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はじめに(一部)

 対テロ部隊の任務では、正確にターゲットに命中させて倒すことがきわめて重要だ。MP5は、この点でほかのサブマシンガンをはるかにしのぐ性能を備えている。
  1972年9月に起きたミュンヘン・オリンピック事件は世界に大きな衝撃を与え、1970年代から80年代にかけて各国で次々に対テロ部隊が創設された。対テロ部隊の多くは、精密射撃能力と制圧火力、信頼性、入手しやすさなどからMP5を主要武器に選択した。
  MP5を最初に採用した有名な組織は、旧西ドイツの対テロ部隊である連邦国境警備隊グループ9(GSG9)だ。GSG9との合同訓練でイギリス陸軍のSASはMP5に強いインパクトを受け、特殊プロジェクト・チーム(訳注:対テロチームの別称)用に採用した。
  知名度の高いこれらの部隊に使用されたこと、とくにGSG9がハイジャックされたルフトハンザ機の人質をモガディシュ空港で最小限の犠牲で救出に成功したことから、軍や警察の特殊作戦グループでMP5の普及が急速に進んだ。
  報道によれば、最初にMP5を採用したイギリスの警察組織は、要人警護を担当するロンドン警視庁外交保護部で、小型で携帯しやすいMP5Kを選択した。
  現在、ロンドン警視庁の武装パトカーと空港警備隊には、ライフルや散弾銃とともにMP5-SFA2と呼ばれるセミオートマチック射撃に限定されたMP5カービンが配備されている。
  モデル名称の「SF」はシングル・ファイアーの略でセミオートマチック射撃を意味する。MP5-SFはフルオートマチック(全自動)射撃機能を除けばMP5と同一で、MP5用の装備品がすべて使用できる。ほかの多くのイギリス警察組織もセミオートマチックのMP5カービンを採用した。(L・トンプソン)

□目 次

はじめに 1

第1章 MP5サブマシンガンの開発と誕生 14

第2次世界大戦後のサブマシンガン/MP5サブマシンガンの開発/MP5の派生型/HK54サブマシンガン/MP5A、MP5A2、MP5A3、MP5A4、MP5A5/MP5SDサブマシンガン/MP5K、MP5K-N、MP5K-PDW/SMGUサブマシンガン/MP5-Nサブマシンガン/MP5-SFサブマシンガン/MP5/10とMP5/40サブマシンガン/MP5FとMP5E2サブマシンガン/付属装備品/MP5サブマシンガンの秘匿携帯/訓練用MP5/民間向けのMP5の類似モデル

第2章 MP5の精密フルオート射撃 76

MP5の操作方法/MP5の作動メカニズム/MP5のコッキング・ハンドル

第3章 MP5を使用する法執行機関 90

ドイツ GSG9(対テロ特別班)/アメリカ連邦捜査局(FBI)
/イタリア GIS(特殊介入部隊)/インド NSG(国家治安部隊)/イギリス SCO19(専門刑事・業務部第19課)/アメリカ ERT(ケネディ宇宙センター緊急対応チーム)/MP5を使用するその他の法執行機関/パトロールで使用されるMP5

第4章 MP5を使用する軍特殊部隊 120

イギリス陸軍特殊空挺部隊(SAS)/イギリス陸軍情報部第14情報中隊/イギリス海兵隊特殊舟艇部隊(SBS)/アメリカ海軍特殊戦部隊(SEALs)/カナダ 統合タスクフォース2(JTF2)
/MP5を使用するその他の軍組織

第5章 MP5が与えたインパクト 156

基本設計の確かさ/世界各国でライセンス生産/MP5の後継機種/ユニバーサル・サブマシンガン(UMP)/MP7(PDW)

第6章 最強の精密射撃マシン 175

「ピンポイント攻撃」に最適/アメリカの警察機関が広く採用/洗練されたデザイン

[コラム]
ヘッケラー&コッホ社とMP5 28
MP5の派生型名称 30
MP5の生産 42
MP5各部の機能と特徴 47
H&K VP70ピストル 74
MP5の射撃手順 80

参考文献 180
監訳者のことば 182
訳者あとがき 186

□訳者あとがき(一部)

 本書を翻訳し、それが思い込みに過ぎなかったことを知った。著名な銃器インストラクターとして欧米で活躍するリーロイ・トンプソンは、MP5が従来のサブマシンガンとは一線を画する武器であることを実例で証明していく。
「MP5以前、サブマシンガンとは『弾をばらまくだけの粗雑な火器』だった。しかしMP5はピンポイント射撃が可能な精密射撃マシンだ」また「警察や軍の対テロ部隊が人質救出作戦を行なう場合、小銃弾を発射するアサルト・ライフルなどは過剰貫通で二次被害を引き起こす。射程の短い拳銃弾を使うMP5ならその心配がない」、そして「かつてサブマシンガンの『欠点』だった拳銃弾の短射程と威力不足が、人質の人命保護を重視する対テロ特殊部隊にとっては千載一遇の『取り柄』になった」などの主張はわかりやすく、銃器プロの実体験と知識に裏打ちされている。
  日本警察の特殊急襲部隊(SAT)をふくめ、MP5は世界各国のエリート対テロ作戦部隊がそろって採用している。本書を一読すれば、MP5が「対テロ戦争の象徴的武器」と称される理由が容易に理解できるだろう。
  また近年、テロリストの重武装化や防弾チョッキの普及によって、MP5からアサルト・カービンやPDW(個人防衛火器)に移行する対テロ部隊が出始めたといわれる。その賛否についても、読者は本書から得た知識をもとに自分なりの判断を下せるはずだ。(加藤喬)

□経歴
リーロイ・トンプソン(Leroy Thompson)
長年、小火器の専門家として各国の軍および警察で銃器に関する戦術トレーニングや助言を行なっている。オスプレイ出版のものも含め、45冊を越える著作がある。ディスカバリー・チャンネルやナショナル・ジオグラフィック、英国放送協会(BBC)のドキュメンタリー番組にも兵器エキスパートとして出演している。
床井雅美(とこい・まさみ)
東京生まれ。デュッセルドルフ(ドイツ)と東京に事務所を持ち、軍用兵器の取材を長年つづける。とくに陸戦兵器の研究には定評があり、世界的権威として知られる。主な著書に『世界の小火器』(ゴマ書房)、ピクトリアルIDシリーズ『最新ピストル図鑑』『ベレッタ・ストーリー』『最新マシンガン図鑑』(徳間文庫)、『メカブックス・現代ピストル』『メカブックス・ピストル弾薬事典』『最新軍用銃事典』(並木書房)など多数。
加藤 喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ州立大学フェアバンクス校ほかで学ぶ。88年空挺学校を卒業。91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。著訳書に『LT』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』『アメリカンポリス400の真実!』『ガントリビア99』『M16ライフル』『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(並木書房)など多数。