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はじめに
 ご立派な「憲法典」や紙切れに書かれた大国との条約が、一国の独立と永続を保障してくれるわけではない。
 ある大国に創ってもらった政権だからといって、その大国の使い走りにならずにすむ方法はある。
 ある大国にかつて守ってもらったからといって、その大国にいつまでも基地を提供したり、貢ぎ物を上納し続けねばならぬ義理はない。
 すべては、政治家に、国体の消滅を回避するために為し得ることを考えて決心し、周囲に命令を徹底させる実行力があるかどうか――に、かかるのみ。
 異常な強国と国境を接していても、政党主導の外交と積極果敢な対外工作と国防意志の振作(しんさく)とによって、併呑(へいどん)を免れることはできる。
 石油を絶たれて「ジリ貧」になったとして、それがどうして国民が外国に精神的に屈服することを意味するのか。そんな馬鹿なことを言ったのは旧日本海軍の傲慢な提督たちだけだ。海軍など、なければないで国は立ち行くのだ。畢竟(ひっきょう)、国防とは、国民が外国人を主人として迎えないことにつきる。
 国民に独立心がなくなれば、またインテリと住民に間接侵略に反発する戦意がなくなれば、そして全成人に国防の義務が理解されていないとしたら、どんな最新ステルス機やミサイルを揃えていたところで、ムダである。逆に、空軍力で甚だ見劣りする小国が、粘り強い地上での抵抗によって、ついに強国に支配をあきらめさせ、追い返した例は過去にある。
 組織図や法令集はしょせん「死物」でしかなく、リーダーが「活物」となってあらゆるものを運営し、国民を意識化し続けなかったら、国家の生命も危ういであろう。
 軍人や役人が、政権政党のしもべとして、確実に統制されているか? 軍人や役人の秩序紊乱(びんらん)や抗命や独走や涜職(とくしょく)に対して、政権が銃殺刑を厳格に適用できているかどうか? また外国のスパイも、確実に処罰されるかどうか?
 これができる国は、小国といえども、かならず一方の大国からは、地域の一勢力として評価され、中距離核ミサイルによる武装すら、是認されるのである。
 おそらく北朝鮮軍は、「極東のイスラエル軍」ぐらいには、なれるであろう。1日に山道を60キロ歩き、虎のように犬を食べて生き延び、ボロ船で日本海に乗り出して水没する危険も恐れない、そんな頼もしい兵隊どもを、シナと戦うときの友軍にしてみたいと思う大国は、存在するであろう。
 ユダヤ人や華僑のように、世界の経済市場に広く人脈を扶植(ふしょく)してきたわけでもない北朝鮮が、日本から平壌へ、半ば違法、半ば合法にカネを吸い取るルートを開拓し、国庫と軍備を充実させてきている事実は、日本の野心的事業家も研究すべき、創意工夫の好個の参考書である。
 しかも、途中でのピンハネや持ち逃げが皆無か、ほとんどないことは、公務員教育の模範例でなければならぬ。海外出先の工作機関にまで、中央の統制が厳重に及んでいるのだ。もともとは中共が1970年代から自民党旧田中派の政治家と官僚・マスコミらを籠絡(ろうらく)した手法に部分的に倣(なら)ったものとはいえ、将来、国際政治史の研究者が全容を明らかにしたときには、世界の誰もが驚嘆するであろう。


目 次

はじめに

第1章 北朝鮮の言い分
アメリカ政府が北朝鮮を「テロ国家」のリストから外す理由
アメリカは全日本人の中にある「小沢一郎」的未熟さに愛想をつかした
国連決議は巧みな攻撃の前にはまったく役立たずである
確かにアウンサン廟を爆破した。でもビルマは人権抑圧政権だから、かまわないでしょ?
確かに大韓航空機を撃墜した。でも韓国はいまや反アメリカ国家だから、忘れていいでしょ?
確かに「ポプラ事件」では米兵をオノで殴り殺した。でもタイマン勝負だったぜ。
確かに核分裂装置を洞窟内で炸裂させた。でも4キロトンだから、これは真の原爆じゃないよ
確かに日本人を誘拐した。でも従軍慰安婦を制度化した日本軍へのお返しだ
確かにミサイルを何十発も乱射した。でも誰もそれに当たって死んだりしてないよね?
確かに500万人くらいの国民が寿命を縮めたかも……。でも独立の代償じゃねぇ?

第2章 アメリカの思惑
米政府はわざとショボくれた風采のヒル次官補を交渉役に送り込んだ
外患のある国は堕落しない。日本はただのカネヅルに落ちぶれた
MDこそ防衛省最大のスキャンダルにして侮日の根源
アメリカ製最新鋭戦闘機「F22」をなぜ日本に売らないのか?
落ち着くところはF15の延命と、無人戦闘機の完全国産か?
北朝鮮人は秘密を守れる奴らだ。日本人はザルも同然だ

第3章 無策の国ニッポン
拉致問題で露呈した日本の「保守」のブザマさ
今の北朝鮮なら「日本を操縦できます」とアメリカに売り込める
日本にも不可能だった「鎖国」を、北鮮は実現してみせた
統制貿易ほど政治家に旨みのある商売はない
まわりを敵とすることで北朝鮮は党派分裂病を克服した
中からの手引きがない限り、シナ軍の半島遠征などあり得ない
大都市への人口集中を拒絶する賢明さ
北鮮の辞書に「ヘタレ」の文字はない!
核武装は安くできることを実証した北朝鮮
まともな人事慣行が日本では明治いらいずっと不可能

第4章 シナの日本潰しにはこう戦え!
北朝鮮の「シナからの引き剥がし」は、米軍が『孫子』を理解した証拠だ
記憶の短い者には国家指導の資格はない
歴史教科書は、外国の宣伝工作から最も遠いところに隔離せよ
シナの金持ち階級相手の輸出商売こそ固いビジネスになる
なぜ自由人がシナ・朝鮮からの「工作員化工作」に簡単にハメられてしまうのか?
来るべき世界石油危機を前にしては、北朝鮮問題などないに等しい
シナ公害からの防御に適した土地はどこだ?
コメディにも残酷な展開を期待する英国人の安全保障感覚
知る者は語らず、語る者は知らず
「捕鯨」はすぐにやめろ!
グローバルな安保機構など無効。あり得るのは、地域ごとのコンパクトな同盟関係
教育の低さは百代祟るだろう
世界の自由主義はインドから来て日本で終わる
あとがき

兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)
1960年生まれ。82年、陸上自衛隊に入隊。90年、東京工業大学 理工学研究科 社会工学専攻博士前期課程修了。雑誌編集者などを経て、現在は「軍学者」。著書(共著含む)に『学校で教えない現代戦争学』『ニッポン核武装再論』『戦争の正しい始め方、終わり方』(以上、並木書房)、『日本有事』(PHP研究所)、『日本の戦争 Q&A』(光人社)、『イッテイ』(劇画原作、四谷ラウンド)、『ヘクトパスカルズ』(劇画原作、文藝春秋社)などがある。