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目 次

はじめに 1
謝 辞 5
本書の概要 15

序章 変貌する世界  30

  連続より変化 32
  さまざまな未来 34

第1章 グローバル化する経済  39

  バック・トゥ・ザ・フューチャー(未来への帰還)40
  増大する中産階級 41
  国家資本主義──アジアで台頭する民主主義以後の市場 42
  現在の世界的不均衡を修正するための多難な道 45
  多数の金融ノード 48
  分岐する発展モデル──しかしどのくらい続くか? 50

第2章 人口動態が奏でる不協和音  57

  同時に起こる人口増加、減少、そして多様化 57
  年金受給者の増加──高齢化への挑戦 59
  持続するユース・バルジ 61
  環境の変化──移住・都市化・民族の変化 62
  人口統計学的描写──ロシア・中国・インド・イラン 66

第3章 新たなプレーヤー  71

  台頭する有力国──中国とインド 73
  他の主要なプレーヤーたち 77
  将来有望な国々 85

  グローバル・シナリオT:欧米抜きの世界  88

第4章 豊かさのなかでの不足  95

ポスト石油時代の始まり? 97
  エネルギーの地政学 100
  水・食料・気候変動 112

  グローバル・シナリオU:オクトーバー・サプライズ 119

第5章 高まる紛争の可能性  126

  2025年までに不安定の弧は縮小するか? 127
  増大する中東における核軍拡の危険性 127
  資源をめぐる新たな紛争 130
テロリズム──良いニュースと悪いニュース 139
  アフガニスタン・パキスタン・イラク──地域的道筋と外的
  利害関係 144

  グローバル・シナリオV:BRICsの崩壊 152

第6章 難局に直面する国際システム  159

  多国間(協調)主義のない多極化 160
  国際システムはいくつ存在するのか? 162
  ネットワークの世界 166

  グローバル・シナリオW:政治は常に局所的とは限らない 174

第7章 多極化世界における権力分有  178

  米国の指導力は依然として強く要求されるが、その能力は
  縮小するだろう 179
  新たな関係と修正される古い関係 180
  地位低下するドル 182
  より制約される軍事的優越性 183
予期せぬ衝撃と意図せぬ帰結 188
指導力こそ重要である 190

訳者あとがき 192

 

囲み記事一覧

2025年の世界的背景 11
2020レポートと2025レポートの比較 33
長期的な予測:警告的な話 37
2008年の金融危機でグローバル化は危機にさらされているのか? 44
科学技術のリーダーシップ:新興大国にとってのテスト 49
ラテンアメリカ:穏やかな経済成長と継続する都市での暴力行為 52
地政学的変化の動因としての女性たち 53
2025年の世界の背景を形成する高等教育 55
HIVとAIDSの影響 63
西ヨーロッパのイスラム教徒 67
タイミングがすべて 101
脱石油世界における勝者と敗者 104
2025年までの科学技術の飛躍的進歩 106
気候変動で勝利する2つの国 113
開かれた北極圏の戦略的含蓄 116
サハラ以南のアフリカ:世界との交流と多くの問題 117
非核統一コリアの誕生? 130
中東/北アフリカ:経済は変化を促すが紛争の危険が伴う 132
二重構造のイスラム世界? 134
エネルギー安全保障 137
もう1つの核兵器の行使? 138
なぜアルカイダの"テロのうねり"は崩壊するのか? 142
変わりゆく紛争の形態 146
イデオロギーの終焉? 149
世界的流行病の出現可能性 150
アジア地域主義はグローバル・ガバナンスにとってプラスかマイナスか? 164
急増するアイデンティティと高まる不寛容? 170
民主主義の未来:新たな高まりよりも逆戻りの可能性 173
衰退しつつある反米主義? 185




