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●目 次

まえがき

第1章 ツールナイフの基礎知識 

1、ツールナイフ略史
ツールナイフの登場  スイスアーミーナイフ
2、ツールナイフのメカニズム
ロック機構  ブレードデザイン  ブレードの材質
3、用途別によるツールナイフの分類
ミリタリーユーティリティナイフ  キャンプナイフ  ヨットマンズナイフ  セイラーズナイフ  ハンティングナイフ  フィッシュナイフ  ソムリエナイフ  ホースマンズナイフ  サバイバルナイフ  キャリーナイフ  エレクトリシャンズナイフ

第2章 ツールナイフの使い方 

1、基本テクニック
ナイフの開閉方法  ブレードオープナーの使い方  ナイフの安全な手渡し方  ナイフの握り方
2、ツールナイフの選び方
目的を考える  ハンドルの違い  モデル名称  ナイフを購入する  ケース(スキャバード)の購入

第3章 ツールナイフカタログ 

アル・マー  ICカット  アイトール  エカ  アドラー  サンタフェストーンワークス  カーショウ  G.サカイ  J.モエデ  ジャック・モンジャン  エロア  ドボ  リヒャルト  レミントン  ヒロナイブス  ジッポー  藤本ナイフ  ビクトリノックス  ウェンガー

第4章 多機能プライヤー 

1、多機能プライヤーの概要
多機能プライヤー略史
2、メカニズムの違い
各モデルの機能比較  ハンドル  ヘッド  ナイフブレード  ドライバー  缶切り  ヤスリ  ノコギリ
3、多機能プライヤー主要機種紹介 
レザーマン/ポケットサバイバルツール  レザーマン/PSTU  レザーマン/クリンパー  レザーマン/スーパーツール  レザーマン/ミニツール  レザーマン/マイクラ  アル・マー/4×4ツールメイト  アル・マー/4×4ツールメイトスペシャル  アル・マー/クイックプライヤー  SOG/ツールクリップ  SOG/マイクロツールクリップ  SOG/パラツール  SOG/パワープライヤー  SOG/ポケットパワープライヤー  AGラッセル/AGツール  バック/バックツール  ガーバー/マルチロックプライヤー  ガーバー/MPT#5  ユティカ/マルチマスター  LKL/スイステック5イン1ツール  セバーテック/M2セバーツール  G・サカイ/フィールドツール  シュレード/ST1Nタフツール  ウェンガー/ウェンガーグリップ  ビクトリノックス/スイスツール  フロスト/マルチレンチナイフ  アイトール/アリゲーター
4、多機能プライヤー総論

第5章 多機能プライヤーを使いこなす

1、野外での使い方  
2、災害時の多機能プライヤー活用術
防災装備のポイント  枕元に用意すべき避難装備  防災パックの内容  自宅備蓄品  空缶炊飯術

第6章 メンテナンス&シャープニング

1、メンテナンス 
使ったその場での手入れ  自宅でのメンテナンス  日常のメンテナンス  ナイフの修理  ケースのメンテナンス  
2、シャープニング 
タッチアップとホーニング  砥石の種類と選択  エッジの角度  タッチアップの実践  研ぎのフォーム  角度の出し方  縦研ぎ  横研ぎ  横研ぎのバリエーション  特殊なエッジな研ぎ方

