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 はじめに(一部)

 空中戦で迅速、確実に敵機を撃墜できる戦闘機パイロットとは、サッカーにたとえれば、得点を挙げるセンターフォワードと、チャンスを作り、同時に防御もするミッドフィルダーの役割を同時にこなすようなものなのだろうか?
「それといっしょです。戦闘機パイロットでサッカーをやっている者は多くいます。空中戦のテクニックにつながる部分がありますからね」
  筆者はこれまでの取材の中で、同じ話を聞いたことがある。
  サッカー元日本代表メンバーでイタリアのセリエAで活躍した中田英寿選手に取材した時だ。中田選手はキラーパスで有名だ。ここぞという一点にボールを蹴り出して、得点につなげる。それがどうしてできるかというと、ゴール前の敵味方の動きと位置関係を瞬時に見極める。同時に1秒後、2秒後、3秒後の動きと位置も予測する。そこでゴールを狙える一点にキラーパスを送るという。
  同じような話は、名著『大空のサムライ』の著者で太平洋戦争中、零戦のエースパイロットだった坂井三郎氏にインタビューした時にも聞いた。
「空戦域をさーっと見渡して、敵味方機が入り乱れている。その中で早く撃墜できる敵機の順番を見いだして、その一点に零戦を突っ込ませる」と坂井氏は言っていた。サッカーと空中戦は異なるが、そのやり方は中田選手と同じだった。(中略)
  イーグルドライバーから見て神≠ニ呼べるようなパイロットは何がちがうのでしょうか?
「一度でも、いっしょに飛んで動きを見ればわかります。無線を通じて『オイ、なにやってんだ、右、ちょい、左』とか『こら、遅い』などと、敵機や僚機を見て、どのように戦闘を展開するか、敵機へどう対処するか、指示を的確に出すレベルがちがいます。質の高いアドバイスが瞬時にできるんです。敵味方、すべてを見ているからこそできる。大半の者は見えていても判断ができないから、指示やアドバイスが出せない。だから、そのような指導ぶりを見ると、パイロットならば『むっ、見てる、できる』と思うわけですよ。これを訓練で何度か経験すると尊敬するようになります。1回でも指導されたら、レベルの違いがわかる世界なんです。ところが、新米のパイロットは、それがすぐにはわからない。2、3年経ってくると『あっ、あの時、こういう指導をしていた。見えていたんだ。わかっていたんだ』となる。すると『あの人は凄かったなー』と実感するわけです」
  空中戦とサッカーの共通点に注目したが、こうなると、1960年代のハリウッドやイタリア製西部劇映画に登場するような名人のガンマンと新人のガンマンの拳銃射撃修行に似ている。イーグルトライバーは、さながら空飛ぶガンマン≠ニいえるかも知れない。
鷲神≠ニ呼ばれる元イーグルトライバーに会う前に、現在の新人イーグルドライバーがどう育てられているのか、ヒナ鷲≠スちが翼を広げ、大空に羽ばたこうとしている姿から取材を始めた。

 

目 次

 

はじめに

鷲神≠ニ呼ばれたパイロット/空中戦の様相

第1章 空飛ぶ教室──飛行教育航空隊第23飛行隊(新田原基地)

F‐15のふるさと/飛行隊の朝/F‐15発進/指導者の喜び/変えてはいけないもの/戦闘機乗りに求められる資質/戦闘機操縦者にゴールはない/パイロット学生の原点/初めての飛行訓練の感動/空飛ぶ教室/スランプを脱するには?/理想のパイロット像/若きサムライの夢/F‐15のコックピット/太田教官のファミリーヒストリー/その心は?/諦めない心/柔よく剛を制す/原点回帰/一人ひとりに合った教育を/ラガーマン/父子鷹$闘機乗り/感謝の気持ちを持って/空中戦とは?

