DaaS(DDoS as a Service)
闇サイト上で金銭と引き換えにDDoS攻撃を代行する不正サービス。同様にランサムウェア攻撃をサービスとして提供するRaaS(Ransomware as a Service)などの存在も確認されている。
⇒DDoS攻撃、ランサムウェア
Mirai(ミライ)
MiraiはDDoS攻撃を行うマルウェアだが、これまでのDDoS攻撃とはけた違いにデータ通信量が多くて大規模なのが特徴。家庭用ルーターといった家庭内のオンライン機器(IoTデバイス)を主要なターゲットとしている。2016年9月、米国のセキュリティ専門家のブログにより、その存在が明らかになったMiraiは、翌10月にはTwitter、AmazonやNETFLIX、PayPalなど大規模で著名Webサービスを次々とアクセス困難な状況に陥れた。その被害規模は大きく、約50万台の各種端末が乗っ取られたとされている。
⇒DDoS攻撃、マルウェア
NATOサイバー防衛協力センター
(NATO CCDCOE:Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence)
2008年5月、エストニア政府により提唱され設立。その使命は、技術、戦略、運用、法律の分野をカバーするサイバー防衛研究、訓練、演習の分野などで独自の学際的な専門知識により加盟国およびNATOを支援すること。NATO以外の国もすでに参加している。2022年3月にはウクライナも貢献国待遇で参加。
同センター設立のきっかけは、2007年4月エストニアが受けた大規模なサイバー攻撃。当時もサイバー先進国として知られていたエストニアだが、政府、金融、通信、報道機関などの重要施設やインフラが一斉にサイバー攻撃を受け、国家機能や国民の生活が麻痺した。この教訓を活かし、サイバー防衛を研究、訓練するセンターの設立をエストニア政府が提唱。
同センターは、サイバー戦に適用される国際法について研究したタリン・マニュアルを発表したことでも知られる。
⇒タリン・マニュアル
NATO戦略的コミュニケーションセンター
(NATO Strategic Communications Centre of Excellence)
2014年1月ラトビアのリガに設立されたNATOの外郭組織。国家などの外国勢力による世論操作や選挙介入の実態や、サイバー空間でのフェイクニュースなどへの対策を研究するNATOの中核的研究拠点。NATO本部や加盟国などに対し政策提言や訓練を実施。
NATO加盟国の政府、軍、学会、民間からの研究員が常駐している。センターは、2014年にラトビア、エストニア、ドイツ、イタリア、リトアニア、ポーランド、イギリスによって設立。16年オランダとフィンランド、17年にスウェーデン、18年にカナダ、19年にスロバキア、20年にデンマーク、アメリカ、21年にハンガリーがそれぞれ加盟。フランスとオーストラリアが加盟プロセスを開始。
ラトビア政府の提唱で生まれたが、そのきっかけは2012年に行われたラトビアの国民投票である。その国民投票は、ロシア語を第二公用語にする憲法改正の是非が争点だった。その結果は圧倒的多数で否決された。そもそもラトビアでは、ロシアは不人気なのに、なぜ国民投票を実施しなければならない状況になったかを分析する過程で、ロシアがメディア操作をして政治プロセスに影響を与えたと考えられたことである。
OSC/OSE(Open Source Center/Open Source Enterprise:アメリカ)
OSCはオープンソース(公開情報源)から得られる情報、すなわちニュースの翻訳、分析、報告、ビデオの編集、空間地理情報など2300(2005年時点)を超える大量のプロダクトを毎日作成し、関係機関へ配布している。OSCが提供するトピックは、外国の政治・軍事・経済・科学技術に関するだけでなく、対テロ、核不拡散、対麻薬および国土安全保障に関するものも網羅している。
2005年11月1日、OSCはCIAのFBIS(外国放送情報局)を中核として、DNI直轄の組織として設立された。その後、オシントを一元的に収集して各情報機関に提供する米国政府の情報センターとして機能している。
OSCの各センターの支部は、グローバルに展開されているため、各地から幅広い情報があがり本部で集約される。OSCの運営により、従来は各機関や個人で行っていた公開情報の収集が一括して行われるようになった。そのため、自分の業務に関係のあるオシントを効率的かつ漏らすことなく入手できる。したがって、各分析官は、ネットなどでオシントの収集に充てていた時間を情報分析の業務に充当することができるようになった。
さらに、それらOSCのプロダクトは多くの機関で共有されているため、取り扱いに制約の多い秘密情報を使わずとも情報共有や意見交換が可能となった。このように制度的に軽易に情報共有や意見交換ができることは、情報分析にも多大な相乗効果をもたらしているようである。
なお、2015年10月1日OSCは、OSEに名称を変更しCIAの隷下になった。
【イ】
インターネット・オシントセンター(Internet OSINT Center:日本)
2016年4月、インターネット上に公開されたテロ等関連情報の収集・分析を強化するため警察庁警備局に設置された組織。国際テロ情勢やサイバー攻撃情勢など、我が国を取り巻く警備情勢が厳しさを増すなか、テロ対策やサイバー攻撃対策等警備諸対策におけるインターネット上の情報収集・分析の重要性がこれまで以上に増してきたことが背景にある。
インターネット・ミーム(Internet meme)
