著者まえがき
本書は、英ジェーンズ社の初版“NORTH KOREAN SPECIAL FORCES”(Joseph S. Bermudez Jr.著 1988年刊)の部分改訂版から出発したが、第2版とはいえ、最終的には初版の内容の一部を引き継いだにとどまり、まったく新しい出版と思われるほど、内容が一新された。
第2版は初版と同様に、北朝鮮軍の総合研究が主題でなく、その中でも世界最大規模の恐るべき特殊部隊を対象にしている。このため本来、きわめて少ない公開情報を苦労して収集し、整理要約した。
北朝鮮軍およびエリート部隊といわれる特殊部隊の本質、とくに秘密性から情報資料の確度が常に問題であり、したがって本書にも不確実な部分があるのは否めない。
当然のことながら興味本位で動き回る集団が意図的に集めた材料には偽情報が含まれている。とくに「たぶん」、「おそらく」、「見積」、「信じられている」および「明らかに」と付言する情報資料は信憑性に欠ける場合が多い。
筆者も信頼すべき情報が乏しいことから、特殊部隊の半島における活動能力の過大評価および、その世界規模の能力(とくに対外軍事援助分野およびテロ)の過小評価の過ちを犯している。一方、北朝鮮は、開発途上国における戦闘行動への関与の可能性が増大するに伴い、潜在的な敵もまた増える傾向にある。
本書は、韓国軍、米軍等を「敵」と見なす北朝鮮側の表現を用いている。
なお、紙面の制約上、北朝鮮軍の全般的事項(歴史、戦術、編成、装備等)は記述の対象からやむなく除外した。
最後に本書も一般の出版物と同様に多くの知人および組織の協力と支援を得て初めて実現することができたことを申し添えて置きたい。
訳注:日本語版は原則として「朝鮮民主主義人民共和国」を「北朝鮮」、「祖国解放戦争」を「朝鮮戦争」、「朝鮮人民軍」を「北朝鮮軍」と呼び、非武装地帯をDMZ、軍事境界線(休戦線)をMDLと略称した。なお、一般の理解を容易にするために「両用戦」(アンフィビヤス)を「上陸」、陸上自衛隊特科用語の「火力運用」を「火力支援」、「総参謀部(原語)」を「参謀本部(軍事一般用語)」と呼ぶようにした。目 次
著者まえがき
第1章 特殊部隊の全体像……………………… 9
―任務・能力・組織機構・活動―
特殊部隊の任務と能力 11
特殊部隊の指揮統制 12
特殊部隊の兵力・組織・配置 14
特殊部隊の浸透行動 14
特殊部隊の運用 15
要 約 18
第2章 北朝鮮軍の歴史…………………………… 19
―1939年〜61年:創設・朝鮮戦争・戦後の再建―
延安派(ヨアンパ) 20
甲山派(カプサンパ)と金日成 21
金日成の若年期(1910〜41年)/第88独立特殊狙撃旅団(1941
〜45年)/金日成帰国後の権力掌握と建国(1945〜48年)
江東政治学院 24
北朝鮮軍の創設 25
パルチザン戦対ゲリラ戦 26
朝鮮戦争前のゲリラ活動 28
朝鮮戦争(1950〜53年) 32
開戦(1950年6〜9月)/仁川上陸から停戦まで(1950年9月〜
1953年7月)/不正規戦能力
朝鮮戦争後の権力闘争と再編成(1953〜61年) 56
第3章 対南ゲリラ戦 ………………………………… 63
―1962年〜68年―
パルチザン派の抬頭 63
対南革命工作を策謀 66
特殊戦組織の発展(1962〜68年) 68
南朝鮮総局/社会安全省/偵察局/特殊戦用一般部隊
1968年1月の青瓦台襲撃と同時期の各種活動 79
東海岸における浸透行動(1968年10〜12月) 81
アジア、アフリカ、中南米の人民との連帯 84
第4章 第8特殊軍団 …………………………………… 85
―1969年〜89年―
退潮気味の対南非公然活動 88
軍事教義の改善 89
組織の発展(1969〜82年) 90
SICARO(対南活動担当書記局)/社会安全省、国家安全保衛
部/偵察局/第8特殊軍団
対南作戦行動 107
金仲麟の失脚および復権 111
情報組織の発展(1982〜89年) 111
SICARO(対南活動担当書記局)/偵察局/第8特殊軍団
対南作戦の活発化(1983年) 122
ラングーン爆破事件 124
オリンピック妨害工作 127
大韓航空858便爆破事件 128
対外軍事援助および国際テロリズムへの支援(1969〜89年)130
モザンビーク/ジンバブエ
第5章 軽歩兵訓練指導局…………………… 136
―1990年〜現在―
情報機構などの再編成 138
国防委員会の創設/国家情報委員会/CCSKA(南朝鮮問題担当中
央委員会書記局)/偵察局/軽歩兵訓練指導局/国家安全保衛部、
社会安全省
対外軍事援助および国際テロリズムへの支援(1990年〜現在) 148
特殊活動/扶餘(プヨ)事件(1995年10月)/江陵(カンヌン)
事件(1996年9月)
第6章 特殊部隊の現況 ………………………… 156
指揮統制機構 156
人民武力省/CCSKA(南朝鮮問題担当中央委員会書記局)/調整
機構
軽歩兵訓練指導局 158
任務/組織機構
軽歩兵旅団・大隊 159
任務/指揮統制/編成・装備/攻勢作戦間の行動/防勢作戦間の
行動
空挺旅団、空挺狙撃旅団 166
任務/指揮統制/編成装備/空挺作戦の教義/空挺部隊の空中機
動能力/攻勢作戦間の行動/防勢作戦間の行動
海軍上陸狙撃旅団 178
上陸狙撃旅団の任務/指揮統制/編成装備/上陸戦の教義/海上
輸送能力/上陸行動/狙撃・特殊戦上陸/攻勢作戦間の行動/防
勢作戦間の行動/全世界行動
偵察局狙撃旅団 189
任務/指揮統制/編成装備/半島内部の行動/全世界行動
第7章 人事政策および教育訓練 … 195
人事政策 195
偵察局およびSICAROの各要員(1971年)/SICARO要員(1977
年)
教育訓練 199
新隊員訓練/部隊訓練/歩兵部隊の訓練/偵察局およびSICARO
の各訓練(1966〜77年)/SICARO(対南活動担当書記局)/特
殊部隊訓練の現状/第38空挺旅団(1990年代)
緊急時に自害を強要する鉄則 215
兵站(後方支援) 216
制服・階級章 216
第8章 特殊部隊の戦術戦法 …………… 218
―1960年代〜70年代―
伏撃と本格攻撃の戦術 218
伏撃戦法/敵兵舎地区の攻撃要領/師団司令部などの攻撃要領/
敵航空基地の攻撃要領/韓国自治体施設の攻撃要領
徒歩偵察基地の行動および戦術 221
浸透行動の戦術 222
海上浸透/DMZ正面からの浸透/日本から韓国への浸透要領
付録 DMZ(非武装地帯)の地下トンネル…… 226
DMZ成立の経緯 226
DMZの地下トンネル 230
引用および情報源 235
訳者解説 265
初版から第2版まで10年間の北朝鮮内外の動き 265
特殊部隊と情報組織の近況 266
本書の特色と北朝鮮の戦略戦術の評価 276
索 引 279
|