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はじめに


 冷戦終結後、世界が平和になるという幻想は完全に打ち砕かれた。世界中で紛争は頻発し、平和なはずの先進諸国でも、テロの脅威は常につきまとう。
 こうした中で好むと好まざるとにかかわらず、軍隊の果たす役割は大きくなり、その装備に関する関心も高まっている。すでに日本の自衛隊も多数海外に出動しており、日本が江戸時代の鎖国のように、国際紛争の圏外に止まることは、もはや完全に不可能と言っていい。
 昨今では、テレビや週刊誌、新聞紙上で、戦場を走行する戦車、装甲車、各種戦闘車両のビビットな映像や写真を見かけることも少なくないが、一般の人が、その映像に映し出される車両、装備について詳しく知る機会はそれほど多くはないだろう。
 今回「学校で教えない」シリーズに、本書が加わることとなったのは、日本国内ではまだまだ一般に普及しておらず、専門家と一部ファン、マニアにしか知られていない、戦車・戦闘車両に関する知識を一般の方々にも共有していただきたいと思ったからである。これは世界情勢を一方的に伝えるさまざまな報道の内容を検証するためにも、必要なことと思う。
 本書では、まずパート1として戦車・戦闘車両について全般的な解説を行ない、パート2では戦車・戦闘車両の構造やメカニズムについて解説している。
 パート3では現在使用されている世界の主要な戦車を、パート4では主要な戦闘車両についてそれぞれ解説している。とくにこの部分は、現在はもちろん、21世紀前半まで活躍し続けるであろう、世界の主力戦車・戦闘車両について個々に紹介し、事典としても活用できるだろう。
 そして最終のパート5では戦車・戦闘車両が実際にどのように使用されるか、運用面の解説を加えている。こうしたスタイルをとることによって、本書1冊で、戦車・戦闘車両について全般的な理解が得られることを目指している。
 記述は簡潔でわかりやすいことを目指し、あまり専門用語も使用しないように努めた。基本的に一般読者向けを目指したが、ある程度知識のあるファンやマニアの方々にとっても、改めて現代戦車・戦闘車両の理解の一助となれば執筆者として望外の幸せである。


 目  次


はじめにパート1 戦車・戦闘車両とは何か? 11
戦車とは何か? 機動力、防御力、攻撃力を持つ最強の陸戦兵器  12
戦闘車両の定義@ 必ずしも武装や装甲の有無にはよらない  14
戦闘車両の定義A 砲の数だけある自走砲の種類  16
戦車の分類 重戦車化するかつての「中戦車」  18
装甲車の分類 「戦場のタクシー」から「自走砲もどき」まで  20
装軌車と装輪車 「キャタピラ」と「タイヤ」の利点と欠点  22
技術史上の戦車@ 世界最初の「マークT菱形戦車」  24
技術史上の戦車A 3530輌も生産された「ルノーFT」  26
技術史上の戦車B 革新的だった傾斜装甲の「T‐34」  28
人気戦車BEST10 人気、実力とも1位はやっぱりあの戦車?  30
駆逐戦車とSタンク 「戦車」として使われればそれは「戦車」  32
戦車砲とミサイル ミサイル戦車が意外と作られない理由  34
戦車の整備 戦車の整備はもはや乗員の手にあまる  36
世界の戦車メーカー 合併・吸収を繰り返しメーカーは減少傾向  38
戦車生産数 突出する軍事大国ロシアのTシリーズ  40
戦車保有数 ここでも群を抜いてトップはT‐55戦車  42
戦車の価格 高騰する傾向の現代ハイテク戦車  44
戦車の乗員 チームワークの発揮が生死の分かれ目  46
ファミリー車両 今や常識の「バリエーション展開」  48
システム砲塔 砲塔ビジネスは花盛り  50
無人車両 危険なところは機械に任せろ  52
訓練車両・装置 金と時間を節約する戦車の訓練  54

