目 次
まえがき 12
序 母の贈物 17
1 開戦-ヒンドゥークシュ山脈の教訓 32
2 嘲笑う狙撃手 51
3「もっとも危険な戦い」59
4 他人の家 76
5 狙撃手たちの声 87
6 レインジャー部隊-狙撃手兼奇襲隊員 110
7 教師としての特殊作戦要員-三十七番射場で学ぶ教訓 125
8 誰にでも見える場所に隠れる 139
9 隠れ場所-三つの物語 153
10 サルマン・パクで隠密行動 195
11 スコープの反射 210
12 奇怪な命中弾 222
13 発射されなかった銃弾 233
14 狙撃手たちの絆 259
覚え書きと謝辞 286
訳者あとがき 291
訳者あとがき
本書は、アメリカ屈指の従軍記者ジーナ・キャヴァラーロと軍歴二十二年の元狙撃手マット・ラーセンが、イラクとアフガンの対テロ戦におけるアメリカ陸軍と海兵隊のスナイパーの体験や訓練を多数の当事者に取材し、生の声でつたえたノンフィクション SNIPER American Single-Shot Warriors in Iraq and Afghanistan(Lyons Press 2010)の翻訳である。
スナイパーという言葉で連想するのはたいてい、たとえばビルの屋上から遠く離れたターゲットを狙撃して忽然と姿を消す孤高の名射手、あるいは、数メートル先からでもわからないほど完璧に草木に溶け込んでターゲットが現れるのを待つカムフラージュの達人といったイメージだろう。
しかし、本書を一読すれば、こと軍隊のスナイパーにかんしては、そうしたイメージが変わりつつあることがわかるはずだ。
現代のスナイパーは、めったにギリー・スーツと呼ばれる擬装用の服を着て茂みに隠れたり、観測手とペアで行動したりしない。おもな任務は、ボルトアクションとオートマチックの狙撃銃を持ち、歩兵部隊といっしょに行動することだ。スナイパーは歩兵部隊の目であり、歩兵の通常の火器では対処できない脅威を遠距離から取り除く腕でもある。高性能の武器を自在にあやつり、敵の目に見えないところから圧倒的な火力で襲いかかる彼らは、まさに現代戦における「プレデター」といっていい。
従来の狙撃手のドクトリンは、通常戦における高価値の目標(敵軍の高官や基幹通信施設)の除去であるとか、隠密潜入任務であるとか、おもに野戦での狙撃チームの単独行動を想定して構築されてきた。しかし、9・11同時多発テロ以降、アメリカ軍のスナイパーたちは、アフガニスタンとイラクでそれまで想定していなかった要求に直面することになった。そして、状況に応じて、自分たちで新たな戦法を編みだしていったのである。
本書で紹介されるスナイパーたちの体験はほぼ年代順になっているので、本書を読めば9・11以降、アメリカ軍スナイパーの任務や装備、活動形態がどう変化していったかがよくわかる。また、アフガニスタンとイラクでの任務のちがいも描写されている。
アフガンの場合には、地形の関係で遠距離からの監視任務が多い。また移動手段も、遠く離れた場所にヘリで降りて、あとは山地を歩くのが普通である。
一方、イラクでは市街地での対テロ警戒がおもな任務だったため、スナイパーたちは歩兵パトロールに同行し、対スナイパー作戦を展開したり、高性能の暗視スコープを活かして周囲の警戒にあたったりした。
本書では、陸軍の通常部隊、レインジャー、特殊部隊、そして海兵隊のスナイパーに(一部は匿名を条件に)直接話を聞き、彼らの体験を生の声でつたえている。彼らの体験談はかならずしも心地よいものばかりではないが、スナイパーはあまり体験を話したがらない人たちなので、いずれもが貴重な証言といえる。
なかでも興味深い証言は、二〇〇二年七月にアフガンで起きたアメリカ軍における結婚式爆撃事件の目撃談である。マスコミでもアメリカ軍の暴虐の一例として大きく取り上げられた有名な事件だ。その一部始終を特殊部隊のスナイパーたちが目撃していたという。彼らの証言については本書を読んでいただきたいが、じつに興味深い内容であることはまちがいない。
そのほか本書では、九死に一生を得たスナイパーの話や、ごみ置き場に数日間隠れた狙撃班の体験談、あきらかにイラク人ではない敵スナイパーとの対決といった、迫真のエピソードの数々が紹介されている。
また、陸軍の新型迷彩服ACUが「暗闇で光る」という理由でスナイパーたちから嫌われていた等のエピソードや、さまざまな市販パーツを使って支給品のM16をカスタム化する方法、近距離で多数の標的が迫ってくる市街戦でスコープの調節つまみを使わずに狙撃するテクニックなど、ミリタリー・ファンには興味をそそられる記述がいたるところにちりばめられている。
スナイパーに興味がある読者だけでなく、現代の歩兵戦闘の最前線に関心がある方にもぜひ一読をお勧めしたい一冊である。
最後になったが、著者について簡単にご紹介したい。
ジーナ・キャヴァラーロはアメリカ有数の経験豊富な従軍記者で、《アーミー・タイムズ》紙や《マリン・コー・タイムズ》紙の記者として、アフガニスタンやイラクでアメリカ軍に同行取材を行なったほか、世界各地のアメリカ軍基地の活動を取材して、兵士たちの生の声を報道している。序文にもあるように、同行取材中に警護役の兵士が敵狙撃兵に撃たれて死亡したことが、本書の執筆のきっかけとなった。
共著者のマット・ラーセンはアメリカ海兵隊と陸軍レインジャー部隊で二十二年間勤務した元狙撃手で、徒手格闘の専門家、サバイバル教官。退役後は各国の特殊部隊に徒手格闘を教えるほか、アメリカ陸軍徒手格闘学校の校長も務めた。また『アメリカ陸軍サバイバル・ハンドブック』の増補改訂も手掛けている。
二〇一二年一二月
村上和久
ジーナ・キャヴァラーロ(Gina Cavallaro)
アメリカ有数の経験豊富な従軍記者。《アーミー・タイムズ》紙や《マリン・コー・タイムズ》紙の記者として、アフガニスタンやイラクでアメリカ軍に同行取材を行ない、兵士たちの生の声を報道している。
マット・ラーセン(Matt Larsen)
アメリカ海兵隊と陸軍レインジャー部隊で22年間勤務した元狙撃手で、徒手格闘の専門家、サバイバル教官。退役後はアメリカ陸軍徒手格闘学校の校長も務め、『アメリカ陸軍サバイバル・ハンドブック』の増補改訂も手掛ける。
村上和久(むらかみ・かずひさ)
英米翻訳家。主な訳書に『砂漠の狐を狩れ』『カストロ謀殺指令』『乱気流』『ピラミッド ロゼッタの鍵』『天使の護衛』ほか。また『第2次大戦 ドイツ軍装ガイド』『ドイツ武装親衛隊軍装ガイド』(共訳)、『特殊部隊ジェドバラ』『ドイツ軍装備大図鑑』『日本軍装備大図鑑』など、軍事、政治からサスペンス、ミステリーまで幅広く翻訳。 |