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目  次

「まえがき」にかえて
宇宙版ウォーターゲート事件? 政府は異星人との交渉を本当に隠蔽しているのか

UFO信者と懐疑論者のあいだに/情報公開で揺らいだ政府当局への信頼/行き過ぎた秘密主義がもたらしたもの/かつてない混乱にあるUFO研究

第1章 UFO時代のはじまり 挫折の日々 一九四二年〜一九五〇年

最初の隠蔽工作?/幽霊との戦闘で恐慌状態に/パイロットを悩ませる「フー・ファイター」/「フー・ファイター」の謎に迫る/最初の「空飛ぶ円盤」目撃証言/UFOはソ連の新型兵器か/「幻覚でも空想でもない」/UFO調査チーム「プロジェクト・サイン」/地球外物体説に基づく報告書/軍当局が破棄を命じた幻の報告書/地球外起源説の伝道者「キーホー」/「空飛ぶ円盤は実在する」/墜落した円盤/削減されたUFO調査チーム

第2章 軍人と役人たち CIAの登場 一九五一年〜一九六六年

空軍のUFO研究「ブルーブック」/史上最大のUFO目撃事件/CIAの登場/UFO目撃がソ連の心理戦に利用される可能性/公開されなかったロバートスン委員会の報告書/「信頼できるデーターが少ないUFO目撃」/ソ連に利用されかねないUFOへの関心/UFOの歴史をねじ曲げたキーホーの創作/説得力のない空軍のUFO報告/空軍とCIAのさらなる失策/UFO現象への再評価/円盤再襲来/UFO目撃の嵐

第3章 科学者の登場 コンドン委員会の調査 一九六六年〜一九六九年

UFO研究の真剣な動き/国をあげての大混乱/新たなるUFO研究の開始/UFO信者とコンドンの対立/政治的なフットボール/先入観をもたずに調査することの難しさ/さらに深まる対立/根拠のないコンドン批判/広範囲にわたるコンドン報告書/UFO研究史上画期的な「コンドン報告」

第4章 新たなるUFO神話 混沌と多様性の時代 一九六九年〜一九八二年

UFOに関する四つの通説/あばかれるCIAの悪業/UFO懐疑派のリーダー、クラスの活動/UFOの正体は大流星?/家畜惨殺事件に乗り出したFBI/ありとあらゆる奇妙な説が生まれた/FBI捜査官の報告/日の目を見た極秘文書/「事実の半分しか告げていない」/情報公開法で浮上したUFO事件/「グラッジ報告♯13」事件/記録にない人物の作り話

第5章 UFO研究の分裂 恐怖と欺瞞、そして憎悪 一九八二年〜一九九五年

仕組まれたUFO事件/UFOを心理戦の武器として利用する/世界を震撼させるMJ‐12文書/疑わしい「MJ‐12」文書/カープの「守護者」事件/「守護者」の正体/宇宙からの残骸を回収するムーンダスト計画/米ソ宇宙開発競争から生まれた計画/国連事務総長誘拐事件

第6章 UFO研究のダークサイド 陰謀伝説の系譜

異星人の戦慄すべき計画「ベータ報告」/「ベータ報告」の奇妙な矛盾/デルタフォース対異星人の戦い?/空軍に利用されたUFO研究家ベネウィッツ/政府の偽情報操作/さらなる伝説を作り上げた「リア文書」/疑わしい「ダルシー文書」/異星人の人質「クリル」/とんでもない理論/焼き直しにすぎないクーパーの主張/TV番組「第三の選択」が与えた影響/異星人の乗り物を調査した物理学者/恐怖の巣窟の伝説/何でもありの異星人伝説/UFO研究のダークサイド/「妄想はすべてを説明する」/世界中の神話の寄せ集め/ダイクサイダーの系譜

第7章 世界のUFO事件 国際的陰謀の証拠?

