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●目 次

鉄道車輛に乗る楽しみ

パート1 おすすめ「列車の旅」

「スーパーおおぞら1号」の旅路 
キハ281系の姉妹車キハ283系/電車並みの加速を誇って出発進行/北海道の背陵部を越えて/沿岸部を走り釧路へ
「こまち1号」の旅路
複雑な東京駅から慌ただしい旅立ち/盛岡までは「やまびこ1号」と併結/最高時速275キロで快走/盛岡から秋田新幹線へ/ラストコースは後ろ向きで
「リゾートしらかみ」の旅路 
日本海の景観を堪能できる五能線/「リゾートしらかみ」の試乗コースは?/改造車とは思えぬ斬新なスタイル/津軽三味線の生演奏は今いずこ/日本海に沈む夕陽を眺める
「あさま551号」の旅路
「長野新幹線」の名称は迷走の末、定着/21世紀を予感させるE2系/30パーミル区間を快走/長野新幹線の代償に消えた路線/浅間山のふもとを抜け長野へ
「のぞみ1号」の旅路
世界最高速の500系「のぞみ」/東海道区間は時速270キロ運転/時速300キロで静かな走り/ギネスブックにも登録
「サンライズ瀬戸」の旅路
時代遅れのブルートレイン/ボリュームたっぷりなフォルム/手にしたきっぷは2階のシングル/超人気のノビノビ座席/岡山で「サンライズ出雲」と分かれ
「フレッシュひたち17号」の旅路 
常磐線100周年記念も兼ねて/21世紀を感じさせるデザイン/室内はビジネスクラスをほうふつ/交直切り替えセクションを通過/常磐線を走り続けてきた「ひたち」/あっという間に勝田に到着
「江ノ電レトロ電車」の旅路 
百貨店の2階から出発/ヨーロッパ調のレトロ電車/座席はセミクロス配置/途中で江ノ電グッズを購入/試乗なら一日乗車券が便利

パート2 注目の新型車輛10選

JR西日本 500系 最高時速300キロで駆ける世界最速列車
JR東日本 E4系 基本8輌編成となった『Max』新バージョン
JR東日本 E3系 秋田新幹線用に開発された新在直通運転用車輌
JR東日本 E2系 長野新幹線用に開発された高性能電車 
JR東日本 E653系 交直流区間で活躍する汎用特急形電車  
JR西日本・JR東海 285系 30年ぶりに誕生した特急形寝台電車 
JR北海道 キハ283系 操舵台車を装備した振り子式気動車 
京浜急行2100形 快速特急で活躍するクロスシート車 
近畿日本鉄道5800系 ロングシートとクロスシートを自動転換 
熊本市交通局9700形 ドイツで開発された低床式のLRV 

パート3 JRの新型車輛

JR東海・JR西日本 700系 東海道・山陽新幹線の次世代車輌 
JR東日本 485系3000番台 「はくたか」「はつかり」用のリニューアル車
JR九州 883系 前面塗色がにぎやかな「ソニック883」4次車
JR四国 N2000系 2000系特急形気動車のバージョンアップ車 
JR北海道 24系25形 オール個室化を達成した「北斗星1・2号」
JR北海道 731系 JR北海道初のデッキなし3扉ロングシート車 
JR北海道 キハ201系 札幌都市圏の輸送改善に誕生した気動車
JR北海道 キハ160形 日高本線用の新製気動車 
JR東日本 701系5000番台 セミクロスで誕生した田沢湖線用701系
JR東日本 キハ110系飯山線用眺望車 非電化ローカル線用に続々誕生する新型気動車 
JR九州 キハ200系豊肥本線・香椎線 非電化線用に増備されている近郊形気動車
JR東日本 485系「華」 特急形電車改造で誕生したお座敷電車 
JR東日本 485系「ニューなのはな」 お座敷とクロスシートの2タイプに変身可能 
JR東日本 キハ48形「リゾートしらかみ」 五能線用のジョイフル・トレイン
JR北海道 キハ400形500番台 急行形キハ400形改造のお座敷気動車
続々登場するトロッコ列車 客車改造から新製車まで 
 JR北海道 新型ノロッコ号 
 JR西日本 奥出雲おろち号用12系客車 
 JR四国 新型しまんと号用キクハ32形 