ミーム(meme)とは、イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスによる英語のgene(遺伝子)とギリシャ語のmimeme(模倣)を組み合わせた造語。模倣によって人から人へと伝達し、増殖していく文化情報。文化の遺伝子の意味。インターネットの発達によりインターネットを通じて人から人へと模倣され拡がっていく文化、行動のこと。たとえば、公共の場所で体を硬直させて死体のような真似をして寝ころぶ写真の投稿(プランキング)や、集団で踊るショートビデオのアップロード(2013年頃流行したハーレムシェイクなど)が挙げられる。
【ウ】
ウォーターゲート事件(Watergate Affair)
1972年6月17日、ワシントンD.C.のウォーターゲート・ビルにある民主党全国委員会本部に共和党関係の人物が盗聴器を仕掛けようと侵入したことに端を発し、その後の裁判、司法妨害、証拠隠滅、事件報道、上院特別調査委員会の調査、録音テープの提出、特別検察官解任、大統領弾劾発議、ニクソン大統領辞任までを総称した事件。
ウォーターゲート・ビルに侵入した犯行グループは現場で逮捕されたが、ニクソン大統領再選委員会ならびに大統領側近がこの計画に関与していたことが明らかになったために重大な政治問題となった。裁判の過程で、ホワイトハウスのもみ消し工作、さらには以前から政敵に対して行ってきた不法な情報活動も明るみに出された。ニクソン大統領は自らの潔白を証明するため、執務室の会話と電話のやり取りを記録したテープを提出したが、その内容がかえって疑惑を深めた。こうして大統領に対する証拠提出要求をめぐって大統領と議会との対立が深まり、下院司法委員会が大統領の弾劾を可決するにいたったため、ついにニクソンは1974年8月9日、米国史上初めて大統領を辞任した。
この事件により、アメリカ国民による大統領職への信頼の念が失われた。また、ウォーターゲート・ビルに侵入して逮捕された者の中には、元CIA工作員ジェームズ・マッコード、ゴードン・リディ、ハワード・ハントもいたため、CIAの信頼も大きく損なわれた。
⇒CIA
【エ】
エージェント(agent)
通常外国籍で情報機関とは直接雇用関係がなく、機関の指示によって秘密裏に情報の収集、あるいは防諜活動、またはその手助けをしたり、その他の工作活動を行う人。
【オ】
欧州ハイブリッド脅威対策センター
(The European Centre of Excellence for Countering Hybrid Threats)
2017年フィンランド政府の提唱でヘルシンキに設立。同センターはEUが主導し、NATO支援の下、フィンランドがホスト国として21年10月に誕生。センターの予算の半分はホスト国のフィンランドが負担し、残りの半分は他の参加国が支払う。センターは、すべてのEUおよびNATO諸国に開かれており、参加国の数は発足当初は9カ国だったが、現在は31カ国にまで拡大(2022年4月HP閲覧)。
同センターは、ハイブリッドの脅威*に対抗するための政府全体および社会全体での対応を推進する国際的な自律型のネットワークベース(チーム全体で仕事をこなす)の組織。センターの使命は、ハイブリッドの脅威に対抗するための専門知識とトレーニングを提供することにより、参加国と組織のセキュリティを強化すること。
*ハイブリッド脅威は、地方、地域、国家、または組織レベルでの意思決定に影響を与えることによって、標的を弱体化または害することを目的とする、国家または非国家主体によって行われる活動のこと。
【ク】
クレムリノロジー(Kremlinology)
ソ連(現ロシア)の政府が置かれていたクレムリンにちなむ、ソ連の分析要領につけられた名称。クレムリノロジストはクレムリノロジー研究を専門とする学者、メディアの専門家、評論家などを指す。
冷戦中、アメリカの情報機関は、ソ連についてテキントやヒューミントにより情報収集を行っていた。しかし、テキントには情報収取できる内容に限界があり、ヒューミントについては、必ずしもうまくいっていたとは限らないことが、冷戦後の米議会の報告書などで明らかになっている。したがってそれらを補うため、また秘密情報を得ることができないクレムリノロジストには、公然の情報(オシント)から推論・推理するという手法が使われていた。
たとえば赤の広場で軍事パレードを見ている高官の並ぶ場所が変化したり、プラウダ(「真実」の意、ソ連共産党機関紙、ソ連崩壊後民間紙)やイズベスチヤ(「報道」の意、ソ連政府機関紙、ソ連崩壊後民間紙)で、記事のページの並び、使用される用語が変更されたりするといったことなどを手がかりとして、ソ連内部において、何が起こっているのかを見極めようとした。
また、ソ連では国営放送のテレビやラジオの通常番組が突然中止され、独ソ戦やレーニンを回顧する番組、クラシック音楽に入れ替わった後に、指導者層の死去が正式に報じられることが多かったため、これらの国営放送の視聴も指導者層の動向を知るために重要視された。
特定の記念日や祝日などに、通常は見られないような形で、政策に関する声明が省略されたりすると、これに注目し、意味を見いだそうとしたり、外国からの国賓や実務訪問者などにあてられたホテルやレストラン、その食事のメニュー、専用車の格などの接遇を検討することで、その国または賓客に対してどのくらいの重要度があると考えているかなどを推測した。
これらから派生して、秘密主義的な国家や情報が秘密にされている新製品やイベントなどについて、わずかな手がかりから推測しようとするやり方を、クレムリノロジー的な手法ということもある。
【コ】
工作員(operative)