訳者あとがき

 米国においては、ホワイトハウスの国家安全保障戦略から個々の執行部局ごとの各種戦略に至るまで、体系的にさまざまな戦略が策定され、それらの大半の概要は公開されている。
  ホワイトハウスが国家安全保障戦略を策定するにあたって参照する基本情報は、米国のインテリジェンス・コミュニティが保有するすべての情報を収集・分析・総合化したものである。
  米国におけるインテリジェンス・コミュニティとは、中央情報局、8つの国防総省管轄情報機関(国家情報局、国家偵察局、国家安全保障局、国家地球空間情報局、海軍情報部、陸軍情報部、空軍情報部、海兵隊情報部)、国務省情報調査局、2つの国土安全保障省管轄情報機関(情報分析部、沿岸警備隊情報部)、2つの司法省管轄情報機関(連邦捜査局、麻薬取締局)、エネルギー省情報防諜部、財務省対テロ財務情報部の16の情報機関を意味している。そして、このインテリジェンス・コミュニティを統括するのが、いずれの情報機関からも独立している国家情報長官(Director of National Intelligence)である。
  本レポート「Global Trends 2025 : A Transformed World」を編纂公刊した国家情報会議(National Intelligence Council:NIC)は、国家情報長官をサポートし、国家情報長官に対して直接各種報告を行なう諮問機関である(ただし、国家情報会議は国家情報長官が指揮する機関ではなく独立諮問機関であり、その長はChairman of the National Intelligence Councilが務める)。
  国家情報会議は、ホワイトハウスはじめ政府諸機関や連邦議会の政策立案者たちの要請により各種レポートを作成するが、その主たる任務は4年ごとに、すなわち大統領選挙日と大統領就任式の間に、世界情勢に関する状況説明を新大統領を迎えたホワイトハウスに対して行なうことである。
  この状況説明の概要を公刊したものが「Global Trends」であり、本レポート「Global Trends 2025 : A Transformed World」は、「Global Trends 2010」、「Global Trends 2015」、「Mapping the Global Future 2020」に続くその第4弾である。

「Global Trends 2025」の特徴は他のシリーズではなかったシナリオを提示していることである。これらのシナリオは、グローバル化や気候変動をはじめとする世界の変化を促進する要因となる事象がさまざまに影響しあい、今後の政策にチャレンジをもたらすような状況が例示されている。全体を通して、本書は実際に将来起こるであろう事象の予測というよりは、それを方向づける可能性のある要因を提示するものとなっている。
  国家安全保障会議の責務は米国の国家戦略立案のための情報提供であるため、そのアドバイスには厳格な中立性が要求されている。したがって、本書で示された長期的な世界情勢予測は共和党ブッシュ政権下で作成されたとは言うものの、民主党オバマ政権の基本的国家戦略の指針に多かれ少なかれ影響を与えることになる。

 本レポートに最初に接した際に、海軍戦略を中心とした軍事情勢分析を主たる業務とするCNSの訳者たちにとっては、本レポート内の軍事情勢分析、とりわけ日本に関連するそれは、質・量ともに取り立てて注目するに値しないと感じたものだった。しかし、本レポートは東アジア地域の安全保障や軍事情勢に特化したものではなく、米国の国家戦略策定に際しての全地球的規模でのあらゆる諸事象に関する長期的展望を概説したものであるため、むしろ米国政府が「どの地域」あるいは「いかなる問題」に重点的に対応していくのかを垣間見るには、まさにうってつけのレポートであることが読めば読むほど納得できる。
  つまり、本レポートは少なくとも現オバマ政権が取り組むであろう、そして現に取り組んでいる、対外政策の重点地域・主要問題を把握するための基礎資料としての価値を有している。したがって、個々の問題に関する米国の具体的戦略に関しては、それぞれ特化した戦略レポートを参照する必要があるが、「Global Trends 2025 : A Transformed World」は米国政府の基本的戦略方針の潮流を理解するためのコンパクトな案内書ということができる。

北村愛子(きたむら・あいこ)
CNS日本法人代表取締役。東京生まれ。教育学修士。Centre for Navalist Studies戦略コミュニケーション室長ならびにCubic Defense Applications(Virtual Analysis Center:ホノルル)テクニカルアドバイザーとして、米国国務省国防脅威削減庁、米軍ヨーロッパ集団司令部、米軍中央集団海兵隊司令部、米海兵隊第T遠征軍司令部等の調査・翻訳を担当。米国海兵隊と連携し海兵隊ドクトリン『WARFIGHTING』を翻訳出版、『アメリカ海兵隊のドクトリン』(第1部、芙蓉書房、2009年)。

北村淳(きたむら・じゅん)
政治社会学者。東京生まれ。警視庁公安部勤務後、平成元年に渡米。ハワイ大学(ホノルル)ならびにブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)で助手・講師などを務めたあと、ブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は、戦略地政学ならびに戦争&平和社会学。現在、Centre for Navalist Studies海洋安全保障研究室長、Cubic Defense Applications(Virtual Analysis Center:ホノルル)米国海軍テクニカルアドバイザー。日本語著作には、『アメリカ海兵隊のドクトリン』(第2部、芙蓉書房、2009年)、『米軍が見た自衛隊の実力』(宝島社、2009年)などがある。

Global Trends 2025
A Transformed World
by National Intelligence Council
November 2008
NIC 2008-003
US Government Printing Office
ISBN 978-0-16-081834-9