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●下巻目次

パート3 空戦用兵器の基礎知識

見える「見えないステルス爆撃機」/迷彩塗装とシート・フィルム/レーダー電波を戻さない方法/見えなくなる度合いと、目標発見の難しさ/赤外線放出を抑えるために超音速は出せない/現代戦の必需品となった電子妨害装置/今でも有効な妨害手段のチャフ/照明弾とは違う赤外線妨害装置/平時の活動が大切な電波情報収集機―ELINT機/コミント、シギント、テリント/軍用機が最初に使われた航空偵察と偵察機、観測機/実戦で数が必要な偵察機/無敵の偵察機SR‐71/パイロットが嫌って進歩が遅れた無人偵察機/米国の新しい無人偵察機計画/人道上の問題だけでない戦闘捜索救難/戦闘捜索救難用の各種航空機/日航ジャンボ機墜落事故では飛べなかった自衛隊の救助ヘリ/固定翼機と回転翼機/「ボンバー」ではない爆撃機/消えた「戦略爆撃機」の呼称/消えた中型爆撃機、軽爆撃機/海軍で明確に区分された攻撃機/米海軍と米空軍の攻撃機/米国が採用した英国生まれのハリアーV/STOL攻撃機/不安定な?ハリアー/単発か双発か/「戦闘攻撃機」F/A‐18ホーネット/難しい多目的機/中小空軍に好まれる多目的戦闘機/迎撃戦闘機と要撃戦闘機/旧式化した戦闘機が転用された戦闘爆撃機/航空自衛隊用F‐4EJ戦闘機の「爆撃装置」問答/「支援戦闘機」と軽攻撃機/回転翼機と固定翼機があるガンシップ/旅客機からの改造が多い対潜哨戒機 対潜哨戒機の廉価版である洋上哨戒機/単なる空中レーダー・ステーション以上の早期警戒管制機(AWACS)/技術的に大変な上空から下のレーダー監視/日本が買ったE‐767/地表を監視するE‐8ジョイントSTARS/旅客機を改造してもできる空中給油機/二種類ある空中給油の方式/搭載量を増やせる空中給油/幻想に過ぎない防空戦闘の効率化/戦闘における空中給油の価値/空中給油受油装置を一度外してまた付けたF‐4EJ/大きいほど使える輸送機/大きければよいというものではない輸送機/用途で使い分ける輸送機

パート4 ミサイルの基礎知識

「ミサイルは恐ろしい」?/ロケット弾とレーザー誘導爆弾との違い/パッシブ誘導方式とアクティブ誘導方式/命中精度が悪い慣性誘導方式/星を探して飛ぶ、古くて新しい誘導方式/偵察衛星が必要な、弾道ミサイルのレーダー終端誘導装置/意外に使いにくい巡航ミサイルの誘導装置/当事者も予想しなかった広範囲なGPSの応用/戦時でも止められないGPSの信号電波/動く目標を攻撃するのに必要な終端誘導装置/実戦で撃沈されて初めて気づいた対艦ミサイルの威力/目標がどこにいるのか探すのが大変/超低空を突進する/対艦ミサイルの防御方法―ハード・キルとソフト・キル/チャフとフレアによる防御/迎撃チャンスが少ない対艦ミサイル迎撃ミサイル/最後の砦である対艦ミサイル迎撃用機関砲/太陽に眩惑された毒蛇/なかなか実用化できなかったアクティブ誘導の空対空ミサイル/空対空ミサイルを振り切るのは難しい/迎撃チャンスが限られる赤外線誘導地対空ミサイル/地対空ミサイルの届く距離と有効射程は違う/有効射程が長ければよいというものではない地対空ミサイル/パトリオットと複数同時迎撃機能/地対空ミサイルには自爆装置が付いている/空対地ミサイルには使えないレーダー誘導方式/自律性がある映像式終端誘導装置/レーザー誘導爆弾の原理/演習と実戦では違うコマンド型誘導方式/誘導員の負担を軽減した半自動誘導ミサイル/目標が隠れてしまうとお手上げの画像認識型誘導方式/真上を狙うミサイル/ミサイルに使われる推進装置/軍用ミサイルには適さない液体燃料ロケット/ICBMには使えない日本のH‐2ロケット/液体燃料、固体燃料を併用したソ連の大型ミサイル/一万キロ飛んで半径一八〇メートルの円内に―CEPの意味/MRV、MIRV、MaRV/自分の防衛手段で自分が傷つくABM/スターウオーズ計画/SDIからG‐Palsへ/G‐PalsからTMDへ/命中しなかった?「パトリオット」/「弾頭の無力化」ということ/直接衝突方式を採用したPAC‐3とTHAAD/イージス・システムを応用する海軍TBMD/日本に売り込まれている海軍TMD/弾道ミサイル側に有利な、盾と矛の技術競争/レーザーでミサイルを叩き落とすABL構想/日本にとっては戦略防衛システム/早期警戒情報の問題/日本国民の総意で採否を決しなければならないシステム

