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目 次

はじめに

パート1 日本企業を襲うさまざまな脅威

1 「地政学リスク」が高まっている

地政学リスクと無縁ではいられない日本人
「秩序」が崩壊するということの意味
フセイン政権崩壊が隣国に与えた影響
米国の「対テロ戦争」が中東の秩序崩壊の引き金を引いた
イスラム過激派勢力と激しい内戦を続けるアルジェリア
対テロ戦争の「ブローバック」現象
中東地域の不安定化に拍車をかけるシリア内戦
大詰めを迎えるシリア内戦
イラン新大統領が見せた対話姿勢
イラン核開発問題が決裂すれば危機は再燃
米軍撤退でさらに悪化するアフガニスタン情勢
日中は危険なチキン・ゲームに突入する
挑発ゲームをエスカレートさせる北朝鮮

2 海外進出の日本企業を狙うテロ

イスラム武装勢力に襲撃されたアルジェリアの巨大ガス施設
最後は人質もろとも自爆
武装勢力の正体とテロの背景
予想されたアルジェリア政府の対応
増大する武装勢力の脅威
リビア米領事館襲撃事件
「日本人は狙われない」は通用しない
なぜ英国人犠牲者は少なかったのか?
明暗を分けた「セキュリティ体制」
セキュリティを軽視する日本企業
日本企業にとってテロは現実的な脅威である

3 身代金誘拐の脅威と人質解放交渉術

動機に応じて異なる誘拐の形態
身代金誘拐はテロ組織にとってもっとも重要な資金源
身代金の支払いに応じやすい国と、そうでない国
セキュリティ訓練で誘拐・人質を「疑似体験」
覆面姿の男たちが発砲しながら飛び出してきた!
「生き残りのチャンスをのがした」
事前の訓練が生死を分ける
頼りになる「誘拐・身代金(K&R)コンサルタント」

4 多様化する一般犯罪の脅威

テロや犯罪の手法はまたたく間に伝播する
空港は「脅威」の玄関口
「見せる警護」をして犯罪を抑止する
警官も信用してはいけない
ホテルにおけるセキュリティ
安全なホテルを選ぶためのチェックポイント
脅迫・恐喝の脅威から身を守る
部族間闘争と宗教・政治暴動
情報分析の重要性
エジプト反政府デモの内幕
「仕方がない」では済まされない
自らの頭で考えて分析・判断する

5 国家安全保障を脅かすサイバー攻撃

攻撃能力を持つ米軍のサイバー部隊
米中のサイバー戦争
愛国教育から生まれた中国のハッカー
中国による大規模なサイバー攻撃
世界最初のサイバー戦争
国際的なハッカー集団「アノニマス」
民間企業を狙う「標的型サイバー攻撃」
サイバー空間を使ったスパイ活動
イランの核開発を遅らせた「スタックスネット」
進化する「宣戦布告なき戦争」
オバマ大統領が引き継いだ秘密工作
サイバー攻撃に弱い日本企業
サイバーの脅威を分析し対処できる人材の育成

6 「セキュリティ意識」を高める

「目標の強靭化」がテロ行為を困難にさせる
大規模攻撃からソフト・ターゲットへ
テロ組織の「フランチャイズ化」
テロリストの偵察活動
「職人芸」を要する偵察活動
偵察発見の原則は「TEDD」
「状況認識」を高める三つの原則
五段階の意識レベル
「落ち着いた意識の状態」を保つには?
「緊急事態対処計画」を用意する
正しい「状況認識」が生死を分ける
SNSの緊急警報メールを活用する
計画は訓練によって問題点を改善せよ
「直感」があらゆる危機に備える第一歩
危険を早期に回避する「攻撃認識」
銃撃から身を守る
銃撃の弾下ではこうして生き残れ!
危機地域からの退避計画
避難の手段と手順を複数用意する

パート2  国別の地政学リスクとセキュリティ対策

中東編

地域全体を覆いつつある不安定化とリスク
シリア――泥沼化する内戦
シリア内戦の複雑な構図
シリア内戦に見られる宗派対立
シリアの化学兵器と米露合意による廃棄プロセス
アラブ諸国で強まる対米不信
シリア和平プロセスと内戦の激化
イラン――不透明な核協議の行方
イランの核開発とイスラエルの「レッドライン」
欧米諸国との対話に乗り出したロウハニ新大統領
核協議の再開と米議会の反対
イラク――激化する宗派対立
「内戦」の瀬戸際に逆戻り
始まった宗派対立の「負の連鎖」
マリキ政権最大の敵「アルカイダ・イラク」
シリアとイラクで同時に宗派抗争が激化
イラクにおける安全対策
「赴任前危機管理訓練」の必要
トルコ――中東政治での微妙な立場
日本とトルコの密接な経済関係
シリア内戦がトルコに飛び火する危険性
経済進出にともなうリスク

