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まえがき

 私は昭和四十二年、九州大学農学部農芸化学科を卒業して、国税庁技官として採用され、以来国税局鑑定官室の鑑定官、醸造試験所の研究員、国税庁の事務官を勤め、三十五年間「愛人楽酒(人を愛し酒を楽しむ)」「美酒微醺(美味しい酒をほろ酔いで)」、ときには「游酒酣々(酒を楽しみ酣になるまで酒を飲んで)」をモットーに酒とかかわってまいりました。
 三十五年間の鑑定官(国家公務員)生活が私の人生そのものでした。
 現在も日本酒造組合中央会の技術・焼酎担当理事として、酒とかかわって生活しています。中央会に取材に来た新聞記者との酒についてのインタビューの過程で、私もいつの日か酒についての本を書こうと思っていると話をしたとき、その記者から出版社を紹介するから、是非にと勧められました。
 しかし、常時は理事としての仕事があり、職務のかたわら、休日や平日に暇を見つけては執筆することで、許しを得てゆっくりと原稿を作成することとしていました。ところが、そんなにのんびりしていられない、事態が発生しました。
 それは酒造業界に身をおく鑑定の先輩から「間違ったことを書いている日本酒の本が出ているので、中央会から注意をするように」と言われたことでした。
 たしかに日本酒に関する本が多数出版され、情報が氾濫しています。正しい日本酒の情報を伝えるのは、長年、酒にかかわってきた筆者の責務だと感じています。
 また、全国の消費者から日本酒造組合中央会へ、日本酒に関するさまざまな疑問や質問、意見が寄せられます。これら消費者からの問い合わせに対応することも私の仕事ですが、これら消費者とのQ&Aを、一冊の本にまとめることも、有益であろうと考えました。
 さらに「国酒」といわれる日本酒が年々需要を減退させているのを何とか食い止めたいという強い思いもあります。
 この本はいわゆる醸造学の専門書ではありません。一般の方に日本酒というものを理解していただけるよう、専門用語はなるべく使わないで、平易に書くことを心がけました。
 ここには私、蓮尾徹夫が日本酒鑑定官として生きてきたことを縦糸に、その時々に出会った人々、考えていたこと、雑誌、新聞等に投稿したことなどを横糸にして織り上げました。
 酒との付き合いの中で出会い、影響を受けた人々のこと、酒の飲み方、造り方で私が学んだことが述べられており、日本酒のいろいろな面がさまざまな角度から盛りこまれています。日本酒鑑定官とは、日本酒とは、ということについて、お知りになりたかったことが分かるように書いたつもりです。
 お酒の好きな方、お酒に興味のある方、お酒とともに生きている方、お酒に関する物語を楽しまれる方、お酒の勉強をされたい方といった日本酒にゆかりのある方々に楽しんで読んでいただけるものと確信します。

目  次

 まえがき
第一部 日本酒鑑定官三十五年
  第一章 国税庁醸造試験所勤務
  第二章 鑑定官になって
  第三章 鑑定官が事務官を兼務して
  第四章 鑑定官と研究員の二足のわらじ
  第五章 主任鑑定官になって
  第六章 鑑定官室長になって
  第七章 鑑定官室長が事務官を兼務して
  第八章 再び鑑定官室長に
  第九章 鑑定官生活を終えて

第二部 日本酒の造り方、味わい方
  第十章 日本酒健康法
  第十一章 美味しい日本酒の造り方
  第十二章 日本酒歳時記
  第十三章 日本酒Q&A
 参考文献
 あとがき 

あとがき
 いろいろと酒のことを書いてきましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。三十五年に及ぶ鑑定官人生で私が学んできた日本酒についていろいろな角度から紹介してみました。「なんでも鑑定団」というテレビ番組で、鑑定という言葉が一般的になりましたが、日本酒鑑定官はそれなりに歴史のあることを理解いただければ幸いです。
 挿し絵をお願いした佐藤宏氏とはそれこそ三十五年の付き合いで、醸造の関連では第一人者だと思います。お蔭さまで分かりやすい本になったと思っています。
 記述に当たっては、平易な言葉で記述しましたが、専門用語を使わざるをえなかったことや、本書にご登場いただいた方々にもし失礼な点があれば処女出版に免じご容赦ください。
 現在、私は日本酒造組合中央会の理事ですが、この原稿を書くに当たりいろいろとご支援を賜った会長はじめ中央会の皆様に厚く感謝申します。
 この本に関する質問、意見などについては筆者に直接いただければお答えします。

蓮尾徹夫(はすお・てつお)
1943年福岡県大牟田市生まれ。九州大学農芸化学科卒業。1967年国税庁入庁、2002年退官するまで、国家公務員。名古屋国税局鑑定官室を振り出しに、大阪、福岡、関東信越、東京国税局の鑑定官室に勤務。東京の鑑定官室長を最後に退官。国税庁醸造試験所の研究員、主任研究員を歴任、微生物の研究により東京大学より農学博士を授与。国税庁の酒類行政にも鑑定企画官、酒類監理官として携わる。2002年より日本酒造組合中央会の技術・焼酎担当理事。特技の弓道は現在錬士五段で、春日部市弓道連盟に所属し修練中。
この本に関するご質問、ご意見につきましては下記にお尋ねください。日本酒造組合中央会、電話03(3501)0101、ファックス03(3501)6018。
eメールは jsake37@axel.ocn.ne.jp