立ち読み   戻る  

[下巻目次]

 第6章 自衛隊のRMA化計画  287

日米安全保障条約を前提とする自衛隊のRMA化/米軍とは違う自衛隊独自の運用条件/デジタル・データベースの共用/CECと弾道ミサイル防衛/今でも実現可能な陸海空部隊を結ぶCEC/「不審船事件」が露呈した日本の情報認識/フォース・マルチプライアーとしての情報ネットワーク/中期防衛力整備計画/優先すべき分野とネットワーク中心思考への転換

 第7章 RML(兵站補給における革命)  318

「万が一」の補給方式で戦われた湾岸戦争/量から速度を基本とする兵站補給へ/民間会社方式の導入/トータル・アセット・ビジビリティ(TAV)/戦域内JTAVシステム/民間技術の応用/米陸軍のRML計画/米海兵隊のRML/米海軍のRML/コンテナ補給化に伴う問題/新しい時代の事前集積船/戦域高速輸送艦/洋上補給基地構想/巨大飛行船の再来/パラシュート精密投下装置

 第8章 RMAの問題点  352

真の革命ではない?RMA/RMAは実現しない?/判断・決定の迅速化に関する疑問/詳細な情報がもたらす危険性/昨日の軍隊との戦い/特殊作戦部隊とRMA/「非対称型の戦い」とRMA/経費削減とRMA化/単一統合軍の現実性


第2部 非対称型の戦い…………………………………………………………………383

 第9章 RMA型軍隊に対抗するには  384

優勢な相手に対抗する方法/非対称型攻撃法の定義と特性/絶対的優位となった米国/中国の非対称戦略/米国の弱点/『超限戦』構想/既存の枠組みの変化とテロリズム/米軍の対テロ作戦/米本土防衛担当単一軍司令部の新設/ホームランド・セキュリティ/テロリズムへの対抗と組織

 第10章 インフォメーション・ウォーフェア(IW)  418

インフォメーション・オペレーションズ/IWの分類/指揮統制戦:古来より戦いの基本/電子戦と情報基盤戦/心理戦とサイバー戦/ハッカー戦/経済情報戦/国家インフラ防衛組織/インフォメーション・ウォーフェアの特徴/五つのIWレベルと対策/コンピュータ・ネットワーク攻撃(CNA)

 第11章 テロと大量破壊兵器  456

変化したテロの目的/体制側が利用する「テロリスト」の呼称/大量殺戮と破壊を目的としたテロリズム/技術の発達とテロ攻撃兵器/CBRN兵器使用がもたらす効果/核兵器による電磁パルスの影響/テロ組織が関心を示す大量破壊兵器/イラン、イラク、北朝鮮の大量破壊兵器開発/国家以外には難しい核兵器の開発と環境汚染テロ/容易で安価な対RMA手段/CPI(拡散対抗構想)/核兵器による破壊と無害化

 第12章 弾道ミサイルと巡航ミサイルによる脅し  502

湾岸戦争を左右した弾道ミサイル/テポドン1の衝撃/ノドン弾道ミサイルの脅威/民主主義体制と弾道ミサイルの脅し/抑止力としての弾道ミサイル保有の理由/経済からも魅力的な弾道ミサイル輸出/二〇一〇年には米本土をミサイル攻撃できる国が?/米国の全世界ミサイル防衛計画GMD/一時すたれた巡航ミサイル/新世代巡航ミサイルの登場/簡単に射程を延ばせる巡航ミサイル/速くはない? 高性能巡航ミサイル拡散/巡航ミサイル防衛システムの難しさ

 第13章 都市の戦い(市街戦:MOUT)  538

歴史的に多くの事例がある市街戦/人口増大と都市化/市街戦の特徴/市街戦研究の必要性に目覚めた各国軍隊/米海兵隊の市街戦研究/市街戦に効果的な装備/市街戦訓練施設/日本と市街戦

 おわりに 571
 索引 596


おわりに

 二〇世紀の終わりの一〇年間にIT技術が大きく開花し、人類は新しい時代に歩を進め始めた。農業革命時代、産業革命時代に続く、情報革命の時代である。
 技術の発達・変化は連続的で、ある日突然、全く新しい技術が実用化されるということはない。一九九〇年代から始まったIT革命も、その予兆は一九八〇年代から始まっていた。それを看破したソ連の将軍は、戦争においてもその方法に大きな革命が生じるだろうと予測した。皮肉にも、その予測はソ連邦が崩壊することになるその年に、「湾岸戦争」という形で現実のものとなり、RMA(軍事における革命)という概念が生まれた。以後、世界の軍隊はこの革命の波から逃れることはできなくなっている。

 二一世紀の最初の年は、世界の政治と人々の価値観に大きな革命的変化をもたらす事件が起こった。二〇〇一年九月一一日の米国における同時多発テロである。
 この事件は軍事においてもまた、大きな変化をもたらしている。冷戦が終わり、国家間の大規模な軍事的衝突の可能性が減少する一方で、民族や宗教、あるいは言語、経済などの「共同体」による自主独立と安定した繁栄を追及する過程での武力衝突が増大した。このような共同体による武力衝突では、多くの場合テロ攻撃という手段がとられる。さらに特定の世界観を持つ個人や組織により、既存の社会、政治体制の破壊を狙った武力攻撃も増えてきている。それらもテロ攻撃という形をとる場合が多い。
 同時に、軍隊のRMA化の中で経済的、技術的に不利な状態にある国家が、軍事的に対抗する方法の一つとして、テロリズムを用いる可能性も考えられるようになってきた。このテロ攻撃に大量破壊兵器を使用したり、相手の情報インフラを狙うサイバーテロという形をとったりする可能性もあり、「戦争、紛争」の様相は非常に複雑化している。

 RMAは戦いの効率を高める手法であり、国防費の削減につながる可能性もある。しかし、ITを基本とするRMAの理解はなかなか難しく、それがRMA化の最大の難問である。
 それに対抗するための非対称型の戦いも、ITや大量破壊兵器、その運搬手段としてのミサイルなどが絡んでくるために、話が非常に複雑になり、理解を難しくさせている。
 これらの問題に本書が少しでもお役に立てるなら、著者としてそれに優る喜びはない。
 最後に、本書の執筆に当たっての資料整理と準備だけではなく、写真や図版は、妻、裕美子の大変な努力によるものである。本書は彼女の協力なくしてはできなかった。彼女との共著と呼んでも差し支えない。末尾を借りて、裕美子に感謝の意を捧げたいと思う。
 二〇〇二年九月四日


江畑謙介(えばた・けんすけ)
1949年生まれ。上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻。博士後期課程修了。1983年〜2001年英国の防衛専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー』通信員。95年スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)客員研究員。99年より防衛調達審議会議員。2000年より内閣官房「情報セキュリティ専門調査会」委員。著書に『最新・アメリカの軍事力』(講談社現代新書)『安全保障とは何か』(平凡社新書)、『インフォメーション・ウォー』(東洋経済)、『情報テロ』(日経BP社)、『殺さない兵器』(光文社)、『兵器と戦略』(朝日選書)、『2015:世界の紛争予測』(時事通信社)、『使える兵器、使えない兵器 上下』『兵器の常識・非常識 上下』『こうも使える自衛隊の装備』『強い軍隊、弱い軍隊』(共に並木書房)など多数。

これからの戦争・兵器・軍隊 〈下巻〉
―RMAと非対称型の戦い―

2002年9月25日 印刷
2002年10月10日 発行

著 者 江畑謙介