多機能プライヤー一覧/ツールナイフ一覧


●まえがき

 小さな道具箱というニックネームを持つツールナイフと多機能プライヤーは、どちらも日常生活から野外活動までカバーしてくれる実に多彩な機能を持つ。ナイフ、ドライバー、缶切り、プライヤー、ノコギリ……などなど。手に納まる文字通りのポケットサイズの中に、いくつもの機能が隠されている。
 ツールナイフの原形は100年以上も前に登場し、少しずつ機能を進化させてきた。今や世界中に膨大な数の愛用者がいて、この事実からも、ツールナイフがオモチャ的な小道具などではなく、生活に密着した有効な実用品であることが分かる。
 これら多機能ツールにかならず搭載されているアイテムがナイフだ。
 人類の歴史とともに歩んできたナイフは、すべての道具の原点に位置するだけに応用が効き、実用ツールに含まれるのは当然といえる。しかし刃物である以上は法律の規制を受けるのもやむを得ない。
 正しく多機能ツールを使いこなすために、現行の法律をよく知っておこう。
 刃物類を規制する法律の「銃砲刀剣類所持等取締法」(略して銃刀法)二十二条によれば、長さ6センチを超える刃体を持つ刃物は正当な理由がなければ持ち歩けない、となっている。
 刃体とはいわゆるブレードのことであってエッジの長さではない。法律で言う「正当な理由」とは社会的常識に照らし合わせて許される理由であり、たとえば「護身用」はもちろん「ただなんとなく」といった理由では正当とは見なされない。
 ここで注意したいのは、それでは刃体が6センチ以下なら街中でも自由に携帯できるのか、といった疑問である。実は刃物および工具類の携帯には「軽犯罪法」も関係してくる。
 その第一条で「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」、そして「正当な理由がなくて合かぎ、のみ、ガラス切りその他他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」は「これを拘留又は科料に処する」と定めている。
 ここでは刃体のサイズは示されていない。つまり刃物に限らず、アイスピックやハンマー、ドライバーなどを正当な理由もなしに持ち歩くと、本来の道具の目的から外れた凶器あるいは不法侵入の道具として認定されてしまうわけだ。常識的にその状況を考えれば納得がいくだろう。
 いずれにしても、街中や公共の場へ刃物類を安易に持ち出せば、誤解と法的トラブルを招く恐れが高いことを忘れてはならない。
 本書で取り上げている多機能ツールたちは実用道具の一種。それぞれの機能性をしっかりと理解した上で、有効なパートナーとしてデスクワークからアウトドアまで大いに利用していただきたい。
∧ツールナイフのセフティルール∨
1、ナイフは便利かつ危険な道具であることをまず認識する。
2、銃刀法に違反しないサイズであっても、正当な理由・目的のないナイフは携帯しない。
3、不必要に人前でナイフ類を出さない。
4、使用時以外のナイフおよびツールは、ブレードを収納した安全な状態にしておく。
5、ナイフのポイントおよびエッジを人に向けない。
6、ツールナイフも多機能プライヤーも個人装備。できるだけ貸し借りはしない。
7、切れない刃物は危険。よく研いで常に切れる状態にしておく。


