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<< 書評 >>

◆シークレットサービスの「手抜き」により、オバマ大統領に対する危険が増大していると著者は指摘しているが、これは本書で最も注目を引くスッパ抜きだろう。著者の洞察眼はまことに鋭利で、シークレットサービスの任務に初めてメスを入れ、大統領をはじめVIPの不穏当な私的言動に関する数多くのエピソードを紹介している。(USA Today紙)

シークレットサービス警護官と彼らが警護する大統領の内幕を白日の下にさらけ出している。著者は国家安全保障機構について造詣が深く、これら機構の上層部への浸透ぶりは、「ウォーターゲート事件」を暴露したボブ・ウッドワード記者に匹敵するだろう。(ニューヨーク・ポスト紙)

歴代大統領のプライベートな言動についての途方もない逸話が明るみにされている。ショッキングな挿話のいくつかは、その信憑性が疑われるものの、取材源である現役と退役の警護官の大半を実名で明かしていることは賞賛に値する。(TVデイリー・ショー)

「ワシントン・ポスト」と「ウォールストリート・ジャーナル」両紙の元記者である著者は、シークレットサービス元警護官らに、その内幕を明らかにさせるのに成功している。これら元警護官が語る内実の一部は信じがたいが、取材源の多くを実名で紹介している。(ライブラリー・ジャーナル誌)

本書の真の意味での重要性は、警護官や警護する重要人物の生命を不必要に危険にさらしている事実に警鐘を鳴らしていることにある。(examiner.com)


<< 著者の言葉 >>

 妻パメラ・ケスラーは、日々の生活は言うまでもなく、執筆でも良きパートナーとなってくれている。かつて『ワシントン・ポスト』紙記者として活躍し、首都ワシントンでのスパイ活動を白日の下にさらした『スパイ活動――ワシントンでは』(Undercover Washington)の著者でもある。パメラは本書のタイトルを考案してくれ、シークレットサービス本部やその訓練センターでのインタビューに同行し、迫真の叙述を考え出し、原稿をその予備段階で編集してくれた。パメラの愛と賢明な判断に感謝したい。
  わたしが、執筆の最終段階までたどり着けたのは、思うに、いまや大きくなったわたしの子供たち、レイチェルとグレッグの愛と励ましによるものであった。また継子のマイク・ホワイトヘッドも、忠実にしかも愛情をこめて子供たちと一緒になって励ましてくれた。
  クラウン・パブリッシング社出版部次長メアリー・チョッテボースキー氏は、この著作の最終原稿をものの見事に編集してくれた。本書の出版にあたり、メアリーとそのスタッフは抜群の力を絶えず発揮してくださった。
  わたしの出版代理人であるトライデント・メディア会長ロバート・ゴットリーブ氏は、わたしのこれまでの著書出版の経歴で、方向づけを絶えずしてくださり、わたしに対する支援は不動であった。

  本書の上梓を思いつく以前に、わたしはシークレットサービスについてのネタを収集していた。だが、執筆を本格的に始めたのは、最初あるシークレットサービス警護官が、その後複数の警護官が話してくれたシークレットサービスの管理運営上の問題に、わたしが関心を持ったからだ。
  わたしが面談した警護官はだれもが優秀で、彼らが唯一望んでいるのは、シークレットサービスの改善であり、最終的には新たな暗殺の発生を未然に防止することである。彼ら警護官に対して、わたしは尊敬と感謝の意を表したい。

  本書を執筆するにあたり、わたしは取材に協力するとのシークレットサービスの賛同を得た。そうした例はこれまでになく、本書は唯一のものと言えよう。最初の段階でわたしは、これまで自分が書いてきた著書や執筆した記事に基づきながら、ある記事ではすでに提起しているシークレットサービスの管理運営上の問題点について、この本でも取り上げることになると、電子メールで伝えた。それに対して、シークレットサービス関係者は、わたしがシークレットサービスを正確かつ公平に描写してくれるものと信じてくれた。
  シークレットサービスは、広範囲にわたる警護官とのインタビューの日取りを調整し、ローリー訓練センターでは実技訓練と施設を見学させてくれた。さらにシークレットサービス本部で超極秘とされている施設の見学も許可してくれ、写真を提供し、質問に応じてデータをまとめてくれた。
  シークレットサービス長官マーク・サリバン氏、政府公共問題担当副長官補ジェームズ・W・マッキン氏、政府公共問題担当特別捜査官エリック・P・ザーレン氏、それに政府公共問題担当特別捜査官補エドウィン・ドノバン氏が、援助の手を差しのべてくれたことに、お礼を申し上げたい。
  今回の取材では、シークレットサービス長官、副長官をはじめ、現役および退役警護官など百人以上の方々が実名あるいは匿名で、インタビューに応じてくださった。
  民主主義の防波堤であるシークレットサービスについて、わたしの想いでは完璧な描写ともいえる情報を提供してくださったこうした方々に、わたしは心から感謝している。
  本書で明らかにしたすべての問題点が、惨事を回避できる改革への道程を開いてくれること――これこそ、本書を上梓したわたしの願いである。




