目 次
序 新潟港北岸壁 3
第一章 西ノカタ陽關ヲ出ヅレバ…… 11
第二章 日学同篇――友情の絆、天と海 星を貫く鎖のごと強し 38
第三章 重遠社篇――任重ク道遠シ、我が往く道は修羅なり 99
第四章 唯我一人ノミ能ク救護ヲ為ス 166
解説 玉川博己(三島由紀夫研究会代表幹事) 226
解 説(一部)
玉川 博己(三島由紀夫研究会代表幹事)
本書が描く三浦重周(本名重雄)は昭和二十四年九月に新潟県巻町(現新潟市)で生まれ、平成十七年十二月郷里に近い新潟港岸壁で自刃によって命を絶ち、五十六歳の生涯を終えた民族派の社会運動家である。三浦重周の名前は世間一般では殆ど知られず、マスコミもわずかに「週刊新潮」が三浦重周の死の直後にそのコラムで彼の自刃を簡単に紹介しただけであった。
筆者の山平重樹氏が題名に選んだ「決死勤皇 生涯志士」とは生前の三浦重周の座右の銘であり、また世の名利や栄達を求めず、文字通り清貧にして高潔なひとりの草莽の士として生きた三浦重周にふさわしい題名ではないだろうか。三浦重周のひっそりとした死は、昭和三十五年安保騒動の年の秋に社会党の浅沼稲次郎委員長を刺殺し、その後獄中で自決して世間を驚かせた十七歳の山口二矢少年の死とも、また昭和四十五年十一月市ヶ谷台の陸上自衛隊東部方面総監部で憲法改正を訴えて壮烈な自刃を遂げた三島由紀夫、森田必勝の両氏の死とも全く異なり、極めて静かな死であった。私が当時彼の死の知らせを聞いて真っ先に脳裏に浮かんだのは江戸時代寛政期の勤皇家である高山彦九郎であり、昭和五十年三島由紀夫の後を追うように自裁した作家の村上一郎であり、そして昭和五十四年元号法案の成立を熱?して自決した大東塾の影山正治塾長であった。派手なことを嫌い、自ら有名人になることを望まなかった三浦重周はおそらくこうした先人たちの生き方を誰よりも深く考えていたのではないだろうか。
筆者の山平重樹氏は学生時代以来三浦重周と親しくその人となりをよく知る作家である。山平重樹氏はすでに『果てなき夢 ドキュメント新右翼』(平成元年、二十一世紀書院)と『戦後アウトローの死に様』(平成二十五年、双葉新書)の二冊の著書において三浦重周のことについても触れているが、今回あらためて少年時代から最期にいたるまで三浦重周と交流のあった多くの知人、友人に直接インタビューを行ない、極めて多角的に三浦重周というひとりの人間の人物像とその生涯を描いたものである。
(中略)
三浦重周は幼少期から頭脳明晰学業優秀であり、望めば政治家にも学者にもまたはジャーナリストにもなりえた才能の持ち主であった。しかし生来不器用な彼は自ら信ずる道を途中で放擲することをせず、世間的な利己と名誉を求めることなく、あくまで生涯にわたって信念を貫く生き方を選んだといえる。本書のタイトルでもある「決死勤皇 生涯志士」はまさに三浦重周の生き方を表す言葉である。
晩年の三浦重周は決して他人の悪口をいわず、逆に党派をこえて多くの人士から愛され、慕われる存在であった。吉田松陰や西郷南洲がそうであったように、何よりも至誠を重んじ、他人に対する思いやりを大切にした三浦重周は、彼と接すれば接するほどその人柄が他人を引き付ける不思議な魅力を持っていた。それは三浦重周の同志、仲間たちだけでなく、それまで三浦重周と敵対していた人々をも最後には三浦のシンパにしてしまう力であった。本書で書かれた多くの知人、友人たちの証言からもそれがうかがえることができよう。だから三浦重周の死後もその命日である「早雪忌」には今なお多くの友人や後輩が集まってその人徳を偲んでいる。生涯至誠純忠、敬天愛人の精神を貫き、清貧に甘んじた三浦重周は財産を何も残さなかったが、しかし一方で彼が残したものは、彼を慕う多くの友人と弟子たちであった。その彼らが今は三浦重周の遺志を受け継いで「憂国忌」運動をたゆむことなく続けているのである。三浦重周は決して何か大きなことを成し遂げた有名人でもないし、またいわゆる右翼テロリストでもなく、あくまでも草莽の志士として生き、そして静かに死んでいった男であった。多くの読者が本書を通じて、戦後日本のある時期に野にあってこのように高い志をもって生きた三浦重周という男がいたこと、そしてその人となりを知って頂ければ、ひとりの友人として望外の喜びである。最後に三浦重周伝をこのような力作に書き上げて頂いた筆者の山平重樹氏に対して敬意と感謝の念を捧げたい。
山平重樹(やまだいら・しげき)
昭和28年山形県生まれ。法政大学文学部卒業。アウトローの生き様を描き続け、ノンフィクション、ルポルタージュ、小説など幅広いジャンルで活躍中。実在するヤクザの交渉術を記した「ヤクザに学ぶ」シリーズがベストセラーを記録。『殘侠』『愚連隊列伝 モロッコの辰』など映画化、Vシネ化された著作をはじめ、『ヤクザの散り際 歴史に名を刻む40人』『連合赤軍物語 紅炎(プロミネンス)』『実録小説 神戸芸能社〜山口組・田岡一雄三代目と戦後芸能界』など著書多数。
近著に『高倉健と任侠映画』(徳間文庫カレッジ)がある。
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