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●目 次

「アンケート調査」の読み方

1、ビジネスマン・OL

生活意識
就業意識
雇用の実態
コミュニケーション
OA機器と情報化
健 康 
企業経営
その他 

2、若者・学生

高校生の生活  
受験と受験生
大学生の生活
就職活動 
新入社員意識 
若者全般

3、主婦・女性

主婦の生活
働く女性の生活
若い女性の生活 
結婚観
30代女性の生活 
コミュニケーション
ファッション
健康・美容 
妊娠・出産
女性全般 

4、父親・男性

父親らしさ
父と子のコミュニケーション
健康・ファッション
家事協力
男性気質

5、夫婦・家庭

家庭生活
夫婦関係1
結 婚
子育て・しつけ
家事分担
住 宅
高齢化社会

6、子ども・教育

小学生の生活
中学生の生活
子ども全般
親の意識
その他

7、マネー・財テク

金銭観
こづかい
つきあい(慶弔金)
家 計
教育費
お年玉と子どもの所得
挙式費用
初任給
ボーナス
その他

8、趣味・レジャー

余暇・自由時間
休日の過ごし方
旅 行 
スポーツ
ゲーム・情報機器
カーライフ
その他

9、生活全般

現代人の意識 
住宅問題 
家庭行事と家事
環境問題
地域活動 
健 康
ペット事情
お中元・お歳暮
電 話
プレゼント
料 理
防災意識
消費と保険
地域社会
高齢化社会
葬儀・墓
21世紀予測 
その他 

総 索 引
調査企業・団体索引


●「アンケート調査」の読み方

 日本経済を見ると、全体として暗い感じがします。かつて、バブル崩壊後、消費者の縮み志向が指摘され、3、4年前には「そろそろ節約に疲れたはずだから消費は上向くのではないか」という期待感もありました。しかし、必ずしもそうはならず、むしろ景気低迷のきびしい状況がつづいています。ビジネスマンにとって、この激動の時代をどう生き抜くか、真価を問われている時といってよいでしょう。
 とくに昨年は、消費税が引き上げられたほか、従来は信頼できると考えられていた保険会社や銀行、証券会社が破綻し、さらに政治も迷走して、多くの人びとが将来に対して不安を抱くようになりました。
 たとえば、もらえる年金が減るかもしれないとか、介護保険料も取られるようになるらしいとか、保険の掛け金を増やさなければいけないのか、など漠とした不安を感じている人は多いにちがいありません。また、日本の社会では高齢化が進むばかり、という状況もあります。
 日本の最大の輸出先はアジアですが、成長神話は崩れて、アジア全体が調整期に入りました。自分の足元はどうなるのか。日本の社会はどこへ進もうとしているのか。このように大小さまざまな不安に取りつかれている、ともいえます。消費が悪く、景気が低迷しているのは、そうした不安があるからです。
 その背景には、じつは日本経済の深い病があります。地方自治体を含めると、政府が抱えている借金は500兆円という途方もない金額です。国民1人当たりで、なんと約500万円にもなります。
 これまで不況といえば、決まって公共事業が計画され、予算を投入してきました。それが国民にプラスになることなら問題はありません。しかし、人がほとんど訪れないような山の中にも立派な道路が建設されたのは、新聞やテレビの報道でご存知でしょう。道路のところどころに、「カモシカに注意」といった立札のある「カモシカ道路」があちこちにできあがりました。
 大きな借金があるのですから、もっと役立つことに使えばよかったのです。ところが、こうしたムダ遣いのつけがまわって、経済成長が止まってしまったのです。
 金融界も大変な負債を抱えています。バブル崩壊で、地価がどんどん下がり、不動産を担保にした融資の中で返済不能に陥るものがでてきました。この不良資産の額も、数十兆円規模で、いろいろな説があります。
 この過去十数年は、日本にとって取り返しのつかない失敗だった、といってよいでしょう。アメリカは成長し、わが国は衰退して、その差は歴然としています。つまり、日本の国際的な地位が絶望的なほど下がった、ということです。
 これを克服するには、市場経済しかないということで、規制を緩和し、自由な市場をつくっていく方向へと、動き出しているのです。高齢社会は確実に訪れますが、そのなかで公共投資や年金問題など、リズムが狂ったような状態を直していかなければなりません。
それを立て直す起爆剤が規制緩和であり、行財政改革なのです。
 しかしながら、規制緩和がすべてよいかというと、そうともいいきれません。小売店の例を見れば、大店舗法の規制緩和によって、全国各地にスーパーなどの大型店や大規模なショッピングセンターが出現しています。この結果、中規模都市の従来からの商業地は、壊滅的な打撃を受けてしまいました。住宅地が郊外へと広がる傾向もあって、とくに昔ながらの商店街から生活の匂いがなくなろうとしています。
 商店街の地盤沈下は、街のコミュニティが崩壊する、という危機もはらんでいるのです。いいかえれば、大変住みにくい街になりつつある、ともいえます。コミュニティのない社会は、まず安全面や治安面が心配です。なにかが起きても、隣近所で声をかけあったり、助けあったりすることができにくいからです。
 むろん、規制緩和は必要だし、避けることはできません。規制緩和というのは、競争社会になることであり、自己責任社会になることです。ただ、その場合、心しなければならないのは、すべて欧米と同じようにするのではなく、日本らしい自己責任社会をつくりあげることでしょう。
 アジア諸国は、国際化の大きな流れの中でも、独自の文化、固有のアイデンティティを守る、という姿勢を明確に打ち出しています。規制緩和や自由化に対しても、その姿勢は変わりません。
 21世紀の課題を考えれば、経済的な競争もさることながら、社会全体を安定化させる競争がより重要になるのではないでしょうか。それというのも、まだまだ変化がつづく、と考えられるからです。

