色になり、肩のパッチもほつれてきたところだ。
  ここに描かれている状況やシナリオはおおむね実体験に基づいている。だが執筆の目的は自分が警察業務を熟知していることを証明するためではない。警官としてまだまだ修行中の身であり、知らないことのほうがはるかに多い。
  本書を書いた理由は二つ。まず、昔も今もただ単に書くのが好きだということ。二つ目は、警察の仕事から得られる知識体系に魅了されたからだ。警官とは最も夢中にさせられる専門職の一つなのだ。
  本書を読んで警察に対するより深い尊敬を持っていただけたら望外の喜びであるが、ここで描写されるのは颯爽と現れて人々を窮地から救う警官の姿ではない。警察業務には苛立たしいこともきわめて多く、成功の喜びは往々にして微々たるものだ。『アメリカンポリス400の真実!』はそういった現実を反映している。さらに言うなら、警察を理想化するつもりもない。実際、警察組織にはいくつもの欠点、偏見、手落ちがあり、それらを追及するのも本書の目的の一つだ。警察のありのままの姿を描くことで、自分なりの貢献ができたのではないかと感じている。我々警官は人々が考えているよりまともだったり、酷かったりする場合もある。ときには単に一般人と違っているだけということもある。
  本書は警察の仕事を一般化して描いている。しかしそれは、かなり大きな市警で勤務した二度の経験と、全米の同僚警官たちと会話を続けた所産である。警察署ごとの手続きや手順、それに刑法は所轄によって異なるが、都市部の警察業務には、明らかに均一性がある。オハイオ州クリーブランド市の警官と交わす会話はテキサス州ダラス市警や首都ワシントンの警官との会話とほとんど変わらないだろう。やり甲斐と苛酷さ、滑稽な状況と身のすくむ瞬間が代わる代わる沸き起こるのが警官の仕事だ。こういう職業をこなすための姿勢や心配事も似通ったものだ。着ている制服こそ違え、任務は同じなのだ。
  ではこれからアメリカンポリスの世界にご案内しよう。
  アダム・プランティンガ巡査部長



 

目 次

はじめに  1
第1章 発 砲  7
第2章 武力行使  25
第3章 想定外の事態  35
第4章 市民との付き合い方  52
第5章 未成年者の犯罪  68
第6章 季節と警察業務  83
第7章 法廷と法令順守  92
第8章 容疑者追跡  101
第9章 酒とドラッグ  112
第10章 犯罪捜査  129
第11章 交通取り締まり  147
第12章 死 体  155
第13章 売春婦と客  162
第14章 家庭内暴力  173
第15章 同僚警官  179
第16章 嘘つき  201
第17章 逮 捕  216
第18章 スラム街の治安維持  226
第19章 警官の心得  238
訳者あとがき  275

アダム・プランティンガ(Adam Plantinga)
カトリック系市立大学「マーケット・ユニバーシティ」で英文学ならびに犯罪学・法律を専攻。1995年優等で卒業。全米優等学生協会会員。著者の短編『無題』はアンソロジー『25歳以下のフィクション』に収録された。ワシントン・ポスト紙の文芸評論家ジョージ・ガーレットは同アンソロジーの中で最優秀候補作だと評価。このほか警官職のさまざまな分野に関するノンフィクション作品13編をバルパライソ大学出版局の文芸雑誌「クレセット」に寄稿。2001年から2008年までミルウォーキー市警で勤務。現場訓練教官も務めた。現在、サンフランシスコ市警巡査部長。ベイエリアで妻と娘と暮らす。

加藤 喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ州立大学フェアバンクス校ほかで学ぶ。88年空挺学校を卒業。91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢うまで』(いずれも並木書房)がある。現在メルマガ「軍事情報」で配信中。