索 引


●おわりに

 朝雲新聞社から、毎年「自衛隊装備年鑑」という本が発行されている。手に取ると相当に厚い本で、陸海空三自衛隊が保有している装備の写真と簡単な解説が載っている。
 この本をパラパラとめくっただけでも、現代の軍隊がいかにいろいろな兵器(自衛隊では「兵器」はなく、すべて「武器」であるが)と、それ以外の装備を持っているかに驚かれるだろう。しかも、この本に掲載されているのは自衛隊の武器、装備のすべてではない。例えば魚雷や機雷などは各々の型の写真、解説ではなく、まとめて制式記号が書かれてあるだけである。ましてや制服や軍手など、個人装備用品はほとんど掲載されていない。米国防総省は一五万以上の取り引き相手を持ち、一五〇万以上のレシートを受け取る「世界最大の会社」である。日本の防衛庁でも、毎年の装備調達費として八〇〇〇〜九〇〇〇億円も支出している。

 これらのすべての装備についての十分な知識がない限り、正しい防衛論議はできないとは言わない。しかし、一見「無害」なように見える通信機が、現在の軍事では極めて重大な意味を持っている。古来より通信は軍事作戦の基本であって、偵察員からの情報や指揮官からの命令が届かなければ戦いはできない。現在の通信システムがどのような構成と機能を持ち、どんな性能があるのか、例えば画像を伝達できるのか、それとも文字しか送れないのか、暗号はどうなっているのかをある程度理解しないと、本当の兵器の装備と運用についての議論はできないだろう。
 そんなに難しい知識は必要としない。射程二〇〇キロの対艦ミサイルといっても、水平線までの距離がせいぜい四〇キロで、その先は地球の丸みの陰に隠れて見えないのだから、水平線はるか向こうの遠方にいる目標を探し出せる偵察システムと、その位置と勢力に関する情報をリアルタイムで伝達できる情報通信システムがない限り、射程二〇〇キロの対艦ミサイルを何百発持っていてもほとんど意味がないという点を理解できればよい。
 そのような偵察/情報伝達システムを伴わない、射程二〇〇キロの対艦ミサイルの調達装備は意味がないという議論がなされるなら、防衛装備の計画は非常に現実的で役に立つものとなり、実際には使えもしない兵器を装備するなどという税金の無駄遣いも避けることができるだろう
 逆に言えば、他の国がこのような偵察/情報伝達システムを持たないままで、長い射程の対艦ミサイルを何百発も保有しようとも、さして怖がるには当たらないという話になる。それは実力が伴わない張り子の虎たる兵器によっては脅されることがないという、防衛、あるいは安全保障上の正しい判断ができる状態となる。
 我々はともすれば、射程がどうだの、最高速度がいくつだの、弾頭の破壊力がどのくらいといった「直接破壊兵器」の性能だけに目を奪われがちである。確かにこれらの兵器がなければ破壊は起こらない。だがそれだけでは使いこなせないという事実も知るべきであろう。

 これは兵器の性能だけではなく、実際にどう使われるのかという知識も必要とされる点を意味する。むしろ兵器はどのように使われるために生み出されるかという本質から理解する必要がある。
 この本質さえつかんでおくなら、ある戦闘機の最大速度がマッハ二・一か、それとも二・二かの差は問題ではないし、あるミサイルの射程が一五〇キロだったか、一六〇キロだったか忘れたところでどうということはない。どうして音速の二倍が出る戦闘機が必要で(あるいは、戦闘機が音速の二倍を出さねばならないのか)、一〇〇キロを上回る射程のミサイルが造られているのかを理解する方が重要である。
 本書がそのすべての疑問に答え、あらゆる本質を論じているわけではない。現実問題として、膨大な種類がある現在の兵器の、あらゆる分野にわたって、そのそれぞれについて分かりやすく、あらゆる本質を説明するのは紙数の面からも、また著者本人の力量からも不可能である。そのため、現在の兵器の基本的なもの、それも残念ながらほとんどは、破壊を直接行なうためのいわゆる「兵器」に絞らざるを得なかった。
 また紙数の制約から、現在、そして今後の兵器において重要な地位を占めるはずの偵察衛星を始めとする宇宙兵器や、冷戦後さらに大きな問題となった核・化学・生物兵器、そして微小機械兵器やロボット兵器、あるいは非致死性兵器といった分野まで筆を進めることもかなわなかった。
 それでも、本書がなんらかの形で、実のある兵器装備論議が行なわれる役に立つのであれば、著者としてこれに勝る喜びはない。

 最後に、私事に関することで恐縮の至りではあるが、本書の執筆に用いた資料の整理、図版の準備などにおいては、妻の裕美子の助力によるところが大きい。その意味では本書は妻との合作である。末尾を借りて彼女に感謝の意を表したいと思う。

●江畑謙介(えばた・けんすけ)
1949年生まれ。上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了。現在、英国の防衛専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員。著書に『兵器と戦略』(朝日選書)、『ロシア・迷走する技術帝国』(NTT出版)、『兵器マフィア』『殺さない兵器』(光文社)、『中国が空母を持つ日』『日本が軍事大国になる日』(徳間書店)、『世界軍事ウオッチング』(時事通信社)、『インフォメーション・ウォー』(東洋経済)、『日本の安全保障』(講談社現代新書)、『情報テロ』(日経BP社)、『使える兵器、使えない兵器 上下』『兵器の常識・非常識 上下』『こうも使える自衛隊の装備』(共に並木書房)他多数。