目 次
まえがき――石川明人 1
序章 「戦争」とは何か? 9
T 戦争の現実 23
第1章 人は人を殺したがらない 24
第2章 それでも戦争はなくならない 39
第3章 戦闘における生理と心理 57
第4章 宗教と戦争の関係 73
U 戦いの中の矛盾 89
第5章 「人を殺すな」か「人を殺せ」か? 90
第6章 聖書・キリスト教における「平和」104
第7章 軍事大国アメリカの宗教 118
第8章 日本のクリスチャンと戦争責任 134
第9章 キリスト教史の中の暴力と迫害 147
第10章 戦場の聖職者たち 161
V 平和への葛藤 173
第11章 テロをめぐる善と悪 174
第12章 戦うことは絶対に許されないのか? 189
第13章 兵役拒否と宗教 205
第14章 世界の諸宗教の平和運動 222
あとがき――星川啓慈 236
■あとがき
本書を執筆した私たち二人は、いずれも宗教学ないしは宗教哲学という領域で専門的に仕事をしてきました。宗教について勉強していると、「どうしても戦争のことを知らなければならない」という場合が出てきます。人間の歴史をふりかえれば、ほとんどの時代・地域において何らかの「宗教」が営まれ、同時に「戦争」も絶え間なく起こり、両者は密接に連関しているからです。
また、宗教も戦争も、共に「生と死」に向き合い、理想と現実との葛藤を抱え、合理性と非合理性をあわせ持つ、実に不可思議な人間の営みです。宗教の研究者は、あまり戦争そのものについて論じませんし、戦争の研究者は、あまり宗教そのものについて論じません。しかし、この二つはともに、他の動物には見られないという意味で、実に「人間らしい営み」です。したがって、宗教に関心のある人は戦争にも関心を持つはずであり、また、戦争に関心を持つ人は宗教にも関心を持つことが自然であるように思われます。
宗教には、人に心の平安を与えたり、人を救済したりするという側面があります。その一方で、宗教には苛烈な側面もあり、他宗教に対して非寛容であったり、戦争を推し進めたりもします。
また、戦争という「悪」にしても、これまでにいろいろな原因やスタイルのものがありますが、それらのすべてが純然たる悪意をその源としている、ともいい切れません。「宗教」も「戦争」も、不可思議な矛盾をはらんだ営みです。
人間は、理想や道徳を頭で知ってはいても、必ずしもその通りに生きていくことはできません。「戦争をやめてみんな仲良くしましょう」と口ではいっていても、学校や職場のささいな人間関係に悩み、すべての人と仲良くできるわけではないというのが、現実の人間の姿です。「宗教と戦争」というテーマにおいては、そうした人間の根本的な矛盾が露わになります。
本書の究極的な狙いは、狭い意味での「宗教」や「戦争」にかかわる議論そのものにのみこだわることではありません。むしろ、それらの問題を手がかりとして、「人間の根本的な矛盾」を自覚し、それを問うことです。
「戦争と宗教の交錯」を通して意識される問い――人は何のために生きるのか、人はなぜ矛盾や葛藤を背負わざるを得ないのか、という問い――は、広い意味での宗教哲学的な問いだといってもよいでしょう。
今回、私たちは「戦争研究と宗教研究という二つの領域を橋渡しするようなものを書けないか」と思案しました。大学生や一般の方々を読者に想定しており、また紙面も限られていますから、あらゆる戦史や宗教文化に言及することはできませんでした。けれども、「重要な問題をシャープに抉りだして見せた」という自負がないわけでもありません。
本書で論じたテーマや問いかけが、今後の宗教や戦争をめぐる議論のささやかな足がかりになることを願っています。
最後になりましたが、本書の出版を快く引き受けてくださった、並木書房さんに心から御礼申し上げます。また、原稿を読み特に軍事に関して多くのコメントをくださった、石神郁馬さんにも御礼を申し上げます。(星川啓慈)
各章の執筆分担は次の通り。
序章、第1章、2章、3章、4章、5章、11章、14章、あとがき(星川啓慈)
まえがき、第6章、7章、8章、9章、10章、12章、13章(石川明人)
星川啓慈(ほしかわ・けいじ)
1956年愛媛県生まれ。筑波大学第二学群比較文化学類卒業、同大学大学院博士課程哲学・思想研究科単位取得退学。博士(文学)。現在、大正大学文学部教授。専門は宗教哲学。著書に『宗教と〈他〉なるもの』(春秋社)、『対話する宗教』(大正大学出版会)、『言語ゲームとしての宗教』(勁草書房)、『宗教者ウィトゲンシュタイン』(法藏館)などがある。
石川明人(いしかわ・あきと)
1974年東京都生まれ。北海道大学文学部卒業、同大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。北海道大学助手、助教をへて、現在、桃山学院大学社会学部准教授。専門は宗教学、戦争論。著書に『ティリッヒの宗教芸術論』(北海道大学出版会)、『戦場の宗教、軍人の信仰』(八千代出版)、『戦争は人間的な営みである―戦争文化試論』(並木書房)などがある。
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