外国のUFO報告/スペインの衝撃/進まぬイギリスの情報公開/ブラジルで目撃されたUFO/オーストラリアの黒いUFO/スペイン軍に目撃されたUFO/ベルギーの三角形UFO/レンドルシャムの森のUFO/待機戦術

第8章 ロズウェル事件の衝撃 世紀の大事件の真実、一九四七年

最初の報告/再燃したロズウェル事件/九〇年代のロズウェル事件/ロズウェル事件の再構築/ジェシー・マーセルの伝説/ゆらぐ自称目撃者たちの信頼性/宇宙船墜落に共通する「謎の文字」/時間とともに変化する関係者の証言/空軍が秘密にしたかったモーガルの気球/英情報機関の登場

終章 われらの時代の伝説 実在した政府の隠蔽工作

UFO報告を集める本当の理由/あるのはスパイ社会の常識だけ/都合のいい証拠だけを用いるUFO信者/ダークサイド理論誕生の裏事情/妄想の典型的なパターン/政府文書が語るもの
事件1 ロサンゼルス空襲
事件2 ケネス・アーノルドの歴史的な目撃
事件3 トーマス・マンテル大尉:UFOの犠牲者
事件4 フォート・モンマスの目撃事件
事件5 ワシントンの包囲
事件6 レヴェルランド遭遇事件
事件7 異星人のパンケーキ事件事件
事件8 ソコロのUFO着陸事件
事件9 沼地ガス事件
事件10 トレント夫妻の写真事件
事件11 ニューハウス兵曹長の円盤遭遇事件
事件12 ベノム戦闘機の夜間遭遇事件
事件13 ゾンドと飛行船効果
事件14 マリアーナのUFOフィルム
事件15 シルマー実験事件
事件16 マンスフィールドのヘリコプター事件
事件17 幽霊(ファントム)を追跡したファントム
事件18 キャッシュ/ランドラム遭遇事件
事件19 メン・イン・ブラックの初登場
事件20 隠れ蓑の島?
事件21 NORADの集中目撃事件
事件22 カープ事件
事件23 八月のムーンダスト
事件24 アブダクション体験者とシークレット・サーヴィス
事件25 シマロンの遭遇事件
事件26 トリンダデ島のUFO写真事件
事件27 UFOと核攻撃警報
事件28 ヴァレンティッチ消失事件
事件29 スペインの新年UFO事件
事件30 トランス・アン・プロヴァンス事件
事件31 ファルコン戦闘機、三角型UFO追跡事件
事件32 レンドルシャムの森の着陸事件
事件33 空飛ぶ双胴船事件

文書1 未確認飛行物体に関する科学顧問専門委員会の報告書
文書2 アダムスキーとFBIとの接近遭遇
文書3 グラッジ/ブルーブック報告書#13
文書4 『リア文書』
文書5 『ダルシー文書』
文書6 『クリルに関するクーパーの証言』
文書7 四つの仮説と奇妙な暗合