パート2 戦車・戦闘車両のメカニズム 57
戦車のレイアウト 戦車の内部はこうなっている  58
戦車のサイズ 戦車の大きさはどう決まる?  60
戦車のデザイン すべて「平ら」になった現代の戦車  62
視察装置 近いところは意外と見えない  64
乗員の配置 砲手は右側? 左側?  66
大砲の仕組み 太くて長けりゃ一番いい  68
砲の種類 昔はたくさん、今は少ない大砲の種類  70
戦車砲の分類 ライフル砲から滑腔砲へ  72
戦車砲の未来 140ミリ砲戦車が出現する?  74
戦車の射撃法 射撃の基本は動く、止まる、撃つ、動く  76
初弾命中率 デジタル化で見えない敵も撃破!  78
射撃統制装置 砲の性能だけでは攻撃力は測れない  80
砲弾の構造 薬莢は「不燃ゴミ」から「可燃ゴミ」へ  82
対戦車砲弾@ 弾の力で装甲を撃ち抜く「徹甲弾」  84
対戦車砲弾A 爆発の力で装甲を撃ち抜く「成型炸薬弾」  86
対戦車砲弾B ロケットの力で装甲を撃ち抜く「LOSAT」  88
弾薬搭載数 戦場には一発でも多く持ち込みたい!  90
現代の装甲@ 磁石がつかない装甲もある  92
現代の装甲A 「サンドイッチ」装甲に「爆発」装甲?  94
発煙装置など 鎧がなくても大丈夫、装甲以外の防御法  96
劣化ウラン弾と装甲板 最強だがとっても危険な「矛」と「盾」  98
戦車のエンジン@ 戦車も装甲車も、軽油がお好き  100
戦車のエンジンA 金持ちしか装備できないガスタービンエンジン  102
戦車の燃費 リッター0.5キロ以下の戦車はザラ  104
戦車の操縦 戦車はどうやって曲がる?  106
機動力 戦車は本当にどこでも走れるのか?  108
水上浮航 「プロペラ」「ジェット」を備えたものもある  110
装輪車両の足回り 究極は「8輪駆動・独立懸架・8輪転舵」  112
装軌車両の足回り キャタピラの不思議  114
カモフラージュ 地上の王者の意外な苦労  116

パート3 世界の戦車 119
日本の戦車@ 価格の高さは世界一の「90式戦車」  120
日本の戦車A 国土に合わせた独特の「74式戦車」  122
アメリカの戦車@ バトルプルーフされた最強戦車「M1」  124
アメリカの戦車A 重武装の軽戦車「スティングレー」  126
イギリスの戦車 イランの注文から生まれた「チャレンジャー」  128
イスラエルの戦車 人命第一の「メルカバ戦車」  130
イタリアの戦車@ 「C1アリエテ」に立ちはだかる思わぬ障害  132
イタリアの戦車A 105ミリ砲搭載の装輪戦車「チェンタウロ」  134
韓国の戦車 M1そっくりの「K1戦車」  136
中国の戦車 西側技術の集大成?「96式戦車」  138
ドイツの戦車 ヨーロッパ標準戦車「レオパルト2」  140
フランスの戦車 IT化された三・五世代戦車「ルクレール」  142
ロシアの戦車 名前を変えて再デビューした「T‐90」  144
各国の戦車 こんな国でも国産戦車  146
旧式戦車 先進国も第三世界も「古い革袋に新しい酒」  148
世界の未来戦車 軽量化・ステルス化・IT化が共通項  150