秘密裏に相手国などの情報の収集、防諜活動、工作活動を行う人。エージェントとほぼ同義的に使うこともある。
誤情報(Misinformation)
事実誤認や過失などの誤り、誤解を招くような内容の情報であるが、意図的に害を加えようとしたものではない。
⇒フェイクニュース
【シ】
主権インターネット法(Sovereign Internet Law:ロシア)
ロシアの国内でインターネットを一元管理するための法律。2019年11月1日施行。ロシアが国外からのサイバー攻撃を受けた際に、グローバルネットワークから遮断し、ロシアにおけるインターネットでの活動の継続を確保することが主目的。
ロシアのインターネットが脅威にさらされた際、通信網の集中管理が連邦通信・IT・マスコミ監督局によって行われること、ロシアのインターネットの安全保障に関する訓練を1年に1回以上実施することなどが規定されている。また通信事業者には、インターネット通信トラフィック(送受信情報)への脅威に対抗したり、禁止されたウェブサイトへのアクセスを制限したりする技術的手段をネットワーク上に設置することが義務付けられた。
【ス】
スパイ(spy)
相手や敵の様子を密かに探って味方に通報すること。また、その人。間諜(かんちょう)。密偵。類義語に「諜報員」「情報機関員」「工作員」「密偵」「間諜」「軍事探偵」「エージェント」「第五列」など。
「工作員」と「スパイ」はどちらも対立する相手のところに潜入して活動する人を指す言葉で、非常によく似た意味だが、活動仕事内容にやや違いが見られる。スパイは、情報収集や機密の盗み出しなど情報収集が専門であり、工作員は、情報収集も行うが、敵対勢力に不利益をもたらす工作活動全般を行う点にある。
また、潜入活動するものを敵味方なく指す言葉が工作員、敵側から自陣に潜入して活動する者をスパイ、自陣から敵側に送り込まれている者をエージェントと立場の違いに区分する場合もある。正兼菊太『防諜の生態』(成武堂、1944年)によれば、当時、スパイは蔑視された呼称であり、次のような記述がある。「スパイとは我が国においては敵性諸国の諜報謀略行為に携わる人間に対し敵性を明瞭ならしめ且つ之を蔑視して呼ぶ名称。したがって味方同志の間では、如何なる国でもスパイなどと呼びはしない。各国とも自国の諜報謀略に服務するものには夫々特定の名称、例えば、特派員、代表者、出張員、支配人、研究員などと名付けている」「敵性諸国の特派員、代表者、出張者、会社員等がその仕事を実施するに当たり使用する人物、いわゆるスパイの手先どもを『共同者』『諜報勤務員』『アゲント(エージェント)』などと呼んでいる」
スプリンターネット(split/splinter+internet=splinternet)
英語のsplit(裂く)またはsplinter(破片)とinternetを組み合わせた造語。本来自由なはずのサイバー空間が、政治や宗教的な理由で、国や地域間で分断されてしまう状態を指す。20世紀に民族国家が乱立したバルカン半島の様子から、ネットのバルカン化と表現されることもある。
【セ】
戦艦ポチョムキン号の反乱
1905年6月、ロシア黒海艦隊の戦艦ポチョムキン号(乗員約750名)で起こった水兵の反乱。反乱は、6月14日昼食に出されたウジのわいた肉入りボルシチに対し、水兵たちが不満を申し立てたところ、それら水兵を士官が命令違反で銃殺しようとしたことがきっかけとして起こった。
ただし、その背景には、同年1月「血の日曜日事件」で民衆を弾圧し、日露戦争を継続するツァーリ(ロシア皇帝)政府に対する不満が兵士の間にも広まっていたこと、さらに、同年5月の対馬沖での日本海海戦におけるバルチック艦隊の壊滅といった戦況のなかで、上官の退廃と横暴に対する水兵たちの不満の高まりがあったことなどがあったとされる。
ポチョムキン号で武装蜂起した水兵は、艦長以下の士官を殺害し、艦を占領して人民委員会の管理下に置いた。その日の深夜、黒海北西岸の最大の商業港オデッサ(オデーサ)に入港、ツァーリに宣戦することにした。このオデッサではその前日、港湾のストライキが起こり、現地司令官が戒厳令を出すという緊迫した状況だった。
港でポチョムキン号を迎えた市民大衆に対し、現地司令官はコサック兵を派遣して無差別に発砲し、多数の死傷者が出た(オデッサ階段の虐殺)。その後ポチョムキン号は1週間にわたり黒海上をさまよった上で、ルーマニアのコンスタンツェ港に入って武装解除され、大部分は亡命した。オデッサの革命運動も鎮圧された。反乱の中心人物は後に捕らえられて処刑された。
なおこの反乱は、1925年に『戦艦ポチョムキン』として映画化されたことでも知られている。
⇒明石元二郎
戦略的コミュニケーション(Strategic Communications)
我が国においては、防衛計画の大綱見直しのための安全保障と防衛力に関する懇談会などにおいて2018年頃から使われるようになったが、明確な定義は今のところない。欧米においても、統一された定義はないが、共通的な部分をまとめると「狙った相手の認識に影響を与え、その行動を特定の方向に誘導することにより、自国の外交、安全保障政策を実現するための行動。その手段として、政府の関係組織間でよく調整されたすべてのコミュニケーション手段を使用する」となろう。
アメリカにおいては、2000年頃から政府がその重要性について着目し、実際に政策として採用され、発展してきた政策概念である。その概念が本格的に研究されるようになったのは、9.11同時多発テロ、アフガニスタン戦争、イラク戦争などの教訓を踏まえた2004年頃からである。
