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プロローグ 中国の「高度成長」は現実か幻影か? 高名な経済学者のピーター・ドラッカーが預言した。 「10年以内に中国で社会争乱が起きる確率は50%ほどある」(『フォーチュン』誌のインタビュー)。 日本にはあまり伝わってこない議論だ。 なにしろ日本の新聞を読んでテレビを見ていると、「中国はますます繁栄し、高度成長を今後もつづけ、世界の工場化はますます強固になるであろう」って話ばっかりだから。 たとえば積極派の代表メディア=『日本経済新聞』を開く。 「日本の貿易、中国圏が最大の輸出先に――昨年20%増、対米上回る」(2004年1月17日付け)などという華々しい記事が目につく。 中国の国家統計局が公表した2003年の国内総生産(GDP)は、邦貨換算すると152兆円で、前年比9・1%増の由。これは1996年以来の高成長で、しかも政府目標だった7%を大幅に上回った。 2004年1月のダボス会議に提出されたゴールドマン・サックス(米国最大手証券会社)の報告書は、「2041年に中国経済が米国を追いこす」という衝撃的な予測内容だ。 これだけ景気が良ければ早く進出しなければ……。 日本のクルマのメーカーは中国にそろって大工場を建てた。すでに生産を始めたトヨタ、ホンダなど予約が一杯の大ブームだ。 しかし他方では、ニセ物、模造品が大量につくられ、日本企業の被害は700社、3000億円に及んだり、日本人誘拐事件が発生したり。どうも全体像がちぐはぐである。 投資は本当に長期的に安全なのか? GDP統計でも中国は世界6位にランクされるにいたったが、その中味はといえば、「1人あたりのGDP」はおよそ1000ドル、依然として日本の30分の1でしかない。 中国の真の経済力はどのくらいか? GDPで米国、日本、ドイツ、フランス、イギリスに追いついてイタリアを抜いたとはいえ、次に5位のイギリスや4位のフランスを抜かすまでにあと3年はかかりそうだ。 しかし国民の豊かさをバロメータと考えた場合、中国の数字は極端に悪くなる。 中国経済を内部から告発するインテリたちの声を聞こう。 「現在、海外の一部の学者は中国経済が停滞しているおもな原因を経済成長モデルが『貨幣投入による駆動』型であり、『生産力向上による駆動』型でないところに求めている。しかし、クルーグマンのような著名な西側の経済学の教授たちは、しょせん統計の数字と数理経済学のモデルによって中国を考察しているにすぎず、中国の社会問題についてはほとんど理解していない。要するに彼らは書斎派経済学者でしかないが、こんにちの中国にもこの種の手合いはたくさんいる」(揚帆ほか著、坂井臣之助ほか訳『中国経済 超えられない八つの難題』草思社刊)。 公式発表なるものは、政府によって操作されており、「数字を信用するな。現場を見てくれ」と中国人インテリは西側に向かって叫んでいるのだ。 現時点でさえ問題が山積みである。 政治的には改革派と守旧派の鋭い対立が軸となって今後、共産党の内部改革がいかように進むかが焦点になるだろう。民主改革が実現しなければ真の競合相手にはなりにくい。 だが、当面の最大の難問は経済である。 第1に電力不足が象徴しているように高度成長に大きな陰りがでてきたこと。 第2にエネルギー供給および水資源確保における長期的な不安である。 国際エネルギー機関(IEA)の『石油市場レポート』では「中国の石油需要は2004年、1日あたり約580万バーレルに達する」という。となれば需要はおよそ年間3億トン。日本を抜いて世界第2位の石油消費大国になる。この量はサウジアラビアが年間に産出する量の3分の2、イランとクウェートを足した量に相当する。 2004年2月現在、世界の年間石油消費量は約30億トン。このうち米国が約10億トン、日本が3億トン。中国がこれにならび、世界生産の10分の1を消費する。今後、エネルギー確保はさらに熾烈な資源戦争になるが、その主役の一角に中国が躍りでる。 第3は「軍事力の肥大化」が巨大な政治問題となってきたことだ。 過去連続13年、それも年率2ケタの増大を示す中国の軍事費は周辺諸国にとって大きな脅威となっている。アジアの盟主をねらう中国は批判をもろともせず軍国主義の道をひた走っている。これがかつてのソ連帝国の崩壊と同じ道をたどって中華帝国の崩壊へと至るのか、どこかで戦争をおっぱじめるのか? 欧米では日本と対照的に中国経済の脆弱さを指摘する書物のほうがおびただしい。 米国で最も権威あるシンクタンクの1つ、ランド研究所の中国研究グループが作成した次のシナリオはすさまじい内容である。 中国経済の現況は1980年代の日本に酷似し、バブル経済の崩壊が近いと予測しつつ、次の8つの疑問を中国に投げかけている。 1、失業率は23%前後と見積もられるが、これは中国経済のGDP成長率を0・3から0・8%押し下げる(この23%というとてつもない数字は農村の余剰労働者、出稼ぎの民工潮(流民)も潜在失業とみなしているからだ)。 