訳者あとがき
引用文献
索 引


「まえがき」にかえて
宇宙版ウォーターゲート事件?
政府は異星人との交渉を本当に隠蔽しているのか

 半世紀以上ものあいだ、世界各国の政府はあらゆる種類の未確認飛行物体、つまりUFOに積極的な興味を抱いてきた。第二次世界大戦によって空軍力が戦争で重要な位置をしめることが実証されて以降、各国とも謎の飛行物体を見逃すことができなくなったのである。
 軍用レーダーや市民が発見したUFOの大半は、最終的にIFO、つまり確認飛行物体となる。たとえ経験ある観察者がUFOだと思っても、実際には飛行機であったり、気球や星、人工衛星、ロケットの残骸などであることが確認されるのである。ときに月でさえ空飛ぶ円盤と間違われることもある。
 そんななかで未確認のまま残ったものが、UFO研究者を引きつけ、大衆を惑わすUFOとなる。これはUFO目撃報告のわずか五パーセントをしめるにすぎないが、政府や情報機関、軍の専門家の悩みの種であることは事実だ。
 これら政府機関がUFO報告の謎の部分にどのような反応を見せてきたか、そしてUFO研究者たちはそれをどう解釈しているかを年代順に整理して考察しようというのが本書のねらいである。
 本書ではおもにアメリカで起きたUFO事件と、それをアメリカ政府が国民にどう説明したかに焦点をしぼった。また、アメリカの国防機関、情報機関、公安機関がUFOについて内部ではどう考えていて、おたがいではどんなことを話し合っているのか、そして現実にはどの程度まで知っているのかという問題にもスポットをあてた。
 そのうえで、UFO事件にかんする当局の公式・非公式の反応を、UFO研究者の主張と比較してみた。
 アメリカのUFO事件に限定したのには正当な理由がある。アメリカ人は憲法で保証されている「国民の知る権利」を大事なものと考えている。そして、アメリカの情報公開法のおかげで、アメリカ政府とUFO問題のかかわりについては、ほかの国の政府の対応をすべて集めたよりも多くのことがわかっている。
 その結果、世界は、UFO問題にたいするアメリカ国民の姿勢と政府の対応に注目するのである。
 そのため、一九九〇年代に驚くべき数のアメリカ人が異星人に誘拐(アブダクション)されたと訴え、さらに一九四七年にニューメキシコ州ロズウェル付近で起きた出来事にかんして激論が戦わされたときには、世界じゅうのUFO研究がこの二つの問題に集中してしまったほどである。
 アメリカでの出来事や遭遇例は世界中で報じられるのにたいし、他国での事例は、それ自体の重要性いかんにかかわらず、なかなか伝わらない。アメリカがほかの国と違うのは、多くの人間がUFOに関心を持っているため、UFO研究を職業とする者もいるし、大きな発言力を持つUFO懐疑論者の団体もあり、メディアもUFO神話を否定する人間と途方もない話を真面目に主張する変人の両方に大衆に訴えかける場をすすんで提供するという点だ。
 こうして世界のUFO研究は善かれ悪しかれアメリカ主導で動くことになる。
 全般的に見て、UFOにたいする各国政府の反応にはおおむね一つのパターンがある。
 まず、かならず登場するのが、軍当局からの紋切型の見解である。軍が業務中に「未確認飛行物体」または「UFO」という言葉を使うのは、まさに確認されていない飛行物体をさすばあいであり、それ以上の意味はない。もしUFOが空域に出現したときには、軍はまずそれが地球上の物体で、武装している可能性があり、敵性のものだと想定し、その想定は、相手が無害なものと判明するか、空域から離脱するか(かつてNATOとワルシャワ条約国の国境では日常の出来事だった)、最後の手段として撃墜するまで続く。
 この軍事的用語法からすれば、世界中の軍スポークスマンたちが公式にUFOが国家の安全にたいする脅威ではないと表明しているのは奇妙だと、多くのUFO研究者たちはいつも頭をひねっている。しかし、このばあいには軍当局は、航空用語の中立的な意味でUFOという言葉を使っているわけではないことに気をつけなければならない。
 こうした席で軍の代表者がUFOというときには、その意味するところは「奇妙な物体(一般に「空飛ぶ円盤」と呼ばれるものかもしれない)もしくはそれ以外の空中存在物で、軍が味方またはそれ以外の航空機と容易には識別できず、また航空機以外の人工物体とも自然現象とも判断できなかったもの。いまのところ説明できず、わが軍の最新鋭迎撃機の追跡を逃れた物体」ということである。
 いまのところ、この種のUFOが民間人を傷つけたり軍事施設や軍用機を破壊したという信頼できる報告がないため、「空飛ぶ円盤は防衛上何ら問題にならない」という説明も成り立つのである。UFOは不思議な物体で、世界中の空軍を深い困惑に陥れているかもしれないが、すくなくとも敵性ではないということである。