●あとがき

 最後に、筆者自身が使っている多機能ツールとナイフ類を参考までに紹介しておこう。
 まず多機能プライヤー。その便利さはすでに述べてきた通りだが、キャンプにしろ旅にしろ、軽量化シンドロームの気がある筆者にとって常時携帯するには重すぎる。バイクツーリングか友人たちとのRVキャンプ以外で持ち歩くことは少ない。
 それでも多機能プライヤーが旅先で2度ばかり大いに役に立ったことがある。
 一度は、知人たちとランクルでアイダホの荒野を進んでいたときのことだ。捨ててあった針金の束に車が突っ込み、タイヤ回りとシャフトにからんで動きが取れなくなってしまった。ところが車載工具のプライヤーがチャチで針金をうまく切断できない。同乗者は全員ナイフ好きな連中で、それぞれ愛用のナイフを携帯していたが、相手が針金では文字通り刃が立たない。そこで取り出したのが筆者のレザーマン・ミニツール。これで強引に針金を切り離し、脱出することができた。
 もう一度はニューヨーク市のホテルでのこと。キッチン付きで週130ドルとNY市にしては安い部類のホテルだっただけに、部屋の鍵と共同シャワーの蛇口が壊れていた。フロントに頼んでもラチがあかず、結局ミニツールでどちらも直してしまった。
 余談になるが、かのブロードウェイには、観光客を相手にする土産物屋をかねた数多くのカメラ屋が目立つ。ショーケースに出された目玉商品は驚くほど安いが、これには保証書から説明書まで別料金といったトリックがあるので要注意だ。また、このような店の多くはなぜかナイフもあつかっている。ためしにバックの某モデルを見せてもらったら値札が90ドルになっていた。店員は愛想よく、日本人のあなたには特別70ドルにディスカウントしましょう、などという。しかしこのモデルの当時の標準小売価格は45ドル。しかもロサンゼルスならその20〜30%オフはあたりまえ。正価を知らないと引っかかりやすい。
 さて、ナイフの方は使う環境によって4種に分けている。日常使う、いわゆる常用ナイフの部屋用と携帯用、非日常である旅行用とアウトドア用だ。
 常用の2種類は2枚刃のポケットナイフとツールナイフである。
 机回りの作業に使うデスクナイフがシュレード・93OTラングラー。ロングクリップを軽く刃引きしてペーパーナイフに、シープフットを片刃に改造することで、紙に対する作業の多くはこの1本でカバーできる。シュレード製品は価格の割りに仕上げが良く、アクションもスムーズで気に入っているが、このモデルは数年前からカタログから落ちていて、どうやら生産中止になったらしい。
 常時キーリングに付けているのが、ビクトリノックス・クラシックに赤色のLEDを搭載したスイスライト。光があふれる都市生活において、小さなライトの存在は意外と役に立つ。日常の生活パターンにおいて携帯時のナイフブレードの利用率が低いことから、エッジは軽く刃引きしてレターオープナー(ペーパーナイフ)にした。クラシックシリーズで唯一気に入らない点がアクセサリーの位置。キーリングに付けたままバイクに乗ると、振動でピンセットや楊枝が落ちてしまうことがある。
 旅行用ナイフはビクトリノックス・バンタム(今はスタンダードNL)を中心としたツール系。
 筆者の旅は世界中どこへ行っても、安いバスや列車を利用した貧乏旅行ばかり。他人の親切を最初からアテにするといった行為が好きではないから、金はなくてもヒッチハイクだけはしないが。
 レストランを利用することなどなく、食事は店や市場で食糧を買い込んで自分で作る。ツイストオフのビンとかプルトップになった缶詰め類は世界ではまだ普及していないため、こんな時に開けるツールが必携となる。軽量化にはコンボツールがベストだ。たまにワインなんぞという贅沢品を口にすることもあるが、その場で頼めば栓は抜いてもらえるからコルクスクリューまでは必要なし。
 ツールナイフを選択するもう一つの重要なポイントが、シングルブレードのナイフの携帯は、たとえフォールディングタイプでも場所によっては法的なトラブルを招きかねないことである。
 ゲリラや強盗団が横行するような政情が不安定な地域にバスで入ると、軍や警察による検問が頻繁に行なわれ、時には日本人旅行者でさえ身体検査を受けることがある。もしナイフが見つかれば身柄拘束の口実に使われかねず、筆者自身そのような実例を何件か知っている。簡単な取り調べだけですむか、武器の不法所持を口実にそれなりの罰金を支払わされるかは状況によるだろうが、どちらにせよ気分が最悪に落ち込むことだけは確実だ。
 小型のツールナイフは絶対とまでは言えないものの、シングルブレードよりは法的トラブルに対する安全性が高いだろう。
 フィールドへ持ち出すフォールディング系もツールナイフがほとんど。筆者の場合、食事は米と鉄火味噌と梅干しによる一汁一菜が基本なので包丁系のナイフは必要ない。市場の主流を占める、近代的な新素材を採用したロックドブレードはどうも中途半端に感じられてしまう。
 というわけで旅行用と同じくスタンダードNLか、ビクトリノックス・ファーマーあたりを使う。エスビットポケットストーブを利用して落ちている小枝を燃料にするときに、小さなノコギリが活躍する。国内のフィールドでは缶切りや栓抜きがいらないので、筆者のファーマーはこれらを軽量化のために外し、錐はエッジを落としてマリンスパイク状に改造した。ナイフとノコギリだけを組んだ、シンプルな製品が市場にほとんどないのが残念である。
 焚火とか藪こぎなど刃物に頑丈さが要求される環境になると、やはり構造的にシースナイフに安心感が持てる。小型かつ頑強な造りのシースナイフと折りたたみ式ノコギリの組み合わせが、筆者にとっては万全のアウトドアツールといえる。

 本書をまとめるにあたり、さまざまな協力をして下さった宗正刃物社主・青井尚之氏および関係各位に深く感謝の意を表したい。
 

●平山隆一(ひらやま・りゅういち)
1953年、栃木県生まれ。学生時代からの射撃とアウトドア行動熱が高じて78年に渡米。以後、アリゾナ、テキサス、カリフォルニアなどに住みながら北米大陸を中心にバックパッキングの旅を続ける。89年に帰国。月刊『Gun』誌(国際出版社刊)で「野外実践講座」を連載中。著書に『ツールナイフのすべて』『フィールドナイフの使い方』『フィールドモノ講座』『軍隊式フィトネス』(いずれも並木書房)がある。