2、中国人の体質でもある「腐敗」がもっと進行すれば、成長率を0・5%押し下げる。 3、エイズがこのままのペースで蔓延しつづければ、GDPはいつかの時点で、マイナス2%もの影響をもつ。 4、水の供給が追いつかず、人口の3分の2がやがて水不足の危機にさらされる。中国政府はこの情報の広報をまったく怠っている。 5、エネルギー危機に遭遇した場合、すでに資源枯渇の中国は成長率をマイナス1%に押し下げる。 6、不良債権が日本同様に突如爆発したら、やはり成長率を1%押し下げるだろう。 7、1985年以来の成長を側面的に助長したのは海外からの投資だが、ある日突然、風向きが変われば(天安門危機の再来や、インド、パキスタンへの投資環境の変化によるシフト)、1%以上のマイナス効果を産む。 8、台湾危機が醸成された場合、GDP成長率はマイナス1%から1・3%になるだろう。 これらが同時に起きた場合、中国経済は破滅的になるだろう、と警告している。 本書は特段に中国の脅威をあおったり、偏見をもって中国の未来を予見しようとするものではない。あくまでも現実の客観的データが前提である。 ただし従来の「中国モノ」が経済に偏重しすぎており、軍事戦略や文化現象を軽視しているため、本書では政治、経済同様に上記2つのファクターを重視する方針をとった。 あくまでも現場に立って正確なデータを求め、等身大の中国を見極める作業を通じて、近未来のシミュレーションを試みる。 それも「いま」を把握し、「3年後」「5年後」「10年後」に分けて観察する試みである。目 次 プロローグ 中国の「高度成長」は現実か幻影か? パート1「中国のいま」は?……………………………………15 ――等身大の中国像を求めて 1 江沢民・上海派が牛耳る中国の指導部 16 2 胡錦濤の守旧派退治が静かに始まった 18 3 巨大な貧富の差。実質成長率は3〜4%だろう 20 4 加熱のピークはここまでで限界だろう 22 5 なぜ大学新卒組に適正な職が少ないのか? 24 6 GDPの55%が不良債権と西側は見ている 26 7 もはや解決策が見い出せない「三農問題」 28 8 新たなる政治陰謀。さらに対中援助に一兆円! 30 9 台湾侵攻のシナリオは放棄されていない 32 10 中国のGDPの8%はニセ物製造で成立している 34 11 宿敵インドと急接近。国際政治の大変動が始まった 36 12 旧満州の経済発展はもはや遠い夢 38 13 北京も金正日の扱いには手こずっている 40 14 不動産バブルに見え隠れする崩壊の兆し 42 15 年間1000万キロワットも電力が不足 44 16 中国の外貨準備は「金融界の核弾頭」か? 46 17 中国人ハッカーが世界の安全保障をおびやかす 48 18 米中の密月関係は2008年頃までつづく 50 19 中国の独自特許戦略、緒戦で惨敗。次の一手は? 52 20 最も危険な国境、ベトナムから流れ込む麻薬 54 21 人民元の切り上げはもはや時間の問題 56 22 大陸横断の「西気東輸」パイプラインが完成 58 23 上海は毎年数センチ、海に沈んでいる 60 24 何でもありの中国株式市場は、博打場と思え 62 25 真の目的は秘されて「4大事業」は進む 64 パート2「中国の3年後」は?……………………………………67 ――「江沢民院政時代」の終わり 26 「反日デモ」が「反政府デモ」に急変する 68 27 民意が反映された新憲法ができる? 70 28 実質の軍事支出は米国についで世界第2位! 72 29 米中の「戦略的パートナー」の関係は当面つづく 74 30 上海リニア実験線は失敗の可能性が高い 76 31 やがて中国版「蛇にピアス」族が本格登場 78 32 麻薬・密輸…中国マフィアが暗躍する闇の地域 80 33 台湾侵攻の軍事態勢が実戦段階に入る 82 34 中国の外貨準備高も8000億ドルを突破! 84 35 中国ルートはご破産、日本が油井開発へ 86 36 中国・韓国の関係が歴史論争で微妙に 88 37 3年後には1000万台を突破し、生産過剰に 90 38 在韓米軍の移転は中国の軍拡をにらんでのこと 92 39 「中国領」と宣言し、いずれ石油盗掘を目論む 94 40 漢族を中心に麻薬汚染はさらに拡がる 96 41 軍部の武器輸出ビジネスは拡大の一途 98 42 北京と上海はソフトウエアのメッカに変貌する 100 43 危機管理に懸念。地方軍閥化する人民軍? 102 44 中国の傘下に入ったミャンマーは軍事的要衝になる 104 45 中国の宇宙計画に不可欠な南太平洋の基地化 106 46 在日中国人留学生が芥川賞を受賞 108 47 「反日」が次にねらう日本企業焼き討ち 110 48 中国の石油の戦略備蓄は1000万トンだが… 112 49 砂漠化と水不足がさらに深刻化する 114 50 北京オリンピック直前の「最後の晩餐」か? 116 |
パート3「中国の5年後」は?……………………………………119 |