 UFO信者と懐疑論者のあいだに

 当然ともいえるが、軍の見解にたいする反応はさまざまである。強硬なUFO懐疑論者は軍の発表を受け入れ、ばあいによっては星や灯台、気球、レーダーの原因不明の輝点または誤動作、人工物、自然現象(たとえば悪戯、錯覚、蜃気楼など)がUFO現象の原因であると主張する。
 地球外生命体が磁気重力次元間ハイパードライブとかいったもので推進する超ハイテク機で空を飛び回っていると信じる熱狂的なUFO信者は、もちろんこれに耳を貸さない。
 熱心なUFO信者はここで大まかに二通りに分かれる。「宇宙版ウォーターゲート事件」ともいうべき隠蔽工作がおこなわれているという見方に賛同する人たちと、さらに過激な見解を持つ一派である。
 「宇宙版ウォーターゲート事件」支持者によれば、軍の公式見解は大嘘である。政府はおそらくUFOとその乗組員が地球外から来た証拠を握っており、墜落した異星人とその乗り物の遺骸や残骸を回収してどこかに隠し持っているとさえ考えている。事実が隠蔽されているのは、政府が国民に真実を伝えたくないからだというのである。
 過激な一派はもっとつっこんだ意見を持っている。彼らはUFOが防衛上の脅威ではないという当局の見解は真実だと信じている。というのも、すでに政府はUFOと共謀しているからだ。すでに両者のコンタクトは取れており、地球外生命体は地球の各政府とひそかに協力しているというのだ。
 あまりにも過激すぎてにわかには信じがたい少数意見は、アメリカ政府がエイリアンとある種の悪魔的な同盟を結んでいるとさえ主張している。
 どちらのグループも、数十年間にわたって「事実隠蔽だ!」と声を張り上げてきた。その状況は、情報公開法によってUFO関係の政府文書約三万通が公開された(そのうちのいくつかについては無理矢理公開させなければならなかった)現在も変わっていない。
 UFO懐疑論者とUFO信者の二極のあいだには、穏健なUFO研究者の大海が広がっている。多くの穏健派はUFOが宇宙人の乗り物であるとは思っていないが、UFO現象の根幹におそらく多くの謎があるということは否定していない。
 また、UFOの謎についても、大海の魚のようにたくさんの穏健な回答が提示されている。それらを公平にわかりやすく検討する役目は別の本に委ねたい。
 だが、ここで政府の隠蔽工作を疑う穏健派の説をわかりやすく要約することはできるだろう。
 それは以下のようなものである。いくつかのばあい、政府はUFOについて真実を述べていない。それはその物体が政府にとって未確認でないからである(天文学者アレン・ハイネック教授のUFOについての最初の質問はつねに「誰にとって未確認か」であった)。
 こうした謎の物体は軍の機密ハードウェアであり、おそらく誰もが認めたがらない場所を飛行していたのである。ときに兵器関連の事故、国道や鉄道上でミサイルを発射したり市街地で燃料を投棄したりといった規則違反、または伝統的な軍の失態が起こした事故が、知識のない目撃者には異常としか見えない現象を引き起こした可能性もある。
 軍にとっては国民がこれらの出来事をUFOのせいにしてくれたほうが都合がいい。
 穏健派はさらに、公式声明によく見られる慇懃無礼な態度の多くは、実際に事実隠蔽のためのものだと考えている。ただし、それは自分たちの恥ずべき無知を隠すためである。
 当局は、ある種のUFO事件、とくに超現実的または超常的な領域に踏み込むUFO事件についてはその真相を知らないが、それを認めれば権威を失う。そこでそうした現象を、「目の汚れ」から「螢」、さらには困ったときの「幻覚」まで、途方もない「合理的」な説明で片づけようとしているのである。