パート4 世界の戦闘車両 153
日本の装軌自走砲@ 貴重な高性能兵器「99式自走155ミリ榴弾砲」  154
日本の装軌自走砲A 高性能を誇った「75式自走155ミリ榴弾砲」  156
アメリカの装軌自走砲@ 今も現役「155ミリ自走榴弾砲M109」  158
アメリカの装軌自走ロケット 面を制圧「MLRS多連装ロケットシステム」  160
イギリスの装軌自走砲 自力開発した「AS90 155ミリ自走榴弾砲」  162
ドイツの装軌自走砲 巨大な「PzH2000 155ミリ自走榴弾砲」  164
ロシアの装軌自走砲 旧ソ連の自信作「152ミリ自走榴弾砲ムスタ」  166
各国の装輪自走砲 装輪式の自走砲は世界の主流となるか  168
日本の装軌装甲車@ 永久に配備中?の高性能「89式装甲戦闘車」  170
日本の装軌装甲車A 歩兵戦闘車になりたかった「73式装甲車」  172
日本の装輪装甲車@ 海外展開向きの装甲ジープ「軽装甲機動車」  174
日本の装輪装甲車A 手頃な価格で配備が進む「96式装輪装甲車」  176
日本の装輪装甲車B 軽快なフットワークの「87式偵察警戒車」  178
日本の装輪装甲車C 自衛隊最初の装輪装甲車「82式指揮通信車」  180
アメリカの装軌装甲車@ 画期的な「AAAV水陸両用強襲車両」  182
アメリカの装軌装甲車A 米軍の主力歩兵戦闘車「M2ブラッドレー」  184
アメリカの装軌装甲車B 装甲兵員輸送車の世界標準「M113」  186
イギリスの装軌装甲車 英軍の主力歩兵戦闘車「ウォリアー」  188
カナダの装輪装甲車 米軍にも採用された「ピラーニャ装輪装甲車」  190
スウェーデンの装軌装甲車 世界最強の歩兵戦闘車「CV90」  192
ドイツの装軌装甲車@ 西側最初の本格的歩兵戦闘車「マルダー1」  194
ドイツの装軌装甲車A 乗用車並みのミニサイズ「ヴィーゼル空挺車両」  196
フランスの装輪装甲車 洗練されたデザインの「VBL装輪装甲車」  198
ロシアの装軌装甲車 世界一強力な武装の歩兵戦闘車「BMP‐3」  200
ロシアの装輪装甲車 最新世代の装輪装甲車「BTR‐90」  202
各国の重装甲兵員輸送車 T‐55から生まれた「アチザリット」「BTR‐T」  204
各国のPKO向け装甲車 あらゆる地形を走破する「パシ」「BV206S」  206
日本の装輪車両 FRPを採用し軽量化した「高機動車」  208
アメリカの装輪車両@ 自動車大国が生んだ多用途車両「ハンヴィー」  210
アメリカの装輪車両A 全輪駆動の働き者「HEMTT」  212
未来の戦闘車両 多目的・ファミリー化が一つの傾向  214

パート5 戦車・戦闘車両
   の使い方、使われ方 217
第一次大戦での使われ方 歩兵といっしょにゆっくり前進  218
第二次大戦での使われ方 戦車の機動力を生かし、歩兵が続く  220
諸兵連合 歩兵・砲兵と組み合わせてこそ効果抜群  222
機甲師団・旅団 300両で師団、ないし100両で旅団を編成  224
戦闘工兵車両の使い方 臼砲やドーザープレートを備えた現代の工兵  226
歩兵戦闘車の使い方 戦車は無敵だが、単独では勝てない  228
対空車両の使い方 「天敵」に対抗するための強い味方  230
対戦車地雷の使い方 ますますハイテク化する静かな強敵  232
水陸両用作戦と戦闘車両 高速化・立体化する上陸作戦  234
空挺作戦と戦闘車両 サイズに制限のある「空挺戦車」  236
機動防御戦 守るときにも頼りになる戦車部隊  238
戦車戦の将来 再び「最強の支援兵器」の座にもどる…  240
自走砲の使われ方 ハイテク時代に生きるフットワーク  242
装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車 戦車の肩代わりもする「歩兵戦闘車」  244
偵察車両の仕事 攻撃でも防御でも偵察は必須  246
戦車回収車 戦車の巨体が動けなくなったら?  248
タンク・トランスポーター 遠出は列車か専用トレーラーで  250
戦術機動トラック 戦争は全て「持ち出し」に依存する  252 [コラム]戦車・戦闘車両の名前の由来(人物編)  56
 [コラム]戦車・戦闘車両の名前の由来(動物編)  118
 [コラム]戦車・戦闘車両の名前の由来(植物その他編)  152
 [コラム]戦車・戦闘車両の名前の由来(年号、記号編)  216
あとがき  254