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目 次

第1章 89式小銃の射撃訓練  4

自衛官は全員ライフルマン/「銃、点検」の号令で始まる/紙の標的から電子標的へ/射場では確実に復唱する/射座へ向かう/「弾倉準備よし」/「射撃用意」/点検射で3発射撃/「弾痕表示」/9発入り弾倉を射ちつくす/捕虫網で薬莢をキャッチ/20秒間に5発射つ/「射手は銃を持って退場」/「もとへー、銃」で訓練終了

 

第2章 日本軍用小銃史─89式小銃に至る道  26

種子島に鉄砲伝来/20秒に1発射てる火縄銃/陸軍最初のスナイドル小銃/初の国産小銃「村田銃」/射撃精度重視の三八式歩兵銃/反動がきつい九九式小銃/堅牢で扱いやすいM1小銃/小型軽量なM1カービン/BAR(ブローニング・ライフル)/近距離戦闘用「突撃銃」/短期間で消えたM14小銃/自衛隊初の国産銃「64式」/実戦を考えていない64式?/5.56ミリ小口径弾の時代/採用されなかったAR-18/89式小銃の開発

 

第3章 89式小銃のライバルたち  60

5.56ミリの先駆け「M16」/命中精度のいい「FNC小銃」/ブルパップ型「AUG小銃」/韓国独自開発の「K2小銃」世界最高レベル「SG550」/7.62ミリ小型実包の「SKS」/ソ連初の突撃銃「AK47」/プレス加工の中国「81式」/中国95式ブルパップ型小銃/中国の新型「03式小銃」

 

第4章 最高の89式小銃  76

引き金のキレをよくして欲しい/自衛隊の銃の安全装置はなぜ右側か?/3発連射機能は必要か?/整備が楽な「引き金室体部」/M16とAKのいいとこ取り/可も不可もない照準器/89式最大の問題、弾倉交換/脚があるのはいいことだ/「この銃、曲っている?」/プレス加工は正解か?/規整子は本当に必要か?/研いではならない「銃剣」

第5章 89式小銃5.56ミリ実包  104

同盟国として弾の互換性を重視した/鉄芯入り普通弾/曳光弾/進歩した空包用アダプター/カラ射ちの訓練用の擬製弾/市街戦訓練で使いたいプラスチック弾/サボ(装弾筒)付き徹甲弾の開発を/5.56ミリは威力不足か?/弾薬箱を開ける道具がない?/使い捨ての弾薬箱/各銃の個人携行弾薬量

 

第6章 89式小銃射撃の基礎知識  122

5つの安全原則/ヘルメットよりゴーグル/不発があってもすぐに排出しない
射撃姿勢
立射/ヒップレストの立射/オフ・ハンドの立射/中間姿勢/膝射/座射/しゃがみ射ち/狙撃兵型座り射ち/伏射/一般的伏射/スリングを使った射撃/最も安定する依托射撃
照準器と照準
アイアン・サイト/アイアン・サイトによる照準/光学照準器/正確な射撃/ボア・サイティング
戦闘射撃
移動目標に対する立射/肩射ち射撃/肩付けをしない射撃姿勢/CQB用の特殊な射撃姿勢

 

第7章 陸上自衛隊CQB訓練  154

市街地訓練場/年30日訓練の即応予備自衛官/CQB訓練用の装備品/タクティカルホルスターは自前で?/特殊装備は自分で買う/交戦訓練装置「バトラー」/素早く「弾倉を交換」する/下から攻めるのむずかしい/「敵のいる建物は爆砕すればいい」

 

第8章 89式小銃の手入れ法  173

自衛隊は精神主義で銃をピカピカにする/手入れ棒は薬室側から入れる/手入れ棒で銃口に入った異物を除去する/野外では銃口に粘着テープを貼っておく/銃腔に付着する銅が問題/銃腔手入れのテクニック

 