 身辺のビジネス環境や日常生活を見ても、すでに多様な変化が起き、新たな事態が発生しています。そうした変化に対応するには、まず変化の実態を知ることが重要ですが、その手がかりになるのが情報であり、データです。
 もう何年も前から高度情報化社会といわれてきましたが、いまのようにビジネス環境がきびしい時代では、企業も人も情報なしには生き残ることがむずかしくなっています。いい情報をすばやく入手することができれば、変化にも適切な対応ができるし、素早く行動に移せるからです。
 最近では電子手帳やパソコンが普及しているほか、インターネットやEメールなどの利用も活発化して、マルチメディアの時代がいよいよ到来しました。そうなればなるほど、情報そのものが重要になるし、情報に対する感度をますます磨くことが欠かせません。いいかえれば、いかに情報を読む力を養い、いい情報を入手するか、ということが肝心なのです。
 有名なジョークに「コンピューターというのはゴミを入れるとゴミしか出てこない」というのがあります。それと同じことで、人間の頭も、あるいは企業でも、ゴミを入れるとゴミしか出てきません。これは当然のことでしょう。
 あやふやな情報をインプットすれば、結果もあやふやだし、実行に移す過程で余計な手間がかかることもあるでしょう。むろん、あやふやな情報に踊らされて失敗するという例も、枚挙にいとまがありまけん。したがって、どのような情報をインプットしていくかは、きわめて重要なことなのです。実際にさまざまな情報が氾濫していますが、経営者にとっても、ビジネスマン個人にとっても、それをどのように判断し、取捨選択していくか、ということが大切になります。
 たとえば、情報の少ない環境で生活していると、それ以外のことはほとんどわからず、関心をもたないまま過ごしていく、ということになるでしょう。ところが、情報が伝わってくると、「そんなやり方もあるのか」とか、「そんな生き方もあるのか」などと、他への関心が高まり、それが刺激となって、さまざまな変化をもたらします。情報によって人が変わるし、社会も変化するのです。
 しかしながら、情報が誇張されたり、おもしろおかしく加工されて伝わると、その時その時に反応するだけで、じつは本質がよくわからない、ということになりかねません。また、まちがった方向へ導かれる、という危険性もあります。だからこそ、情報を正しく読む力が重要なのです。