 

第2章 航空自衛隊とF‐15イーグル

最強戦闘機F‐15の誕生/各国のF‐15戦闘機/日本のF‐15戦闘機/ストライク・イーグルへの発展/F‐15戦闘機の実戦/航空自衛隊へのF‐15導入の経緯/最強戦闘機を選ばなければならない理由/F‐14対F‐15/1年遅れたF‐15戦闘機の配備/最終調達数は213機

第3章 伝説のイーグルドライバー

15人の鷲侍=^米国留学/性能抜群のF‐15/F‐15の難点/「燃料漏れじゃないからOKだ」/F‐15臨時飛行隊/第202飛行隊/北の守りの最前線/F‐15対F‐104/新旧交代/戦闘能力点検/飛行教導隊、謎の連敗続き/T‐2教導隊の強さ/飛行教導隊の改革/T‐2からF‐15DJへ/F‐15で変わった訓練方式/第202飛行隊の伝統/2番機の人選/多忙な第202飛行隊/第202飛行隊の教育訓練/空中戦訓練/全主力戦闘機に乗った男/亜音速機から超音速機へ/複座戦闘機/パイロットは新しもの好き/第202飛行隊

第4章 空中戦の極意──真剣勝負を制する

負けず嫌いのイーグルドライバー/名刀≠e‐15/西垣隊長着任/部隊精強化の秘策/「コンバット・デパーチャー」の実践/硫黄島での実戦想定訓練/「やるべきことはやる」/「ベリーサイドアタック」/グリッド式エリアコントロール/飛行教導隊の巡回教導/すでに地上で全機撃墜?/真剣勝負の空中戦だった/西垣隊長が目指した日本一/戦技研究チーム/支援戦闘機の護衛任務完遂/ミサイルのミニマムレンジ実証研究/米海軍F‐14との対戦/F‐14から再戦の申し込み/FA‐18との対戦/強敵だった米空軍F‐15C/米海兵隊ハリアーとの対戦/最大の難敵はF‐104/空中戦の極意/次世代の空中戦

第5章 防空の最前線──第305飛行隊(第5航空団・新田原基地)

飛行隊始動/第305飛行隊発進/飛行隊の伝統/タックネームは「009」/爽快感と緊張感/空中戦で勝つには?/飛行隊長の役割/ミッション・ブリーフィング/パイロットへの道/ウイングマーク/戦闘機操縦課程/第305飛行隊に着任/戦闘機乗りの条件/さらなる目標/戦闘機パイロットにしかできない仕事/継承される伝統/ウェポンスクール/パイロットと兵器管制官/第305飛行隊に緊張走る!/RF‐4飛来/中国艦隊の出現

第6章 ウェポンスクール──第306飛行隊(第6航空団・小松基地)

小松基地/タックネーム「備前」の由来/第306飛行隊/ウェポンスクール教官に聞く/空中戦訓練の方法/空中戦の極意/最新装備がもたらすもの/ウェポンスクールVS飛行教導群/本来の訓練目的/第306飛行隊長室/航空優勢

第7章 アグレッサー飛行隊──航空戦術教導団(小松基地)

飛行教導群/赤い星/ファントムライダー出身/教導資格/F‐15を活かすには?/父子二代の「アグレッサー」/教育効果の重視/空中戦に白旗なし/未来の空戦とは?/戦闘機との出会い/部隊統率/巡回教導/F‐15と将来の航空戦/強さの源泉/F‐15の役割

おわりに──明日のパイロットたちへ 

教訓を学ぶ/パイロットを目指す若者へ

小峯隆生(こみね・たかお)
1959年神戸市生まれ。2001年9月から週刊「プレイボーイ」の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』(並木書房)ほか多数。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。筑波大学非常勤講師、同志社大学嘱託講師。
柿谷哲也(かきたに・てつや)
1966年横浜市生まれ。1990年から航空機使用事業で航空写真担当。1997年から各国軍を取材するフリーランスの写真記者・航空写真家。撮影飛行時間約3000時間。著書は『知られざる空母の秘密』(SBクリエイティブ)ほか多数。日本航空写真家協会会員。日本航空ジャーナリスト協会会員。