パート4 私鉄の新型車輛

東武鉄道250系 伊勢崎線の急行「りょうもう」用車輌 
東武鉄道30000系 営団半蔵門線相互乗り入れ対応車輌 
東武鉄道20070系 営団日比谷線相互乗り入れ対応車  
西武鉄道6000系 営団有楽町線相互乗り入れ対応車 
小田急電鉄3100形「ゆめ70」 小田急電鉄開業70周年記念イベント車輌
京浜急行2000形 3扉改造で汎用化された元特急用車輌 
東京都交通局12‐000形 リニア地下鉄の新宿延伸で登場した増備車
名古屋鉄道3100系・3700系 3500系の後継となる標準通勤形電車
京阪電鉄8000系2階建て車輌 特急列車8連化で誕生した2階建て車輌
京阪電鉄9000系 特急から普通まで幅広く活躍する汎用電車
京阪電鉄800系 地下鉄乗り入れ対応の京津線用車輌
叡山電鉄900系 特別料金不要の観光用電車 
山陽電鉄5030系 5000系のマイナーチェンジ車
大阪港トランスポートシステムOTS形 大阪市営中央線と相互乗り入れ
大阪港トランスポートシステムOTS100系 大阪市営新交通システムと相互乗り入れ
関東鉄道キハ2000系 竜ヶ崎線用の新型ワンマンカー
関東鉄道キハ2200系 常総線閑散区間用の新型ワンマンカー
津軽鉄道 津軽21形 「ストーブ列車」で有名な津軽鉄道の新鋭
明知鉄道アケチ10形 イベント対応の新形式気動車
井原鉄道IRT355形 1999年1月開業の新生鉄道
南阿蘇鉄道MT‐3010形 イベント対応のレトロ調軽快気動車
松浦鉄道MR‐400形 輸送力増強をめざして投入された軽快気動車
名古屋鉄道モ780形 軌道線から鉄道線への直通運転用車輌
広島電鉄3950形 宮島線乗り入れ用の3連接車輌
江ノ島電鉄10形 開業95周年で登場した「レトロ電車」
札幌市交通局3300形 アコモ改造でサービスアップを狙う
鹿児島市交通局9700形 9500形と同一仕様の新造車 
東京モノレール2000形 東京モノレール初のVVVF車 
多摩都市モノレール1000形 新しい交通ネットワークをめざす期待の新型車

鉄道用語辞典


●「まえがき」にかえて
 鉄道に乗る楽しみ

 僕は鉄道が大好きだ。
 列車に乗るのはもちろん、駅や沿線で列車を眺めるのもいいし、自宅で時刻表をくくりながらバーチャルトリップなんていうのもいい。模型の鉄道にすら、どっぷり魅了されている。
 もちろん、飛行機やバス、自動車、そしてフェリーなどをまったく使わないわけではない。それらの交通機関が持っているメリットも認め、時と場合に応じて使い分けているつもりである。しかし、同じ条件での選択となると、やはり鉄道になってしまう。

 例えば今、この文章は「のぞみ15号」の車内で書いている。広島での仕事を終え、博多に向かう途中だ。普段ならのんびり車窓を楽しむところだが、日照時間の短い12月では、すでに日も落ちている。博多までの約1時間を有効活用しようというわけだ。
 取材旅行となると、大概、小型のワープロ(現在はNECのモバイルギア/MC‐MK22)を携帯しているが、新幹線ならその時間をフルに使える。もしもこれが飛行機となると、シートベルト着用サイン点灯中は電子機器の使用が制限され、1時間のフライトでも長くて30分しか使えない。
 まあ、これは実務的な面での鉄道のメリットだが、本当はもっと心情的なところに魅力を感じている。

 1997年11月29日、仕事で岡山にいた。この日、JRグループのダイヤ改正があり、岡山〜鳥取間に新設された特急「いなば」を取材していたのである。
 昼前の11時には予定通り仕事も終わり、後は帰るだけとなった。しかし、ちょっとした目論見があり、3時間後の14時12分発「のぞみ18号」の指定券を購入した。実はこのダイヤ改正から500系「のぞみ」が東京まで3往復足を伸ばすようになり、18号は貴重なその1本だったのである。
 すでに500系「のぞみ」は、この年の春から新大阪〜博多間で走り始めていたが、残念ながら乗るチャンスがなかった。500系への初乗りという意味もあり、3時間の待ち時間などあっという間だ。
 やがて翼のないジェット機のような丸い車体が岡山駅に滑り込んできた。
 趣味誌の報道やテレビコマーシャルなどで旧知の車輌にも思えるが、やはり実物は違う。身体に感じる車輌の動きや加速度、新車独特の臭いなど、五感をフルに使って500系「のぞみ」を堪能する。
 目をつぶって座席に身を預ければ、進化する鉄道のまさに最先端の列車に乗っていることを実感する。そして、いつしか500系「のぞみ」の素晴らしさは、まるで我がことのように誇らしい気分になってくるのだ。