戦略的コミュニケーションの重要性は、NATOにおいて十分認識されている。その研究のため、NATO外郭組織ではあるものの、2014年ラトビア(リガ)にNATO戦略的コミュニケーションセンター(NATO Strategic Communications Centre of Excellence)が発足している。
⇒NATO戦略的コミュニケーションセンター
【タ】
タイガーチーム(Tiger team)
技術的問題や組織的問題を調査し、解決するために割り当てられた専門家グループのこと。1964年の『設計と開発におけるプログラム管理』という論文で、宇宙船の失敗原因を解明するための技術者グループを指す言葉がもとになっている。
1970年アポロ13号の月面着陸ミッション中に機材が故障した際、宇宙船を無事に地球に帰還させるために結成されたチームもタイガーチーム(当初はホワイトチームと呼称)と呼称された。
また、政治的な問題を解決するためのチームも時としてそう呼ばれるようになった。2021年11月、バイデン大統領は、ホワイトハウスの国家安全保障会議に国防総省、国務省、エネルギー省、財務省など関係省庁の担当者を集め、ロシアのウクライナ侵攻抑止を狙った大統領直轄の専門家集団であるタイガーチームを結成した。ロシアによるウクライナ侵攻の兆候を示す機密扱いの情報も積極的に開示することでロシア内部のかく乱を企図。チームは欧州などと協調した外交努力や経済制裁を含む圧力、米軍の展開、大使館の警備体制など幅広いテーマを検討したとされる。軍事的には、ロシアのウクライナへの限定的な武力行使から大規模な侵攻までのシナリオを想定し、侵攻から2週間後までの対応策をまとめたとされている。
【ト】
東方パートナー諸国向け戦略的コミュニケーション対策室
(East StratCom〈Strategic Communication〉Task Force)
2015年3月、同対策室はEUの東方の近隣諸国で拡散されているロシア政府寄りの偽情報(ディスインフォメーション)に対処するべく、欧州対外行動庁(EEAS)内に開設。本部はブリュッセルにある。ロシア語に堪能なコミュニケーションの専門家で編成されたチームが、ロシア政府寄りの偏向的で歪曲され、かつ誤った見解や解釈を提供している情報を世界各地から収集し、ウェブページ(Disinformation Review)上で公開している。
Disinformation Reviewは、毎週木曜日に発行される週刊ニュースレターで、1週間を通じて収集された偽情報の事例全体で観察された主な親ロシア的な偽情報の傾向を要約、最新の偽情報に関するニュースおよび分析を含んでいる。英語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語で利用可能。2015年11月の開始以来、18の言語で数千のケースを収集・反証し、親ロシア(クレムリン)の偽情報の進化を追跡しつつ、データベースに保存するとともに公開している。
⇒戦略的コミュニケーション
【ニ】
偽情報(Disinformation)
個人・組織・集団に危害を加えるために意図的に作成された虚偽の情報。
⇒フェイクニュース
偽旗作戦(にせはたさくせん)(false flag operation)
敵側に誤った認識を与えて、我が望む行動をとらせるための軍事作戦行動。16世紀「海賊」が友好国の(偽)旗を掲げて相手をだまし、商船に近づいていったことが起源だとされている。
たとえば自国の軍や国民が他国やテロリストなどからの武力攻撃を受けたかのように偽装して被害者であると主張する。緊張状態にある国々の国境付近で、いずれかの側から攻撃が行われたように思わせて戦争を誘発させるなどといった行為である。
古くから使われている手法であるが、1964年北ベトナム軍から米艦艇が先に魚雷攻撃を受けたとして、ベトナム戦争が本格化したトンキン湾事件などが事例として挙げられる。
2014年のロシアのウクライナ侵攻や2021年末から2022年初めにかけてのウクライナ情勢をめぐり西側諸国がロシアの行動を非難する用語としても頻繁に使われている。
サイバーセキュリティの領域では、攻撃者が、別の攻撃者が仕掛けたかのような痕跡をわざと残し、防御側による攻撃元の特定をかわすことを指す。
【ノ】
登戸(のぼりと)研究所(旧日本軍)
陸軍登戸研究所あるいは単に登戸研究所という名称は、その所在地である登戸(現・神奈川県川崎市多摩区)からとったもので、部外に正体を隠すための秘匿名であり、陸軍内部において通称そう呼ばれた。正式名称は陸軍科学研究所登戸実験場(1937年)。その後、陸軍科学研究所登戸出張所(1939年)、陸軍技術本部第九研究所(1941年)と名称を変え、最終的には第九陸軍技術研究所(1942年)となった。
登戸研究所の前身は1919年4月、戸山ケ原(現・新宿区百人町)に設置された陸軍科学研究所である。日本陸軍は第1次世界大戦における欧米各国の科学技術の戦争への応用の実態を知り、自前の専門研究機関の設立を図った。
設立時の陸軍科学研究所には2つの課が置かれ、第1課は物理的事項(力学・電磁気学)、第2課は化学的事項(火薬・爆発)が所掌と定められた。1923年には、第1課と第2課が部に昇格し、化学兵器(毒ガス)研究の第3部を加えた組織になった。
1927年4月、陸軍科学研究所の中に「秘密戦資材研究所」、通称「篠田研究所」が設置され、篠田鐐大尉(陸軍士官学校26期・工学博士)が秘密戦に活用する機材、資材の研究と開発に従事した。その後、篠田は一貫して登戸研究所の責任者であり続け、1945年8月の研究所解散時も所長(陸軍中将)であった。