<< 目 次 >>

謝辞 2
プロローグ 9
1 トルーマン大統領 11
2 ケネディ大統領 21
3 ジョンソン大統領 27
4 脅迫者 36
5 ニクソン大統領 45
6 暗殺者 57
7 フォード大統領 68
8 ホワイトハウス 76
9 ジャッカル 86
10 カーター大統領 93
11 大統領専用車 106
12 レーガン大統領 114
13 ナンシー・レーガン 122
14 シークレットサービス訓練所 130
15 レーガン暗殺未遂事件 137
16 警護官の憂鬱 152
17 ブッシュ大統領(第41代)165
18 霊能者の予言 177
19 クリントン大統領 184
20 警護の曲がり角 191
21 大統領の居場所 203
22 手抜きの始まり 215
23 ブッシュ大統領(第43代)226
24 時代遅れの装備 236
25 ブッシュの令嬢ジェンナとバーバラ 245
26 チェイニー副大統領 257
27 オバマ大統領 270
28 ブッシュ暗殺未遂 286
29 水増しの統計数値 295
30 職務怠慢 305
エピローグ 315
シークレットサービス略史 318
訳者あとがき 322



<< 訳者あとがき >>


  一見してなんでもなさそうな手抜きが大事に至ることが時としてある。二〇〇九年一一月、オバマ大統領が主催したインドのシン首相招宴公式晩餐会に、招待されていない夫妻が紛れ込み、大統領と握手を交わすという信じられない事件が発生した。後になり、大統領警護担当のシークレットサービスは、招待者リストと照合する儀典の手順を踏まなかったとして、警備上の手抜きがあったことを不承不承認めた。この事件は、大統領と握手をしている夫妻の写真つきで全米に報道され、大きな反響を呼んだ。
  その後、下院国土安全保障委員会で、シークレットサービスのサリバン長官は、「招かれざる賓客」は夫妻だけで、他には闖入者は誰一人としていなかったと証言した。だが、事実は招待されたインド代表団に紛れ込み、晩餐会に姿を現したアフリカ系アメリカ人男性が一人いた。この事実をすっぱ抜いたのが、本書の著者ロナルド・ケスラーであった。その後、サリバン長官は、この男性の闖入について言及を避けていたが、後になり事実であったことを認めた。
  このように、シークレットサービスには従前どおり手抜きがあり、クールな演説と知性の点で、ジョン・F・ケネディとの類似性が多々見受けられるオバマ大統領は、アフリカ系アメリカ人でもあるので、暗殺の脅威が前大統領ジョージ・W・ブッシュに比べて四倍増大したと、著者は本書の中で繰り返し警告している。さらに、シークレットサービス首脳部の事なかれ主義、確固たる指導体制の欠如、装備している時代遅れの武器、それに過小な年間予算に対しても、著者は警鐘を乱打している。

  さて、本書は、二〇〇九年秋にアメリカで出版された『大統領を警護するシークレットサービスの内幕――火線に立ち向かう警護官と担当する歴代大統領警護の舞台裏では』(In the President's Secret Service -- Behind the Scenes with Agents in the Line of Fire and the Presidents They Protect, New York: Crown Publishers: 2009)の邦訳である。
  特筆すべきは、本書執筆に当たり、著者は取材に協力するとのシークレットサービスの合意を得ていることで、インタビューの対象は、現役および退役警護官あわせて一〇〇人以上にも及び、これら対象者の証言の大半を実名で紹介していることだ。
  本書は上梓されて以降、『ニューヨーク・タイムズ』のノンフィクション部門ベストテンでは、八週間連続して二位の座を堅持した。アマゾンの政治部門では一位。それに、アメリカ国内だけでも、販売部数がこれまでに一五万部の大台に達し、洛陽の紙価を高めている。海外では、中国、台湾、韓国、ドイツ、ポーランド、チェコ共和国、ルーマニアとフィンランドでも翻訳出版され、その売れ行きは好調と伝えられている。