 情報公開で揺らいだ政府当局への信頼

 開かれた政府と公的秘密の徹底的な公開を求める声に正当な根拠があるとしたら、それはUFO現象である。現在われわれがUFOという言葉から連想するような、球体もしくは円盤状で発光する謎めいた物体は、一九四二年からアメリカで目撃されている。しかし、国民の注目を集めるようになったのは一九四七年にケネス・アーノルドによる有名な目撃事件があってからだった。
 しかし、一九七四年に情報公開法が成立する以前にはアメリカ国民は、軍や情報機関がUFOについて内部でどのように考え、秘密の決定を下していたかをはっきり知ることはできなかったのである。UFO研究者たちの意見を自分たちなりに解釈するのが関の山だった。その研究者たちの意見にしてからが、想像だらけなのはまだいい方で、なかには純粋な空想の産物にすぎないものもあった。
 情報公開法が成立するまで三十年間にわたって、噂と科学的根拠もない推測の積み重ねが続いた結果、アメリカにはあらゆる種類のUFO神話が誕生した。奇矯な見方もあったし、失笑してしまうもの、各種の盲目的な信仰を吐露するものもあった。
 いくつかは健全な見方もあったが、常軌を逸し、邪悪で、恐ろしいほど影響力を持つものもわずかだがあった。
 現在公開されている文書が示すように、この時期、軍と公安当局は、UFOにたいする自分たちの関心についてたしかに嘘をついていた。当局は、人々があきらかに奇妙なものを空や家の裏庭で目撃したという証拠を何度となく突きつけられながら、そのたびに不機嫌そうに言い逃れを続けていたのである。
 当局のスポークスマンがつねに言うように、こうした奇怪な体験はどれも穏当に説明できるのかもしれない。しかし、当局の人間がわかっていないように思えるのは、人々が通報する事件は、彼らにとってはすくなくとも当惑の対象であり、ときにはぞっとする体験であり、そしてつねに理解できない出来事なのだということである。
 こうした不可解な事件にたいして当局の説明はたいていが的外れで、態度も不必要に高飛車なことが多い。それに加えて、現象全体をはっきりと評価した当局の見解は秘密とされ、ときおりそれについての未確認情報が漏れ出てくるのみである。
 突拍子もないUFO神話が数多く出現し、当局が認めている以上のことを知っていると一部の人間が確信を深めていったのも不思議はない。UFO事件の分析でUFO研究者たちからしばしば攻撃を受けている懐疑論者のエドワード・コンドン博士も、当局の取り組み方にあやまちがあったことを認めている。
 コンドン博士は、アメリカ空軍から依頼された研究の結果をまとめた一九六九年公刊の報告書のなかで皮肉まじりにこう書いている。
 「(秘密主義を続けたことは)すでに国防総省への信頼を傷つける原因となっている『謎めいた雰囲気』をさらに強める結果をまねいた。当局の秘密主義は、真実を隠そうとする政府の陰謀が実在するという考え方を、系統的にセンセーショナルに広める原因ともなった。……秘密があると思えば、だれも自分が完全に真実を知っているという確信など抱けないものだ」(1)
 政府のUFO関連文書が公開されたころには、おおがかりな「UFO情報隠蔽」があるという考えが深く根づいていた。多くの文書は、解釈しだいでほとんどどんな説でも「証明」することができた。ただ、これらの文書によってある種の隠蔽工作がずっとおこなわれてきたことが立証されたのは事実である。
 CIA、NSA、DIA、FBIといったアメリカの公安当局は何十年にもわたってUFOに関心を持っていないと強硬に言い続けてきた。アメリカ空軍は一九六九年に調査機関プロジェクト・ブルーブックを解散させ、以降もはやUFO関連の報告を収集していないし、UFO現象に興味も持っていないと言っていた。
 情報公開によって、こうした政府機関のすべてが一九四〇年代までさかのぼる膨大な量のUFO関連文書を保管していたことが明るみに出たのである。
 政府が公表している以上のことを知っているというこれまで繰り返されてきた糾弾の声は、より高まった。実際、今日では政府の関与はしばしば当然のことと見なされ、多くのUFO研究者たちは「UFO情報隠蔽」を、自動車修理工がハブキャップのことを話すようなあたりまえの調子で語っている。
 だが、コンドン教授も指摘するとおり、糾弾の声がこれほどの広がりと高まりと混乱を見せる必要はなかったのだ。もし「空飛ぶ円盤」という言葉が誕生した頃から軍民当局がUFO現象を正しく扱ってきたら、UFOの謎が現在のように複雑怪奇な様相を呈することはなかったにちがいない。
 これは、すべてのUFOが星を見間違えたものであったとしても(これはとてもありそうにない話だ)、銀河の彼方からやってくる乗り物であったとしても(これもまた信じがたい)、変わらぬ事実である。

