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監訳者のことば(一部)

 本書は、ひと言で述べれば、アメリカの陸軍、空軍、海兵隊および海軍が制式小銃として選定・採用したAR-15(M16)ライフルの誕生から現在に至るまでの発展の過程をたどった年譜と言えよう。
  とくに私が興味をひかれたのが著者の経歴だった。ゴードン・ロッドマン氏は、アメリカ陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の兵器担当要員としてベトナムに派遣されて従軍し、自身が褒貶相半ばするAR-15(M16)ライフルの現実を現場で経験している。この点で本書は独自の視点から解説していると言えるだろう。
  ベトナム戦争中、AR-15(M16)ライフルは、その性能について高く評価される一方で、多くの批判にさらされた。本書にはベトナムの戦場で使用者である兵士の目から見たAR-15(M16)ライフルに対する証言が数多く紹介されている。ここには外部の人々にはわからない真実のAR-15(M16)ライフルの姿がある。私自身も読んでいてなるほどと思う記述が随所にあり、興味はつきなかった。
  ベトナム戦争中に採用されたAR-15(M16)ライフルは、その後、数多くの改良が加えられて改良型のM4カービンに発展し、現在もアメリカ軍の第一線部隊の主要装備品として使用され続けている。
  その間のAR-15(M16)ライフル改良に関して、本書は時系列に詳述している。私が本書をAR-15(M16)ライフルの年譜とする理由がここにある。AR-15(M16)ライフルに興味をもつ人々や研究者にとって本書は便利な資料として活用できる。
  私はかつてアメリカのワシントンDCにあるスミソニアン博物館で研究をしていた時期にAR-15(M16)ライフルの開発者のユージン・ストーナー氏と面談する機会があった。その時の話で今も鮮明に記憶していることがある。
  AR-15(M16)ライフルの改良で彼が承服できないことのひとつに陸軍の手によってボルト・フォワード・アシストが追加されたことだった。ストーナー氏の説明によると、弾薬が正常にバレルの薬室に送り込まれない場合、弾薬が送り込まれない何らかの原因がある。それを究明せずに、外圧を加えて弾薬を無理矢理にバレルの薬室に送り込むことは、決して奨励される行為ではなく、さらに重大な故障や事故を招くことになるというものだった。AR-15(M16)ライフルの開発者自身の証言だけに強い説得力がある。
  本書は開発者側ではなく実際にこのライフルに命を預けた元兵士によって書かれており、立場を異にした使用者側から見たAR-15(M16)ライフルに関する多くの示唆を含んでいる。(床井雅美)

目 次

はじめに 1

第1章 ブラック・ライフル誕生 6

短命に終ったM14ライフル/新たな軽量小銃を求めていた米空軍/AR-15ライフルvsウインチェスター/M14ライフルを上回るAR-15の性能/コルト社にAR-15ライフルの特許権を売却/全米ライフル協会の批判記事/陸軍もAR-15ライフルを暫定調達/問題を抱えながらも部隊配備開始/XM16E1ライフルの特徴/XM16E1ライフルの配備開始/実戦で明らかになった欠陥/故障の原因は発射火薬/マガジンの不具合/XM148榴弾発射器/M16A1ライフル/M16A1ライフルの改善点/XM177シリーズ・サブマシンガン/40mm榴弾発射器

第2章 ベトナム戦後のM16 76

ベトナム戦後、M16の生産激減/歩兵戦闘車用M231ライフル/「M16A1ライフル改良プログラム」/M16A1ライフルからM16A2ライフルへ/M16A3ライフル/M16A4ライフル/M4カービンとM4A1カービン/兵士に支持されたM4カービン/Mk12特殊用途ライフル

第3章 M16の付属品と弾薬 112

スリング、バイポッド、クリーニング・キット/M7銃剣とM9多目的銃剣/サイレンサー、榴弾、ショットガン/空砲アダプター/5.56×45mm弾薬の開発/5.56mm軽量高速弾の特徴/M855普通弾とM856曳光弾/Mk318高性能普通弾と6.8mm特殊用途弾

第4章 戦場のM16 134

M16ライフルの射撃手順/ジャミング(故障・作動不良)の回復/全自動射撃より有効な半自動射撃/キャリング・ハンドルの長所と短所/20発入りマガジンには弾薬19発を詰める/戦場でのM16ライフルの故障/手入れ不足からくる故障/M16ライフルの独特な銃声/M16に対する相反する評価/M4カービンの問題点/5.56mm弾薬に関する俗説/M16ライフリングの転度/M16ライフルによる銃創の極端な例/携行弾薬量/個人装備携行ギア(装具)/法執行機関でもM16ライフルを採用

第5章 M16の後継機種 174

AK-47と人気を二分するM16ライフル/決まらないM16の後継機種

用語解説 184
参考文献 186
監訳者のことば 187
訳者あとがき 189

ゴードン・ロットマン(Gordon L. Rottman)
1967年に米陸軍入隊後、特殊部隊「グリーンベレー」を志願し、各国の重・軽火器に精通する兵器担当となる。1969年から1970年まで第5特殊部隊の一員としてベトナム戦争に従軍。その後も空挺歩兵、長距離偵察パトロール、情報関連任務などにつき、退役時の軍歴は26年に及ぶ。統合即応訓練センターでは、特殊作戦部隊向けシナリオ製作を12年間担当。著書にオスプレイ・ウエポンシリーズの『M16』『AK-47』『ブローニング.50口径重機関銃』など多数。
床井雅美(とこい・まさみ)
東京生まれ。デュッセルドルフ(ドイツ)と東京に事務所を持ち、軍用兵器の取材を長年つづける。とくに陸戦兵器の研究には定評があり、世界的権威として知られる。主な著書に『世界の小火器』(ゴマ書房)、ピクトリアルIDシリーズ『最新ピストル図鑑』『ベレッタ・ストーリー』『最新マシンガン図鑑』(徳間文庫)、『メカブックス・現代ピストル』『メカブックス・ピストル弾薬事典』『最新軍用銃事典』(並木書房)など多数。
加藤 喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ州立大学フェアバンクス校ほかで学ぶ。88年空挺学校を卒業。91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。著訳書に『LT』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』『アメリカンポリス400の真実!』『ガントリビア99』『AK-47(近刊)』(並木書房)がある。