  現在、『ニュースマックス・コム』ワシントン総局長である著者は、一九六四年に『ウスター・テレグラム』に記者として就職、のちに『ボストン・ヘラルド』で調査報道記者兼論説員として活躍、六八年には『ウォールストリート・ジャーナル』ニューヨーク総局記者となり、七〇年から一五年間にわたり『ワシントン・ポスト』で調査報道記者としてその名声を博した。これまでに、ジャーナリズム分野での貢献で一七回受賞しているが、そのうちには米国政治学会公共問題報道賞やAP通信社セベロン・ブラウン賞などがある。

  本書で最も注目すべきは、シークレットサービスが、特に二〇〇一年の同時多発テロ事件の翌年新設の国土安全保障省傘下に置かれて以来、シークレットサービスが硬直した官僚機構と化してしまっていると、著者が警告していることだ。
  また、著者は現長官マーク・サリバンの指導力にも言及している。内部の問題点をさらけ出して対処する管理能力が欠落し、シークレットサービスの手抜きをする悪習が、どのように警護官と要警護者の安全を危うくしてきたかを、サリバンは認識していないと糾弾している。運営面での全面的改善を期すには、シークレットサービス部外からの長官選出が必須だと、著者は力説する。
  さらに、本書の特色の一つは、歴代大統領のプライベートな側面を白日の下にさらしていることだ。アメリカ人の間には、大統領を理想化し、大統領といえども所詮人間であることをいの一番に等閑視してしまう傾向が見られる。政界の最高指導者による女性とのスキャンダルは、なにもアメリカだけではない。八九年宇野宗佑首相が就任して三日後「サンデー毎日」に神楽坂の芸妓の告発が掲載され、当初国内のマスコミは沈黙していたが、「ワシントン・ポスト」が報じるに及び、日本でも話題にのぼった。
  本書では、こうした不倫行為だけでなく、歴代大統領の喜怒哀楽に焦点を当てることによって、歴代大統領のプライベートな一面の紹介にバランスを保っている。
  この著作のエピソードで最も鳥肌が立つ思いをさせられたのはカーター大統領だ。大統領副官は核報復攻撃開始を下命するのに必要な文書が入れられたブリーフケースを常時携行しているが、カーターはジョージア州の自邸に滞在中、自邸あるいはその近辺に副官を待機させなかったという。副官は車で片道一五分の町に滞在していたので、核攻撃の際にカーターの自邸に到着した頃には、アメリカは地球上から抹殺されていたことだろう。

  アメリカ市民に頻繁に接してお互いに意見を虚心坦懐に交換することを望む大統領と、大統領やその他政府首脳のより強固な身辺警護を望むシークレットサービスとの乖離がなくなる徴候は目下のところ皆無であることを、著者はそのまとめで述べている。

ロナルド・ケスラー(RONALD KESSLER)
『ワシントン・ポスト』と『ウォールストリート・ジャーナル』両紙の記者として、これまでジャーナリズム賞を17回受賞。著書に『ニューヨーク・タイムズ』紙がベストセラーとして取り上げた『テロリストの監視』(The Terrorist Watch)、『局―ホワイトハウス内部では』(The Bureau, Inside the White House)、『CIA』(The CIA)など18冊のノンフィクションがある。現在メリーランド州ポトマックに夫人パメラと在住。ウエブサイトはwww.RonaldKessler.com.

吉本晋一郎(よしもと・しんいちろう)
昭和2年生まれ。鳥取県出身。朝日新聞国際配信部記者、朝日イブニングニュース編集局長、神田外国大学講師を歴任。主な訳書、ロバート・カイザー『ソ連の中のロシア』、スヴォーロフ『ソ連軍の素顔』、ウラジミール・ゴリャホフスキー『ロシアン・ドクター』、チュオン・ニュ・タン『ベトコン・メモワール』、チェン・ニエン『上海の長い夜(篠原成子と共訳)』(以上原書房)、ロバート・ゲイル『チェルノブイリ』(岩波新書)ゴードン・トーマス『医者と拷問』(朝日新聞社)『北京の長い夜』(並木書房)、ジョレス・メドベージェフ『チェルノブイリの遺産』(みすず書房)。