 行き過ぎた秘密主義がもたらしたもの

 第二次世界大戦のあと、アメリカ社会は内外の敵にひじょうに敏感になっていた。とくに国内の敵に過敏ともいえる反応を示し、すべからく共産主義のしわざときめつけた。ソ連と西側諸国が緊張関係にあり、ヨーロッパでは一九四八年にソ連によるベルリン封鎖に対抗して大空輸作戦がおこなわれ、アメリカではマッカーシーによる赤狩りが猛威をふるった時期であった。
 J・エドガー・フーバーFBI長官ほどの狂信的反共産主義者はほかにいなかったとしても、同様の過剰反応はアメリカ陸軍保安関係者のあいだにもあった。
 一九四七年七月三十日に作成されたUFO関連のもっとも古いファイルの一つは、当局がいかに神経をとがらしていたかを示している。
 「FBIは陸軍航空軍情報部の要請を受け、空飛ぶ円盤の調査に協力することに同意している。……また陸軍航空軍情報部は、目撃報告が集団ヒステリーを引き起こすことを狙った破壊分子のしわざかもしれないとの懸念を表明している」
 第二次世界大戦遂行のために奨励され、冷戦期に花開いた「秘密性の文化」は、アメリカの権力の回廊で死に絶えることなく生き続けている。朝鮮戦争からキューバのミサイル危機まで、アメリカは外部からの切迫した脅威につぎつぎと見舞われた。そして、アメリカが心も体も深く傷ついてヴェトナムの泥沼の戦場から撤退したときも、仇敵であるソ連帝国はいぜんとして強大な力を保持していたのである。
 もちろん、秘密を守ることが諜報社会の仕事である。だが、数十年にわたって絶え間なく脅威が続いたおかげで、軍隊と公安当局は過度な秘密主義におちいり、しまいにはその状態をつねに保つことがあたりまえになってしまったのである。
 こうした行き過ぎた秘密主義の観念は二次作用をもたらした。とくに情報機関は、国家安全保障のためとあらば、どんなことでも許されると解釈したのである。
 向精神薬を使ったCIAの悪名高いMKULTRA実験は、一九四〇年代後半から一九七〇年代なかばに暴露されるまで続けられ、アメリカ国民を実験台として、被験者の同意もなしに、ときには被験者に告知さえせずにおこなわれた。これは、おそるべき職権濫用のごく一部にしかすぎないと考える人も多い。アメリカ陸軍と海軍も同種の調査に手を染めている。(2)
 こうした根深い傲慢さは、一夜にして消えるものではない。ともあれこの考え方が、UFO現象とそれに関心を抱く国民にたいしてCIAなどの情報機関が不当に誤魔化すような(誠実とはいいがたい)姿勢をとる原因となっている。この傾向は現在も続いており、情報公開法にもとづいてUFO関連の文書を要求するとしばしば妨害を受けるのもそのせいだと考える者もいる。
 アメリカ合衆国憲法に組み込まれたチェック・アンド・バランスの仕組みは世界中の人々から称賛されているが、他国の政府からは概してかたくなに無視されてきた。だが、通信の発達した現在では、アメリカ国民の生活につきまとう悪夢は世界中に伝わってしまう。そして、その悪夢は疑いもなく強力なものである。
 それは、アメリカの制度は完全ではないかもしれないが基本的には慎ましく公正で開放的で信頼できるものだという根源的な信頼をゆさぶるほどの力を持っている。さらにそれは、イギリスのようなずっと閉鎖的な政府を持つ国の国民に、自国の政府ならどんな職権濫用をしでかすだろうと考えさせるきっかけともなる。
 「もしアメリカであんなことが起きるのなら、この国ではどれほど恐ろしいことが起きているのだろう?」

 かつてない混乱にあるUFO研究

 ここでもアメリカの経験が世界の人々の指針となっている。アメリカ人の心理の根底には政府への強い不信があり、憲法にもそれが穏やかなかたちで表明されている。それが、UFO研究をはじめとするアメリカの各所で敵意ある疑いとなって噴出するのである。
 事実隠蔽や陰謀を訴える激しい声は、国民生活と世界にたいするアメリカ人の広くて深い不安が反映されたものと見ることができる。
 現在アメリカにおけるUFO研究は、かつてない混乱状態にある。過激な妄想をいだく一派は、異星人とのコンタクトについての大機密を守るためには嘘や欺瞞、はては殺人までいとわない悪夢のような政府の姿を描きだしている。
 たしかに機密を解かれた文書を見ると、アメリカ軍当局と情報機関が、否定していたにもかかわらずつねにUFO情報を収集しており、UFOの存在を否定するための計画を遂行していたことは事実である。そうした計画にウォルト・ディズニーの力を借りる案さえあった。
 だが、政府のファイルは「空飛ぶ円盤」の存在そのものが思い違いや欺瞞、見間違いなどのうえに成立していることをしめす証拠と解釈することも可能なのである。
 では実際には、政府機密文書には当局のUFOにたいするどのような関心が現われているのだろう? スタントン・フリードマンが「宇宙版ウォーターゲート事件」と呼ぶような大規模な隠蔽工作は本当にあるのか? UFO懐疑論者が政府や軍、情報機関の無実を弁護するのは正しいのか? そして最後に、UFO研究者の主張が真に告げているものは何か? 本物の公的秘密が少しは含まれているのか、それともUFO研究そのものについて多くを語っているのか?
 これらの問いにたいする答えを探すためには、逆説や矛盾、欺瞞、混乱に直面する心構えが必要だ。とらえどころがなく、魅力的で、変幻自在なのはUFO自体だけではない。
 これからわかるように、UFOは接触する者すべての心を毒し、狼狽させ、啓発し、混乱させることができるのである。


