1939年秋、ヒトラーがポーランドに侵攻した時、首都ワルシャワには数十万のユダヤ人が取り残され、超正統派ユダヤ教の指導者ヨセフ・シェネールソン師も、そのひとりでした。世界中に散らばる信徒たちが心配しましたが、その動静はつかめず、生死は不明。そこで在米ユダヤ人のあるグループが合衆国政府の高官に働きかけ、救出作戦がスタートします。
これまでシュネールソン師のワルシャワ脱出は、ほとんど知られず、今回初めて、歴史学者ブライアン・マーク・リッグがその事実を明らかにしました。しかも、この救出作戦にはアメリカの政府職員とドイツの軍諜報機関の協力があったことが判明しました。
戦争の混乱のなかで、軍律厳しいドイツ兵で編成された小さなグループが、この宗教指導者を捜索して、ついに身柄を確保し、疑惑の目で見るナチから守りつつ、一緒に首都ベルリン経由での脱出となります。
この救出作戦のさなか、シュネールソン師は、作戦指揮官の出自について、驚くべき事実を知ることになります。数々の勲功に輝くドイツ国防軍将校エルンスト・ブロッホ少佐は、ユダヤ人の血が半分混じった軍人であり、ドイツの反ユダヤ主義の犠牲者でもありました。
第二次世界大戦では、さまざまな救出劇が展開しましたが、そのなかでも本書で明らかにされたシュネールソン師の脱出は、民族のアイデンティティと道義的責任のからんだ、最も不思議で奇跡的な救出といえます。
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