 普段の旅では、どちらかといえば、ローカル指向が強い。新幹線より在来線特急、さらには急行、普通と、ゆっくり進めば進むほど、鉄道の持つ楽しさを味わえる気がする。
 500系「のぞみ」の初乗りを満喫した翌月、数回に渡って高崎に行く仕事が発生した。
 最初は時間の都合もあって上越新幹線を使ったが、どうせ高崎に通うならできるだけ違ったルートや列車を利用しようと考えた。「新特急あかぎ」「新特急草津・水上」はもちろん、快速「アーバン」、そして池袋発着の普通列車乗り継ぎと高崎線経由のいろいろなパターンを制覇。最後に八高線経由での高崎入りに挑戦した。
 八高線は、その名前にもあるように八王子と高崎(倉賀野から高崎線を経由して高崎に入る)を結ぶ路線だ。このうち、八王子〜高麗川間は1996年に電化されているが、高麗川以北は非電化。高崎線にはない旅が楽しめるに違いない。
 実は約30年前、この八高線にはしげく通った思い出がある。ここは関東平野の外環となった丘陵地帯を抜けるため、勾配区間が多い。そのため、「デゴイチ」ことD51の重連による貨物列車も走っていた。40歳以上の鉄道ファンならご存知のことと思うが、首都圏に近いSLファンのメッカだったのである。しかし、無煙化とともに足が遠のいてしまっていた。そんな懐かしさもあって、このルートを選んだのである。
 金子、東飯能と進み、かつての名撮影地も通勤形の209系で走り抜けては感慨も薄いが、高麗川で気動車のアイドリング音を聞くと、往年の記憶がどんどん甦ってくる。石炭の燃える臭いすら鼻腔に漂ってくるようだ。
 しかし、八高線の魅力は懐古趣味だけに留まらなかった。
 高麗川からキハ110系に乗り換え、高崎をめざす。ロングシートからクロスシートになったせいかも知れないが、車窓の隅々までが目に飛び込んでくる。
 丘陵地帯を貫く線路の両脇には、すっかり刈り入れの終わった畑が広がっていた。そして、畑の間には雑木林が点在している。都心から直線距離にしてわずか50キロ足らずだが、心の安らぐ里山の情景が今も色濃く残っていたのである。
 30年前はSLしか目に入っていなかったが、新たなこの発見は大きな収穫に思えた。

 路面電車の走る町を訪ねたら、時間の許す限り電車に乗ってみる。とくに初めて訪ねた町なら定番コースともいえる。
 路面電車は、ほとんどの場合、町の人々が下駄履き感覚で利用する、身近な交通機関となっている。通勤、通学はもちろん、野菜や魚を抱えた買い物帰りの人もいる。利用者の構成は実に幅広い。車内で交わされる乗客たちの会話に浸っていると、その町の空気が身体にじわっと染み込んでくる。
 また、車窓の高さとスピードもいい。歩くよりもちょっと高い位置で、またちょっと速い。目が追っていける範囲で、次々と新鮮な情報が飛び込んでくる。
 そして、乗客の動向に注意していれば、どこに学校があり、市場があり、そして繁華街があるのか、なんてことも見えてくるのである。
 もちろん、バスでも同じ体験ができるはずなのだが、初めての町だとルートに対する情報が少ない。その点、路面電車は大抵の地図に載っている。さらに端から端まで乗っていても、長くて1時間(名古屋鉄道、土佐電鉄といった例外もあるが……)。運行間隔もその町に適した頻度で設定されており、とにかくその町の初心者でも安心して使える交通機関なのである。
 こうして路面電車で町を一巡すると、その町がぐっと近づいてくる。