 訳者あとがき

 本書は、一九九六年にイギリスのブランドフォード社から出版されたピーター・ブルックスミス著 UFO: The Government Files の全訳である。
 昨年は一九四七年六月二十四日にケネス・アーノルドの歴史的なUFO目撃事件が起きてから五十周年にあたり、UFOへの関心がふたたび高まりを見せた。「空飛ぶ円盤」という概念が登場してから五十年、アダムスキーの円盤同乗記や地球文明宇宙飛来説、ロズウェルUFO墜落事件など、さまざまなテーマが人々の心をとらえてきたが、いまだにUFOが実在するという物理的な証拠は提示されていない。
 その間、人々の関心とUFOとの間に立ってきたのが、アメリカ空軍をはじめとする政府各部局である。とくに、プロジェクト・グラッジ、のちにブルーブックを発足させ、UFO問題の対応にあたってきたアメリカ空軍は、UFO問題への回答を求める人々の要求の矢面に立たされた。
 今日では、アメリカをはじめとする各国政府が、UFOにかんする何らかの情報を隠し持っていると多くの人々が考えており、調査を求める声は、議会をも動かすほど高まっている。
 こうしたUFO事件と政府の五十年におよぶ関わりを、情報公開法によって機密解除された政府機密文書を使って解明したのが本書である。
 UFO研究者のなかには、アメリカ政府が異星人とコンタクトを取っており、その秘密を守るためには、嘘や欺瞞はおろか、殺人までいとわないと考えている人々もいる。また、目撃者の口封じのために、メン・イン・ブラックなる男たちが訪ねてきたという証言もある。
 しかし、昨年、ロズウェル事件の五十年目にアメリカ空軍が発表した調査報告によれば、UFOが墜落して、その残骸から異星人を回収したということをしめす記録はいっさい見つからなかったという。はたしてこの当局の発表は、真実なのだろうか?
 また、空軍は一九六九年にプロジェクト・ブルーブックを解散していらい、UFOには関心をいだいていないと言ってきた。だとすれば、UFO研究者たちの注目を集めているネヴァダ州の戦術戦闘機武器センター内にあるエリア51では、何がおこなわれているのか? はたして、アメリカ空軍やCIA、FBIはどの程度、陰謀や偽情報操作に手を染めているのか? 
 本書は、五十年におよぶUFO事件史をたどりながら、こうした疑問をひとつひとつ解明していく。なかでも特筆すべきは、UFO研究書が従来引用してきたさまざまな政府機密文書の実物が原文のまま掲載されていることで、そのため資料的価値も高い一冊と言っていいだろう。
 著者のピーター・ブルックスミスは、怪奇現象を扱って国際的にも評価の高い雑誌《フォーティアン・タイムズ》にUFO問題について定期的に寄稿している研究者。父親が航空エンジニアで発明家だったこともあって、幼いころから空を飛ぶものに関心を持ち、長ずるにいたって、三千ページにもわたる超常現象事典 The Unexplained の編纂にあたったほか、リーダーズ・ダイジェスト社から刊行された全十二巻の超常現象シリーズの監修もつとめた。最近では、同じブランドフォード社から UFO - The Complete Sightings Catalogue を上梓している。現在はロンドンとギリシャのシリフォス島、そしてウェールズの山地を往復する生活を送っているとのことだ。
 一九九八年六月


PETER BROOKESMITH
怪奇現象を扱って国際的にも評価の高い雑誌『フォーティアン・タイムズ』にUFO問題についての記事を定期的に寄稿しているUFO研究者。3000ページにもおよぶ超常現象事典 The Unexplained の編纂にたずさわったほか、リーダーズ・ダイジェスト社から刊行された全12巻の超常現象シリーズの監修もつとめた。そのほかの著書には UFO-The Complete Sightings Catalogue などがある。現在はロンドンとギリシャのシリフォス島、そしてウェールズの山地を往復する生活を送っている。

大倉順二(おおくら・じゅんじ)
早稲田大学卒。英米文学翻訳家。冒険小説などの翻訳を手がけるかたわら、軍事、スパイ関係の情報を収集している。