アフリカ編

エジプト、チュニジア――政情不安による治安悪化
リビア、アルジェリア、モロッコ――高まるテロの脅威
政情不安の北アフリカ諸国
内戦状態にあるアルジェリア
犯罪行為と強く結びつくテロ組織
失敗したイナメナスの人質救出作戦
テロ攻撃を防ぐための「安全対策」
セキュリティ計画を常にアップデートさせる
政治的な安定を維持しているモロッコ
一般犯罪の脅威から身を守る
爆発物による被害を防ぐ
途上国における最大のリスクは交通事故
モザンビーク――テロのリスクは低い
長い戦争をへて誕生した国
新たに発見された天然資源
今のところテロのリスクは低い
タンザニア――政治的混乱の可能性が高い
イスラム・テロ組織が勢力を伸ばしている
将来的に政治的混乱の可能性が高い
ケニア――テロにより治安情勢は悪化
悪化する首都の治安情勢
ケニア人とソマリア系住民の対立
内在する民族間の政治闘争
首都ナイロビで発生したテロ襲撃事件
ソフト・ターゲットを狙ったテロの脅威
南スーダン――政治的な腐敗と暴力
世界で最も未発達な国家
政治的な腐敗と暴力が蔓延している
ナイジェリア――北部の過激派の台頭
劣悪なインフラと電力事情
イラン系テロ組織の活動
二〇一五年の大統領選挙
北部での武装反乱の長期化
マリ――イスラム過激派勢力の隠れ場所
マリ北部の「無法地帯」
再結成をはかる多国籍のイスラム武装勢力
南アフリカ共和国??貧弱な警察力と高い犯罪率
常に資金不足の警察や司法機関
自宅には「セーフルーム」を設置しておく
ナミビア――経済成長にともなう新たな緊張
警察は機能し犯罪率も高くない
経済成長にともなう新たなリスク
ジンバブエ――政治的混乱にともなう社会不安
機能不全に陥っているジンバブエ経済
政治的混乱は当分続く
アンゴラ――MPLAの一党独裁
石油産業に依存しているアンゴラ経済
議論を呼んだ「サイバー犯罪法」
アンゴラの治安状況

アジア編

パキスタン――テロ戦争の後遺症に苦しむ
宗派抗争で治安が悪化
対テロ戦争の影響をまともに受けたパキスタン
米軍のアフガン撤退によりさらに不安定化
インド――宗教対立の火種が拡散
ブッダガヤの世界遺産で起きた爆弾テロ
拡大するイスラム教徒と仏教徒の衝突
米軍のアフガン撤退で武装闘争が激化
ミャンマー――イスラム教対仏教の抗争
高まるロヒンギャ人の「人権問題」
国内の不満勢力によるテロのリスク
欧米と中国の利害が交錯するホットスポット
タイ――政情不安のリスク
深南部で続くイスラム教徒の武装抵抗
タイ国王の健康問題と政情不安のリスク
インドネシア――水面下でのテロ活動
テロの根絶にはほど遠い現状
テロの標的になりそうな場所には近づかない
パプア・ニューギニア――日常的に犯罪が発生
強盗集団「ラスカル」
警備会社も信頼できない
的確な情勢分析がリスクを回避する
中国――高度化するスパイ活動
中国特有の政治主導のリスク
中国の最大の懸念はスパイ活動
より攻撃的になっているサイバースパイ活動
サイバースパイ問題をめぐる米中の確執
激化する権力闘争が新たなスパイ活動につながる
サイバースパイをめぐり米中対立は先鋭化している

中南米編

犯罪と暴力が広く拡散している
暴力のコストが経済発展を阻害する
メキシコ――麻薬と犯罪の国
麻薬カルテル同士の抗争が激化
トレオン暗殺作戦
ミチョアカン・ハリスコ州境での暴行事件
カンクンのタクシー抗争
ロス・セタスの新たな敵対勢力の出現
首都メキシコシティでも注意が必要
グアテマラ、ニカラグア、ホンジュラス
ブラジル――非効率な経済活動と犯罪の多発
五輪開催に向けて対麻薬組織作戦
警察の腐敗・癒着が恒常化している
「人質」にされるワールドカップとオリンピック
ベネズエラ――治安の悪化とインフラの劣化
困難な経済状況に行き詰まる新政権
チャベス政権後の最大の試練
緊縮政策と暴動のリスク