 情報といっても多種多様ですが、その基本となるのはデータでしょう。つまり、事実そのものです。そのデータから背景や意味をしっかり読み取れば、大きな判断材料になります。
 身近なデータに、アンケート調査の結果があります。このアンケート調査データは、割り算で処理されたものもありますが、基本は実数であり、ナマの情報です。アンケート調査データはじつに利用価値が高く、商品開発の資料に使ったり、あるいはマーケティングや調査などの参考にするほか、トレンドを知るとか、ミーティングや営業などの話材に使うなど、幅広く使われています。むろん、情報力を養うためにも役立ちます。
 経済でもなんでもそうですが、まず数字を見たり、実情に肌で触れて衝撃を受ける、ということが大切なのです。すると、なにかを考えようとか、解決策を検討しよう、ということになってきます。なんらかの衝撃を受け、驚くことによって、具体的な一歩を踏み出せるわけです。それとは逆に、せっかくナマのデータを見ながら衝撃を受けなければ、残念ながらそこから前へは進むことができません。それだけに好奇心を旺盛にしたり、感性を磨くことも重要なことです。
 むろん、データによってビジネス環境の変化を知ることもできます。そのためにも、まずデータを見て驚くことが欠かせません。もっとも、驚くに価しないようなデータもあるでしょうが、それは捨ててしまえばよい、ということになります。
 この商品はなぜ、こんなに売れるのか。このイベントにはなぜ、こんなに大勢の人が集まったのか。人びとはなぜ、このような時間の使い方をするようになったのか。そうした素朴な驚きや疑問から出発して、さらに周辺の情報を集めて検討すれば、なぜそうなったのかがわかるし、今後はどのように変化しそうなのかも、おおよそ見当がついてくるでしょう。
 データを読みこなすには、やはりデータに慣れる必要があります。ことわざに「習うより慣れろ」とあるように、慣れることが必要なのです。ただ、データを読む時にはなんらかの予断を抱きがちですが、予断なしにデータを読むことを心がけるべきでしょう。素直に読み、驚くことが肝心なのです。
 どのようなテーマで考えるのも同じですが、まず驚くことから始まるといっても過言ではありません。驚きがないというのは、常識的な世界であり、当たり前のことでしかないのです。人より1歩、あるいは半歩でも進むためには、驚く感情が絶対に欠かせない、といえます。
 アンケート調査は一般的にいって、サンプル数が300とか500とか、あるいは1000、2000といった程度で、それほど多くはありません。だからといって、あなどるのは早計です。アンケート調査データを見ていると、驚くことがいくつか出てきます。先にも述べたように驚くことが第一歩ですから、驚くことができれば、アンケート調査データを見た目的の大半が達成されたことになるのです。
 アンケート調査データを見て驚き、具体的に考えてみようという時に、必要であればもっと大きいデータや関連のあるデータを探せばよいのです。
 さらにアンケート調査のデータが貴重なのは、経済や社会の中で生じている自分の意識外のアンバランスを発見できる、ということでしょう。バランスのあることを発見しても意味がありません。アンケート調査データには、好都合なことにアンバランスな、非常にラジカルな数字を見ることができます。
 したがって、「小さな数字で世の中の動きをキャッチできるのか」という心配は不要です。サンプル数が問題なのではなく、たとえ300とか500とか、少ないサンプルであっても、そこから「どうしてこうなのか」と疑問を抱いたり、「変な現象がある」などと気づくことが重要なのです。
 一つのデータを知ったことで、関連した事柄への関心が湧いてくる、ということもあるでしょう。実際、ほんのささいなデータが幅広い知識を身につけるもとになることもあります。そうなるのも、問題意識を持っていればこそで、これもデータを読む効用の一つです。
 さらにいえば、データに慣れたら、実感の基盤となる現場体験をすれば、効果が高まります。現場体験といっても、別にむずかしく考えることはありません。ひまを見つけて街を歩き、実際にモノや現象にふれ、自分の肌でなにかを感じればいいのです。
 こうした行動が感性を柔らかくしてくれるし、その柔らかい感性がデータを読む時に力を発揮してくれるのです。むろん、行動するさいにはなにか疑問点を持っているとか、問題意識を持つことが大切なのはいうまでもありません。
 現場体験を重ねておけば、なんの関係もないようなデータを見た時でも、頭の中で体験したことと結びついて、ハッと驚いたり、ひらめいたりすることがあります。これが重要です。これまでの経験から得た知識と数字が結びつき、データの数字が具体的なイメージを生み出してくれる、というわけです。
 このようにしてデータを読み、トレーニングを重ねていけば、生活意識の変化とか、実感的な消費動向、ライフスタイルや余暇の使い方など、さまざまな変化を見る目を養うことができます。アンケート調査のデータには身近な、誰にでも通じるテーマが多く、格好のテキストになることでしょう。