登戸研究所の設立には陸軍中野学校の設立と同様に岩畔豪雄中佐が携わった。陸軍中野学校が1期生と2期生の教育を行っていた1939年1月、軍務局軍事課長に栄転した岩畔大佐(3月に昇任)は、陸軍の兵器行政における大改革を実施し、陸軍省兵器行政本部、陸軍科学研究所をまとめて兵器行政本部を設置し、その下に10の技術研究所を設けた。
その中の第九研究所が通称「登戸研究所」であった。1944年の最盛期には、敷地面積11万坪、建物約100棟、所員約1000人に達していたとされる。
特殊な兵器、機材には風船爆弾、怪力光線(電磁波兵器の一種)、殺人光線(電磁波兵器の一種)、人工落雷発生器などや超小型の特殊無線機、隠し撮り用小型カメラ、紫外線を当てると可視化する特殊インク、缶詰に偽装した高性能爆弾などの他偽札の製造なども行った。
⇒陸軍中野学校、岩畔豪雄
【ハ】
パルチザン(partisan)
イタリア語の partigiano(党員や仲間の意味)からきたフランス語。そこから、転じて、一般的には外国軍や国内の反革命軍に対して自発的に武器をとって戦う正規軍に入っていない遊撃兵のことを指す。また、一部の歴史家は、パルチザンを明確な政治的目標を持ったより組織化された武力抵抗グループとして、ゲリラは小グループで主に個々の戦闘員を指すと区別している。さらに、パルチザンという用語は、主に中央および東ヨーロッパで、ゲリラという用語は南ヨーロッパで好んで使用されるとの解説もある。
パルチザンによる戦いは、20世紀の新しい現象ではなく、すでに18世紀にはあった。初期の頃の有名な事例は、1808?14年のナポレオンのスペイン占領に対する民衆の組織的抵抗運動である。20世紀になるとパルチザン戦争は通常の戦争の一部として、または平時の反乱運動として発展した。1905?06年の第1次ロシア革命の過程で、ボリシェビキが指導する武装襲撃、物資徴発、テロ、サボタージュ(意図的破壊行為、破壊工作)などの諸活動がパルチザン運動と総称された。この頃、法的にもパルチザンも交戦者として認められるようになった。陸戦の法規慣例に関する規則(ハーグ条約1899、1907年)で責任ある指導者を持ち、遠方から認識できる固有の徽章を有し、公然と武器を携行している限り、国際法によって保護されることになっている。
21世紀のパルチザン活動のイメージは、第2次世界大戦中の反ナチス、主に共産主義者による武装抵抗活動によって大部分が形作られている。ベラルーシでも激しいパルチザン活動が行われた。ラトビア、リトアニア、ウクライナ西部では、ドイツの占領軍とソ連の地下組織の両方と戦っていた。また、旧ユーゴスラビアのチトーによる対独抵抗運動は有名である。
⇒レジスタンス
【ヒ】
樋口季一郎(ひぐち・きいちろう 1888?1970)
陸軍軍人。最終階級は陸軍中将。歩兵第41連隊長、第3師団参謀長、ハルビン特務機関長、第9師団長等を経て、第5方面軍司令官兼北部軍管区司令官。ハルビン特務機関長だった1938年、ナチスの迫害を逃れソ連を通過してソ連・満洲国境に逃れながら立ち往生していたユダヤ難民を満洲国に受け入れ、「ヒグチ・ルート」と呼ばれた脱出路を開いた。救出した人数は2万人とされている。この2年後リトアニアのカウナスで杉原千畝(すぎうら・ちうね)が命のビザを発効しユダヤ人を救った。大戦中はアッツ島の戦い、キスカ島撤退作戦を指揮。終戦時、第5方面軍司令官として、千島列島の占守(シュムシュ)島や樺太でソ連軍に対する自衛戦闘を指揮した。
⇒杉原千畝
秘密戦(旧日本軍)
旧日本軍の用語で、戦争には必ず付随するが、歴史に記録されない裏面の戦争(または水面下の戦争)の総称。陸軍中野学校では防諜・諜報・謀略・宣伝に区分していた。
⇒陸軍中野学校、防諜、諜報、謀略、コバート・アクション
【フ】
不良情報/悪意の情報(Malinformation)
秘匿されていた情報をリークする、機微な個人情報を暴露するなど、個人・組織・国家に危害を与えるために利用される事実に基づいているが、悪意をもって広められる情報。
⇒フェイクニュース
【ホ】
ポスト・トゥルース(post-truth)
ポスト真実。世論の形成において、客観的事実よりも、感情的、個人的意見のほうが強い影響力を持つ状況。2016年末に英オックスフォード英語辞典が2016年を象徴する言葉として選出。
2016年は、英国のブレグジットや米国大統領選でのトランプ勝利など、事前の予想を大きく覆す出来事が相次いだ。これらは大手メディアが発信した事実を基にしたニュースよりも、フェイクニュースの方が多くの人の感情を揺るがし、投票行動に影響を与えたなどの指摘があり、英メディアでのポスト・トゥルースの使用頻度が激増。
ホモデジタリス(Homo Digitalis)
インターネットによりつながり、世界的なネットワークを築き、これまでにない大きな影響力を発揮する新しいタイプの個人。
【ミ】
民間情報教育局(CIE:Civil Information and Education Section)
GHQ/SCAP(General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers:連合国最高司令官総司令部)に置かれた一部局。第2次世界大戦後の日本占領下において教育全般・教育関係者の適格審査・各種メディア・芸術・宗教・世論調査・文化財保護等、教育および文化に関し広範囲にわたる諸改革を指導し、監督。
GHQ/SCAPの正式な発足に先立つ1945年9月22日に日本と朝鮮(韓国)の広報、教育、宗教、その他の社会学的問題に関する施策について、最高司令官に助言するために米太平洋陸軍総司令部(GHQ/USAFPAC)の専門部として設置され、同年10月2日にGHQ/SCAPに移管された。その後占領行政の進行に伴う数次の組織改編を経て、占領終了の1952年4月28日に廃止された。
