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●目 次

ナイフは触発する

1 サイズについて考える

「大は小を兼ねない」/日本にある道具のサイズ/ナイフを選ぶ/ブレードのマキシマム・サイズ

2 デザインについて考える

シンプルを最上とする/ハンティング・ナイフについて/フィッシング・ナイフ/サバイバル・ナイフ/ダイバーズ・ナイフ/ジャパニーズ・ナイフ/ボウイ・ナイフ/フォールディング・ナイフ/ロック・システム/ブレードの研削/ブレードの表面仕上げ/ハンドルのデザイン/タングの構造/ハンドルの素材/装飾の是非/鋼材あれこれ コラム「ナイフ購入時のチェック・ポイント」

モダン・ナイフの生きた伝説(R・W・ラブレス)
アメリカン・ナイフの礎を築いた(W・D・ランドール)
第一人者にして「まだまだ発展途上中です」(古川四郎さん)
ナイフ作りは悟道への公案か(田園の哲人、田崎成一さん)
鍛えあげたデザイン・センスが強味(ナイフの詩人、戸崎茂さん)
ナイフ作りが好きだから悔いのないよう努力したいですね (ナイフ界の地の塩、原幸治さん)

3 プロダクション・ナイフを検証する

カスタム・グレードに迫る(モキ・ナイフ)
グローバルな視点、世界に照準を合わせた(G・サカイ)

4 鍛造ナイフを見直す

研ぎやすく、明快な切れ味が魅力/モダン・ナイフvs鍛造ナイフ
伝統の技に意地と誇り(越前鍛冶、佐治武士さん)
マタギの猟刀造りに定評(鍛冶五代目、浅井丸勝さん)
懐かしき肥後守

5 メンテナンスの愉しみ

砥石を選ぶ/研ぎの実際=刃角を一定に保つ/カーブ部分はナイフを立てながら/手首を固定して1ストロークで研ぐ/使った後の手入れ/革シースの手入れ


●あとがき

 ナイフは、男たちにとって、単なる道具以上の魅力を秘めた存在である。手にとるたびにイメージの狩人に変身する愉しみも、ハンドルに力を込める際の昂りも、男の精神にとっては、根源的なものであるに違いない。たとえ電子機器の並んだ書斎にあったとしても、ひとたびナイフを手にすれば、はるか三百万年も前、人類が初めてこの鋭い道具を手に入れた高揚を、時空を超えて共有することになるからである。ナイフは、太古の闇から届いた手紙であり、想像と創造にかかわるきわめてフェティッシュな道具と見ることができよう。
 世界的に見ても、第一級の刃物文化を継承するこの国で、一九六〇年代からの一時期、ナイフは兇器として徹底的に排斥された。視野狭窄に陥った、PTA的愚論が罷り通ったのである。たしかにナイフのもつ危険な側面は否定できないが、扱うのは人間である。ユーザーたる人間が健康である限り、ナイフはきわめて有能、しばしば手応えのある「人生の時の時」を共に刻む、又とない相棒ともなるのである。
 近年、アウトドア・スポーツの隆盛を背景に、ナイフのもつ本質的な価値が見直されつつあるのは、よろこばしい限りである。ものを作る基本は、頭に想い描いたり、コンピューターのキーを叩くことではなく、ナイフで一本の木片を削り出すことに置かなければならない、とするのが筆者の長年の主張である。その意味では、青少年には、どしどしナイフを使ってもらいたい。ナイフの復権を、一時的な流行に終わらせてはならないと願うのである。
 本書で採り上げたメーカーたちの、地道で真摯な努力を称賛したい。本書が、はからずもナイフをテーマとした職人列伝のごとき印象を与えるとしたら、それは彼らに対する筆者の思い込みによるものである。
 執筆にあたっては、さまざまなナイフを採り上げるだけでなく、読者が実際に「わが一本」を選択する目安となるよう、材質、サイズ、重量、価格など、具体的なデータを示すよう配慮した。本書の購読をキッカケに、最良のナイフに出会い、ナイフとのつき合いを深めていく人が、ひとりでも増えてくれれば幸いである。
 最後に、取材の申し入れに、こころよく応えてくださったメーカー各位に感謝する。また、本書に収載したナイフのあらかたは、東京・御徒町のディーラー、岡安鋼材株式会社の撮影協力によるものである。興味ある読者には、同社に足を運ばれるよう、お奨めしたい。
 本書を書きあげるにあたっては、並木書房出版部、奈須田若仁氏に負うところ大であった。すべては、生来の怠惰に加え、住所不定に近い筆者を、独特の嗅覚で追跡、叱咤あっての話であった。深謝のほかはない。

●織本篤資(おりもと・とくすけ)
1941年東京都生まれ。フリー・ライター。国内外の刃物に詳しく、ナイフ・デザイナーとしても数多くのベスト・セラーを産む。ナイフ行脚の旅は40か国を越え、1994年より東南アジアの刃物文化を調査のため、島嶼地域を訪ねる。著書に『犬をつれて旅にでよう:スペイン・ポルトガル放浪300日』『ナイフ学入門』『和式ナイフの世界』『ナイフの愉しみ』『職人が作った遊び道具(近刊)』(いずれも並木書房刊)。