 これらのエピソードは、僕にとっての鉄道が持つ魅力のささやかな一例。極端な話、それがどこまで続いているのか僕自身でも分からないほど、無限の魅力がある。

 こうした鉄道との触れ合いの中、僕にとってやはり欠かせないのは次々と登場する新型車輌の情報だ。新型車輌には、各鉄道の未来にかける指針と期待が託されている。また、実際にこれらの車輌を使った新しい列車に乗ってみると、資料だけではわからなかったこともあれこれ見えてきて、実に楽しい。
 この本は、僕にとって興味の対象のひとつとなっている、全国の鉄道の新型車輌たちを紹介したものである。一口に新型車輌といっても各鉄道から毎月のように続々と登場しているため、この1〜2年にデビューしたもの、さらにはできる限り実際に触れたものに対象を絞った。
 本の構成は、まず日本列島を駆けめぐる新型車輌の中から8本の列車を選び、ルポの形でその魅力を紹介している。今回はJRに偏ってしまったが、それもこの1〜2年を捉える現況と考えていただければと思う。
 後半は各新型車輌ごとに概略をガイド、併せて実際に自分で触れた感想も記した。これらの情報については、各鉄道の広報誌、鉄道趣味誌、時刻表、新聞など公刊資料を元にしているが、鉄道の現場に携わるプロフェッショナルではないため、あくまでも利用者、そしてファンの立場からの記載となっている。的外れな部分があるかも知れないが、これもひとつの意見として読んでいただければ幸いに思う。なお、このガイドは、けいてつ協會の岡本憲之氏の協力を得てまとめた。

「のぞみ15号」の車内では、博多到着を告げるアナウンスが流れ始めた。
 僕も降りる支度をしなくてはならない。序文が長くなってしまったが、そろそろ本編にご案内することにしよう。


●あとがき

 それにしても、次々と新しい車輌が誕生してくるものである。
 全国各地の鉄道では、それこそ毎月のように新型車輌がリリースされている。いずれも内外に創意工夫を凝らし、21世紀に向かう期待の新鋭たちだ。
 各鉄道趣味誌は、これらの情報を提供するのに多大な誌面を割き、読者としてはあふれんばかりの情報にうれしい悲鳴を上げる。
 この新車のニュースだけを追っていくと、世紀末の不況などどこ吹く風という感じすらしてくるのだ。

 僕が日常的に利用する鉄道は限られてしまうが、新車登場のニュースを聞けば、心が騒ぐ。JRの特急形車輌はもちろん、大都市の地下鉄やローカル線の小型気動車でも同じこと。ミーハーといわれようが、好きなものは仕方ない。
 限られた情報で、その姿を想像するのも楽しいが、やはり直接触れてみたい。
 もちろん、本来の姿で運転されている営業列車に乗ることができれば最高だが、車庫や駅で眺めても満足できる。仕事で向かった旅先のちょっとした時間は、こうして心豊かに過ごしている。
 小学4年生の夏休み。クラスメートの女の子が、「夢の超特急」試乗会に参加。休み明けに淡々と発表する思い出話に胸を躍らせた。34年ぶりに電話で確認してみると、彼女の母親の知人に国鉄関係者がいたらしい。平安神宮まで日帰りしたという。
 ともあれ、彼女の話を聞いてからというもの、僕の東海道新幹線に対する思いは募るばかり。父親にねだり通し、開業直後の冬休みに0系「ひかり」の試乗を果たした。
 考えてみれば、このときの感動を、現在も引きずっているのかも知れない。

 鉄道が好きとはいえ、本格的に勉強しているわけでもなく、現場で働いたこともない。しかし、自分にも理解できるように、基礎的なことから魅力的な新型車輌たちを調べていくことは楽しい。本書では、こうしたレベルでの解説を心がけたので、ファンにとっては食い足らないところもあると思うが、その先は各自の楽しみとしていただきたい。
 なお、冒頭でも触れたが、ここで紹介した車輌たちは、できる限り自分たちで触れた経験のあるものに絞った。中にはどうしてこれが入っていないのか?とお叱りを受けそうな車輌もあるが、これは限られた時間とスペースの関係として、ご容赦いただきたい。
 最後に、出版にあたって、快く写真を提供していただいた中井精也氏、竣功図を起こしていただいた竹村久司氏、執筆面で多大な協力をいただいた岡本憲之氏、そして遅筆の僕に最後まで付き合っていただいた並木書房出版部に感謝いたします。
 また、資料や写真提供には各鉄道会社の広報担当の方々にもご協力いただき、合わせて謝意を表します。


●松本典久(まつもと・のりひさ)
1955年東京生まれ。東海大学海洋学部卒業。出版社勤務を経て、82年からフリー。鉄道や旅をテーマとして、『鉄道ジャーナル』、『旅』などにルポを発表するかたわら、『地球の歩き方/シベリア鉄道編』(ダイヤモンド社)、『はじめての鉄道模型』(成美堂出版)などの編集にあたる。著書は『はやいぞ!ぼくらの新快速』(小峰書店)など児童書を中心に多数。
●中井精也(なかい・せいや)
1967年東京生まれ。成蹊大学法学部卒業後、東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)を経て、真島満秀氏に師事。96年に独立し、レイルマンフォトオフィスを開設。『鉄道ジャーナル』、『旅と鉄道』、『旅』などで活躍する一方、広告の分野にも活動の場を広げている。