【レ】
レジスタンス(resistance)
レジスタンスとは、「抵抗」を意味するフランス語。特に第2次世界大戦で枢軸国の占領下に置かれた諸国における抵抗運動を指す。それは各地で起こったが、特にフランスでは早くから「レジスタンス」を名乗る組織が現れただけでなく、運動は多様化した。占領下においてのちに「レジスタンス文学」と呼ばれる詩や小説などの作品も生み出された。このレジスタンスは、フランスの解放やその後の思想に大きな役割を果たし影響を与えた。
こうしてレジスタンスというフランス語は、諸国の抵抗運動を網羅する言葉として広がっていった。フランスでは、在ロンドンのドゴール将軍による「自由フランス運動」とフランス国内におけるストライキ、サボタージュ、ナチス将兵の暗殺、ドイツ軍施設破壊などの地下活動とが、協力と対立をはらみながら発展した。その他デンマーク、ノルウェー、オランダ、イタリア、ドイツなどでもレジスタンスが行われた。同様の抵抗運動でも、強力な軍事抵抗はパルチザンと呼ばれることが多い。したがって、レジスタンスは幅広い抵抗運動全般を指し、パルチザンはその中でも武装され軍事的に組織化された抵抗運動だということができよう。
⇒パルチザン
【インテリジェンス用語事典追加項目】 2024.3.5
APM(Advanced Persistent Manipulator)
高度永続操作者。悪意あるサイバー攻撃者。
APM攻撃
標的組織のネットワークに長期間侵入し、情報を盗み出すことを目的とする。攻撃者は侵入後、標的ネットワーク内に存続し、データを盗み続けるため、高度なテクニックやツールを使用する。
APT(Advanced Persistent Threats)
主に組織や集団が、特定の組織や企業に対して、さまざまな手段を用いて行なう高度で持続的なサイバー脅威。
FISU
ウクライナ対外情報庁。外国の政治、経済、軍事技術、科学技術、情報分野などにおける諜報活動ならびに国際組織犯罪、テロ対策に従事。
FSB
ロシア連邦保安庁
GRU
ロシア連邦軍参謀本部情報総局
GUR
ウクライナ国防省情報総局(MDI・HURなど複数の通称あり)。ソ連のGRUのウクライナにおける後継機関で、主に軍事情報を収集。
KGB
ソ連国家保安委員会
MICE(マイス)
人が裏切る際の主要な動機を表す頭文字。金(Money)、イデオロギー(Ideology)、妥協(Compromise)、エゴ(Ego)をMICEと呼ぶ。情報機関などでは敵対勢力のスパイに取り込まれないよう、この四つに注意を払っている。
NATO DEEP(Defense Education Enhancement Program)
NATO内で訓練と教育、あるいは教員育成、カリキュラム開発、制度構築への共通アプローチの開発に専従する組織。2007年にパートナー諸国のそれぞれの環境下で知識、スキル、経験を提供することを目的として発足。現在、16か国で活動を展開。NATOの価値をさらに促進し、高等軍事教育システム内でベストプラクティス(特定の目標を達成するための最も効果的で効率的な方法や手法)を共有することを目指している。NATO DEEPアカデミー(NATO DEEP eAcademy )は、NATO DEEPプログラムの分野で教育とトレーニングを提供。民間人および軍関係者の間で NATOの価値観に対する共通の理解を促進し、専用のイベントを通じてさまざまな問題に関連するベストプラクティスを特定し、広めることを目的としている。
PR(Public Relations)
組織などが大衆に対してイメージや事業について伝播したり理解を得たりする活動を指す。わが国では、PRを広告、広報、宣伝と同一視することもある。米軍ではPRの代わりにPA(Public Affairs)と呼称している。
SBU
ウクライナ保安庁。ソ連時代のKGBのウクライナにおける後継機関
SIS
英秘密情報部。通称MI6(エムアイシックス)
SVR
ロシア対外諜報庁
影響工作(Influence operation)
情報を使って政治や社会に影響を与える活動。インターネット空間も活用し、フェイクニュースなどを使った情報操作、世論操作、選挙への影響画策、国家の分断・弱体・不安定化を企図する活動。敵の意思決定に影響を与えることを目的とした活動であり、ハイブリッド戦争においても重要な役割を果たしている。影響工作によって、敵国内の政治的、経済的、社会的状況を変えたり、敵国内に不和をあおることで、敵の動きを封じたり、自国の利益に沿うように誘導することができる。
エコーチェンバー現象
エコーチェンバーとは、反響室、残響室という意味で、音楽の録音などのため反響をよくした部屋で音が発せられるといつまでも音の反響が続き、最初に発せられた音が長時間残る。これと同様にエコーチェンバー現象はネット空間で発せられた極端な意見や誤情報がいつまでも存続し、強化される様子を表現したもの。
脅威アクター
データセキュリティに影響を与える可能性のある内部または外部の攻撃者のこと。直接的なデータ窃取、フィッシング、脆弱性の悪用によるシステム侵害、マルウェアの作成などを行なう。
クイッシング(Quishing)(QRコードフィッシング)
QRコードとフィッシングつなげた造語。クイッシングでは、QRコードに埋め込んだ悪性Webサイトにユーザーを誘導することで、マルウェアの配信や個人情報・クレジットカード情報等の窃取を行う。