第9章 89式の発展型と次期小銃  182

国産兵器はなぜ高いのか?/武器を輸出してはならない理由はない/武器を輸出したほうが平和を保てる/輸出すれば兵器の性能は向上する/輸入兵器は決してお買い得ではない/M4より優れた89式小銃/使用者の体格に合わせて調整/次世代の自衛隊小銃とは?/新小銃の口径も5.56ミリ

「あとがき」にかえて
小銃は国産でなければならない  195



 「あとがき」にかえて
  小銃は国産でなければならない

 小銃は兵士の分身である。
  実際のところ、近代戦においては銃弾による死傷者よりも砲爆弾による死傷者のほうが多く、小銃の性能は戦争の勝敗を左右するほどの要素ではないとは言える。しかし、小銃はすべての兵士が持つものであり、小銃はその国の兵士、その国の軍隊を象徴する存在である。だから、小銃は国産でなければならない。自衛隊は「M4カービンを装備しろ」だの「AK小銃を買え」だのは論外である。
  そして小銃の性能はその国の軍事技術の水準を象徴する。「わが国は、小銃はまともなものは作れませんが、ミサイルは高性能のものが作れます」などと言っても、だれもそんなことは信じない。国産銃の性能が悪ければ、兵士は自国のすべての兵器の信頼性を疑う。それはすなわち士気の低下をもたらす。良い銃を作らなくてはならない。だが、64式小銃というのは、実に隊員の志気を低下させるような銃であった。

 小銃はその国の軍事力のシンボルであり、兵士の分身である。実際、その国の兵士に似つかわしい小銃がこれまで作られてきた。職人仕事で作られたみごとな仕上げと小口径低伸弾道の三八式歩兵銃は、やはり日本人らしい銃であった。雑な仕上げと低い命中精度と故障知らずのタフさが売り物のAKシリーズは、やはりロシア軍を象徴するロシアらしい銃だ。ドイツが第2次大戦で使ったモーゼル98も戦後西ドイツのG3小銃も、いかにもドイツらしい精密でパワフルでがんじょうな銃だった。
  64式小銃もまた、日本の防衛をみごとに象徴した銃だったといえる。
  グリップから手を離して、安全装置を一段引き出してから回し、照星・照門を起こし、敵に先に撃たれてしまうような銃。異様に引き鉄が重く、引き鉄を引き落としてから弾が出るまでに一瞬の遅れがあるような銃。部品を落とさないようにテープでぐるぐる巻きにしている銃。突撃銃ではなく陣地防御専用銃というコンセプトの銃……。まさに、当時の自衛隊の実力を象徴するような銃だった。
  そして国賓を迎える儀杖隊の銃がM1ライフルだというのも、日本がアメリカの属国であることを象徴している。

 そして「89式小銃」というのは、まともに戦うことができない自衛隊、戦うことも許されない自衛隊から「戦える自衛隊」に脱皮しようとしている時期に作られた銃であり、日本が普通の国になろうという意志を持ち始めた時期の普通の国らしい普通の小銃である。
  そして、その引き鉄を引くとき筆者は、その引き落としの感触を「日本人の銃らしくない」という思いと、「いかにも日本の銃だ」という、正反対のことを同時に感じるのである。