おわりに




おわりに

 二〇一三年一月一六日にアルジェリアのイナメナスで発生した痛ましい人質・テロ事件はいまだに記憶に新しい。この事件は海外で事業を展開する日本企業や日本政府関係者に大きな衝撃を与え、各企業は海外事業における危機管理体制を見直し、政府も邦人保護強化のための取り組みに乗り出した。
  しかし、この壮絶な事件から半年経った七月一五日には、ケニア南東部のモンバサで、日本の建設会社社員が銃を持った強盗団に襲われて殺害される事件が発生。八月には、軍事クーデター後も軍部とモスリム同胞団の衝突が続いていたエジプトで、非常事態宣言が発令され、首都カイロを含む一四県で夜間の外出禁止令が出された。この騒乱の拡大を受けて、エジプトに進出する日本企業は、生産休止や事務所移転、従業員の緊急退避など、非常事態対応に追われた。
  そしてそれ以降も、ケニアの首都ナイロビのショッピングモールでのテロ事件やタイでの反政府デモ、ウクライナにおける反政府デモなど、海外にいる邦人の身の安全を脅かす事件が次々に発生し、各企業の安全対策担当者を悩ませている。
  冷戦終結から米国による一極支配を経て、現代は、米国の相対的な力の低下に端を発する国際的な戦略バランスの変化の中で、既存の秩序や力の均衡が崩れ、世界が新たな秩序を求めて大きく不安定化している時代だと言える。
  そうした時代にあって、国境紛争や民族紛争、宗教対立やテロ、民衆による暴動が多発するのは、むしろ当然だとさえ言える。こう考えていくと、二〇一三年に起きた事件は、これからの世界で発生する事態の序章に過ぎないのかもしれない。
  現代において、国際情勢の的確な分析は、企業危機管理に直結する問題になっている。海外で事業を展開する日本企業にとって、国際情勢の分析を含めた危機管理体制の強化は、待ったなしの時代に突入したのである。
  アルジェリア・テロの悲劇を繰り返さないためにも、各企業は社員の命を守る体制の構築を一刻も早く整えなければならない。
  外務省をはじめとする日本政府も、邦人保護強化のためにさまざまな政策を打ち出しているが、政府が実際にできることには限界がある。
  各企業は、政府に頼ることなく、自分たち自身で情報を収集し、自ら考えて判断していかなければならない。究極的には自分たちの命は、自分たち自身で守らなければならないのである。
  国際情勢は大きくダイナミックに動いている。本書を、現在進行形の世界情勢の背景を理解するためにお役立ていただければ幸いである。
  さらに「自分たちの社員は自分たちで守る」という気概を持った逞しい日本企業のお役に立てるならば、これにまさる喜びはない。
 
  二〇一四年一月
                                         菅原 出

菅原 出(すがわら・いずる)
1969年東京生まれ。中央大学法学部政治学科卒。1994年よりオランダ留学。1997年アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係学修士。在蘭日系企業勤務、フリーのジャーナリスト、東京財団リサーチフェロー、英危機管理会社役員などを経て、現在は国際政治アナリスト。会員制ニュースレター『ドキュメント・レポート』を毎週発行。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争詐欺師』(講談社)、『ウィキリークスの衝撃』(日経BP社)、『秘密戦争の司令官オバマ―CIAと特殊部隊の隠された戦争』(並木書房)などがある。

ニルス・G・ビルト(Nils G.Bildt)
インテリジェンス・アナリスト。モントレー国際大学院で修士号、コロンビア大学でEMBA取得。海軍将校(特殊作戦)としてボスニア、コソボやコンゴ民主共和国等での紛争で作戦に従事。中東やアジア地域での対テロ作戦、情報収集や分析任務に携わった。その後ファイザー社でグローバル・マーケティング・リサーチをはじめ数々のポストを経験。その後、情報政策研究所(Information Policy Institute)の設立にかかわり、データ・セキュリティやプライバシー保護政策の研究活動を行なう。その後、日本の参議院・外交防衛委員会委員長シニア・アドバイサーをつとめた。現在は、政治・企業リスク分析からロジスティックス支援、各種リスク・マネージメント・サービスを提供するCTSS Japanの代表取締役。