従来のフィッシング攻撃の場合、メールやSMSの本文中にアクセス先のURLが記載されているため、あやしいURLかどうかをある程度目で見て確認することができた。しかし、QRコードの場合は、見た目ではリンク先のURLがあやしいかどうかを判別することができない。判別には、実際にそのQRコードを読み取り解析する必要があるため、導入しているセキュリティ製品によっては検知できない恐れがある。
広告(advertising)
広告主の名で人々に商品やサービス・考え方などの存在・特徴・便益性などを知らせて人々の理解・納得を獲得し、購買行動に導いたり、広告主の信用を高めたり、特定の主張に対する支持を獲得するなどの目的のために遂行する有料のコミュニケーション活動。そのための制作物を指すこともある。
広報(Public information)
広く(=社会に対して)報じる(=知らせる)という意味であり、組織などが社会に対する情報発信すること。
コバートアクション(covert action)
コバートアクション(秘密工作活動)は、謀略活動、非公然活動などの訳語が当てられることもある。純粋なインテリジェンスの生成プロセスとは関わりがなく、政策執行としての側面が強いことから、インテリジェンスの構成要素から除外する考え方もあるが、その多くは情報機関によって行なわれるため、インテリジェンス活動の一部として認知されている。そのため情報活動の中に、コバートアクションも含まれる。似たような言葉として、積極工作や影響工作がある。また秘密工作活動(covert action)と秘密作戦(secret operation)は秘密裏に行なわれ、形だけ見れば似たような結果になることもあるが、次の点で両者は決定的に異なる。秘密工作活動が計画や実行について、明確に特定の組織などの関与を否定、曖昧にすることを主眼とするのに対し、秘密作戦は少なくとも実行するまでは、その作戦自体を隠すことに主眼が置かれる。したがって、秘密作戦は2011年アメリカが行なったパキスタンにおけるビンラディン殺害作戦のように、作戦の実行前までは秘密だが、実行すれば国家や組織の関与が明らかになっても構わない作戦などを指す。
サイバー戦争
コンピューターネットワーク上で行なわれる戦争。敵性国家が仕掛けたサーバーテロに対する自国の機密情報システムの防護・反撃など、ネット上での攻防戦を指す。サイバー空間は、陸・海・空・宇宙に次ぐ5番目の戦場と認識されている。
ザキストカ
「掃討作戦」などとも訳されるが、民家を1軒ずつ襲って住民を殺害していく戦い方。
シュレーダリジェーション
ノルドストリーム事業の旗振り役として活動し、首相退任後ガスプロムの子会社ノルドストリームAGの役員などに就任したシュレーダー元ドイツ首相をなぞって政財界要人がロシアの手に落ちることを揶揄した造語。
情報戦(Information Warfare)
心理戦、電子戦などを含む、古くからあった概念だが、1990年代半ば頃から米国防総省や米軍においてその重要性が再認識されるようになった。当時の米国防大学のテキストなどでは「情報戦は戦争を遂行するうえでのいくつかの技術の総称であり、その中に指揮統制戦、電子戦、心理戦、サイバー戦、経済情報戦などを含む」としている。NATO DEEPアカデミー(NATO DEEP eAcademy )では「情報戦とは、相手に対して情報面で優位に立つために行なわれる作戦である。情報戦は自国の情報空間を支配し、自国の情報へのアクセスを保護する一方で、相手の情報を入手・利用し、相手の情報システムを破壊し、情報の流れを混乱させることで成立する。情報戦は新しい現象ではないが、技術の発展による情報伝達の高速化・大規模化という革新的な要素を含んでいる」と定義されている。ロシア・ウクライナ戦争においては、従来行なわれていた心理戦、電子戦、宣伝戦などのほかに「技術の発展による伝達の高速化・大規模化という革新的な要素」と表現されるように、個人や組織的にSNSなどを使うことで、詳細な敵の動きをリアルタイムで通報するなど革新的な使い方がされている。
積極工作(active measures)
他国の政策に影響を与えることを目的として、伝統的外交活動と表裏一体で推進され、ディスインフォメーションから暴力活動をともなう活動までの公然・非公然の諸工作。特にソ連(ロシア)で伝統的に行なわれているとされる。
戦略的コミュニケーション(SC:Strategic Communication)
国家戦略を実現するために明確な意図をもって行なう情報発信。
デジタルプラットフォーム(digital platform)
デジタル技術を活用して、ユーザーや事業者、デバイスやアプリケーションなどのさまざまな要素を結びつける「場」を提供するサービスの総称。ECモール(Amazonや楽天市場など)や予約サービス、人材マッチングサービス、シェアリングサービス、フリマサービスなどさまざまな種類がある。
デッドドロップ
スパイなどが情報交換する際の技術の一種。樹木の洞、塀の隙間など、目立たない隠し場所に文書や現金を置いたり、回収したりして、指示、情報、報酬の受け渡しなどを行う手法。相手と直接接触しないので安全な連絡法とされる。ソ連工作員が常用。
『死の網からの脱出−ソ連GRU将校亡命記』によれば、理想的なデッドドロップの場所「@間違いなく一人でいられる。A尾行されていないことが確認できる。B秘密の書類や物を隠しても、通りにいる子供たちや偶然通りがかる人に見つかることがない、と確信できる場所。建築工事が進行中だったり、隠したものがネズミやリス、降雪や降雨でだめになったりすることがあってはならない」とされている。
認知戦(cognitive warfare)