 日本人の性格的な緻密さからいえば、ロシア兵に使わせる銃でもあるまいに、この引き鉄の雑さには理解できないものがある。日本の工業製品ではないと言っていい。
  しかし逆に言えば、引き金の感触にこだわらないというのは、日本人らしくもある。つまり日本人は「引き鉄のキレ」などと言われても何のことだかわからないほど銃に無知な国民だということである。これがドイツのように射撃が青少年の普通のスポーツとして普及している国であれば、このような雑な引き鉄にはしないであろう。まして射撃が国技といわれているスイスならば、素晴らしい引き鉄の銃を伝統的に作っている。SG-550などは、いかにもスイスらしい銃である。
  日本人はほかの工業製品ならば、ほかの国民が「そこまでこだわらなくても」と思うほどにきめ細かい配慮をするのに、銃に関しては、それが当てはまらない。あまりにも銃というものが一般国民からかけ離れた存在であるため、良い銃とはどういうものだという想像力を持つことさえできないからだろう。
  その点はイギリスも同じである。イギリスは日本と同じくらい銃規制の強い国であり国民が銃になじみのない国である。だから良い銃が作れない。
  イギリスが第2次大戦で使ったリー・エンフィールドライフルは日清戦争のころに開発されたものだ。その時代にあのような銃を作ったのはすごいが、それを第2次大戦まで使ったというのは、もっとすごい。
  第2次大戦後はベルギーのFNの銃を装備した。20世紀末には国産のブルパップ型小銃を作ったものの、不具合が続発して現場の兵士からはすこぶる評判が悪かった。やはり国民がふだん銃になじんでいない国では銃の設計者も育たないのだ。
  だがそれではいけないであろう。
  銃はその国の軍事技術のシンボルだ。良い小銃が作れないようではほかの兵器の評価にも影響する。良い小銃を持たない兵士に高い志気は持ち得ない。
  良い銃を作れる国になるには、ドイツやスイスのように、もっと一般国民が銃になじまなくてはならない。

 さてしかし、まともな銃が作れないはずの日本で作ったにしては89式小銃は成功作だった。本文でも述べたが、筆者が戦場へ行くとして、M16ライフル、AK突撃銃シリーズ、89式小銃のどれか1つを選んで持って行けと言われたら、迷わず89式小銃にする。
  日本の工業技術水準は高い。日本で良い銃が作れないというのは、良い銃が設計できないということであって、良い設計があれば日本の工場は高品質のものを作る。
  AR-18ライフルは、日本、アメリカ、イギリスの工場で作られたが、日本製が一番品質が良かった。抜群の信頼性で世界のハンターに愛用されているブローニングのハンティングライフルは日本の工場で作られている。外国で設計された銃を日本の工場で作れば最高の銃ができる。
  89式小銃はM16ライフルが登場して十数年も経ってから開発に着手し、世界各国の小銃を参考にしながら、それらのいいとこ取りをしてさらに十数年かかって開発したのだから、いいものができて当たり前なのである。
  もっとも、それだから「このへんはM16の真似だな。このへんはFNCのコピー。このへんはAKだな……」と言われるような銃になっている。だが、外国のものに似ているなんてことは、世界に誇る日本の自動車にもあることで、気にする必要はない。
  89式小銃は日本の工場で作ったのだから世界最高の小銃に仕上がっているのである。
  世の中には89式どころかM16もAKも実際に撃ったこともないのに「89式なんてやめてAKにしろ」などと妄言を吐く人がいる。もっともそんな妄言が出てくるというのも、日本国民があまりにも銃に縁遠い国民だから、実物を知らないで妄想を語っているのだろう。
  筆者は世界各国のさまざまな銃を撃った。その体験に基づいて語っている。
  89式小銃は世界最高の銃である。たしかにスイスのSG-550はすばらしい精度の銃ではあるが、弾倉交換の容易さなど89式小銃のほうが優れた面もある。しかも89式小銃のほうが軽量だ。
  89式小銃はいい銃だ。自衛隊が海外へ出て行く時代だが、自信と誇りを持って「日本製の銃だ」といえる素晴らしい銃である。

 本書が完成するまでに多くの人の協力をいただいた。とくに戦場カメラマンの横田徹さんには迫力ある写真の提供をいただいた。
  第1章「89式小銃の射撃訓練」では陸上自衛隊第1師団司令部広報班の協力をいただいた。訓練内容について不正確な記述があれば、それはすべて筆者の責任である。なお、89式小銃の基本仕様は公表されているものの、詳細な性能等については非公開であり、本書に書かれてあることは筆者の個人的体験にもとづくものであることを最後に申し述べておきたい。

 

かの・よしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校卒業。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年定年退官。世界各国の百種類以上の小火器を実際に射撃し、長年狩猟にも親しむ。著書に『鉄砲撃って100!』『スナイパー入門』(いずれも光人社)『最新兵器データで比べる 中国軍vs自衛隊』(並木書房)などがある。