統一された定義は、まだ存在しない。外部の実体(エンティティ)による世論の武器化であり、公共政策や政府の政策に影響を与えるため、または政府の行動や制度を不安定化させるために行なわれる。(2020年NATO戦略文書)。
偽情報により相手の認知(認識)を誤った方向に導き、判断を誤らせる戦い(『情報戦、心理戦、そして認知戦』)。
認知バイアス(cognitive bias)
人がある意思決定をする時に、これまでの経験や先入観によって合理性を欠いた判断を下してしまう心理的な傾向
ハイブリッド戦争(hybrid warfare)
定義にばらつきがあり、特にわが国における一般的な使い方と欧米における使い方には解釈の違いがある。わが国では「ハイブリッド戦争とは、政治目的を達成するために軍事的脅迫とそれ以外のさまざまな手段、つまり正規戦・非正規戦が組み合わされた戦争の手法である。いわゆる軍事的な戦闘に加え、政治、経済、外交、プロパガンダを含む情報、心理戦などのツールのほか、テロや犯罪行為なども公式・非公式に組み合わされて展開される」との理解が主流。IISS(英国際戦略研究所)は、2015年5月19日、世界の武力紛争を分析したアームド・コンフリクト・サーベイ2015(Armed Conflict Survey 2015)で、ロシアが非正規軍を送り込み、クリミア半島を併合した手法を「ハイブリッド戦争」と規定したが、ロシア自身がハイブリッド戦争の概念を作り上げて西側に仕掛けているわけではない。むしろ、ロシアは自らが西側の仕掛けるハイブリッド戦争の犠牲者と考えている。また、古代の戦争においても正規軍と非正規軍は組み合わされて行なわれてきたので、ハイブリッド戦争という概念は決して新しい現象ではないとする意見もある。ヨーロッパでは「この概念は、宣戦布告された戦争の閾値を下回る状況で、特定の目的を達成するために国家または非国家主体が協調的に使用できる強制的および破壊的活動、従来型と非従来型の方法(外交、軍事、経済、技術など)の混合による」としている(欧州委員会「欧州連合におけるハイブリッド脅威に対する戦略」報告書、2016年4月)。このように、日本とヨーロッパとの解釈の大きな違いは、ハイブリッド戦争を平時からグレーゾーンまでの戦い(戦争の閾値を下回る状況)とするのに対し、日本は戦時(有事)も含めている点にある。
ハイマース(HIMARS)
「High Mobility Artillery Rocket System」の略で高機動ロケット砲システム。米陸軍が開発した装輪式自走多連装ロケット砲。MLRS(装軌式の多連装ロケット砲)の小型版として主に米軍の空挺部隊や海兵隊などに配備されている。輸送が容易で、集中的な運用が可能。ロシア・ウクライナ戦争では、戦況を変えるゲームチェンジャーとも呼ばれた。
パスワードスプレー攻撃
IDやパスワードを組み合わせて連続的に攻撃するブルートフォース(総当たり)攻撃の一種。ログイン制御を持つシステムでは、一定期間に一定の回数のログインエラーが起こると、アカウントが一定時間ロックされる仕組みを持つものがあるが、このアカウントロックを回避する手法の一つ。アカウントロックを回避することで、不正なログイン試行を検知されない。
フィルターバブル現象
SNSや検索サイトの最適化アルゴリズムが作るバブル(泡)に囲まれていて、そのバブルで雑多な情報がフィルタリングされることにより、見たい情報ばかりが入ってくる現象。その結果、ほかの情報にアクセスしにくくなり視野が狭くなる。
プロパガンダ(宣伝)
「プロパガンダ」とは、国家などが個人や集団に働きかけることで政治的主義・主張を宣伝し、意図する方向へ世論を誘導・操作する行為。日本語訳では「宣伝」が当てられるが、「宣伝」は商業宣伝を意味することが多い。「宣伝」の原語である「propaganda(プロパガンダ)」には、本来カトリックの教えを広めるという意味があったが、1930年代以降ナチス・ドイツがプロパガンダの名のもとに狂信的な政治宣伝を展開したため、アメリカでは嫌悪される言葉となり、代わりに「PR」が使われるようになった。日本では宣伝に悪いニュアンスはなく、一般的には広告やPRと同じ意味で用いられている。プロパガンダは次の3つに区分されることもある。
ホワイト・プロパガンダ:白色宣伝。確認できる情報源により、事実で構成された宣伝。
グレー・プロパガンダ:灰色宣伝。情報の発信元は公然かつ明確だが、一定の宣伝目的を達成するように情報の不都合な部分を隠して都合のいい部分のみを拡散させる。
ブラック・プロパガンダ:黒色宣伝。嘘や作り事で構成された宣伝。秘密組織などが特別な目的をもって行なう。
マルキロフカ(маскировка)
ロシア語で変装とか偽装の意味から転じて、あらゆる手段を駆使し、真の目的を相手に悟られないようにすること。ソ連時代から存在する情報偽装工作のこと。
目に見えない戦い
間接侵略を目に見えない戦いと呼ぶこともあるが、本書では物理的な破壊行為がなく(ノンキネティック)、目に見えない手段を用いた戦闘や攻撃、またはその準備や支援行為を指す。それらの活動としてはハイブリッド戦争、情報戦、認知戦、サイバー戦、秘密工作活動などの一部や大部分が包含されている。
ワイパー型マルウェア
「データを破壊する」動作をするコンピュータウイルス。ウイルスには感染によってデータを暗号化し、身代金(ランサム)を要求するランサムウェアや、情報を盗み出し外部へ送るスパイウェアなどさまざまなものがある。なかでもデータを破壊するワイパー型マルウェアは非常に対処が困難とされる。
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