 じつをいえば、これまで並木書房からは毎年、『アンケート調査年鑑』が出版されていました。第1巻が出たのは1989年ですから、早いものでちょうど10年になります。いずれも、その年その年の各企業や研究機関、団体などが実施したアンケート調査の結果を、そのまま収録したデータベースともいうべきものです。
 第1巻から第10巻まで、収録したアンケート調査は2000件以上にのぼりますから、この『アンケート調査年鑑』は、わが国最大のアンケート資料ということになります。ここからさまざまな「ナマのデータ」を取り出して、フルに活用すれば、どれだけ価値を生むか、わかりません。
 しかも、データというのは、蓄積すると大きな力を発揮するものです。たとえば、氷山の海に突き出ている部分だけでも相当な大きさですが、それだけで判断すると間違いかねません。やはり、目に見えない海中に没している部分を知らなければ、氷山の全体の大きさをわかったとはいえないでしょう。情報にもそうした性質があります。
 そのような意味で、『アンケート調査年鑑』が10巻になったということは、それだけ情報資産が増えたということであり、変化の流れもつかみやすくなったことになります。10巻を揃えておけば、「ナマのデータ」の大きなストックができたことになります。これも立派なデータベースで、いまのような変化の激しい時代では、大きな資源を持っているといって差支えありません。

 さて、本書『日本人の生活意識調査情報事典』は、そのような過去10年間の『アンケート調査年鑑』のインデックスとして編集されました。
 どのような時代になっても、なにかを決断したり、始めるには、判断材料となる情報が欠かせません。しかし、いまのようにおびただしい情報が氾濫していると、専門家でもないかぎり、適切な情報を選び出すのも困難なことです。
 それはアンケート調査データでも同じでしょう。『アンケート調査年鑑』で紹介した資料だけでも2000件以上もあるのですから、選び出すのも大変です。その点、本書『日本人の生活意識調査情報事典』は、必要とするアンケート資料を探すための手掛りとして、十分に役立つと思います。
 項目は「ビジネスマン・OL」「若者・学生」「主婦・女性」「父親・男性」「夫婦・家族」「子ども」「マネー・財テク」「趣味・レジャー」「生活全般」と九項目に大別し、10巻分、2000件余りのタイトルを整理、収録してあります。重要と思われるデータについては主な調査内容についても記載してあります。したがって、本書を手元に置いておけば、これまでの『アンケート調査年鑑』10巻も使いやすくなるのではないでしょうか。
 むろん、既刊の『アンケート調査年鑑』が手元にない場合でも、本書は役に立ちます。本書をひもとき、お目当ての項目を見つけ、図書館などに常備されている『アンケート調査年鑑』から検索すればよいからです。発表した企業なり機関に直接資料を請求すれば実物を入手することも可能です。
 また、本書をパラパラ見ているだけでも、アンケート調査の多様性に驚き、さまざまな刺激を受けます。
 それにしても10年の間には、いろいろな変化がありました。インターネットが実現し、利用者が増えているのは、変化のなかでも代表的なことの一つでしょう。最近でいえば、「たまごっち」や「プリクラ」などのヒット商品。サラリーマン社会も、年功序列制から実力主義へと、大きな変化を見せつつあります。
 国際的にはボーダレス化が進み、国境を越えて金やモノだけでなく、人や情報が自由に動くようになりました。この流れは止まらないでしょう。企業も同じで、業種を超えて新しい分野に参入するとか、業態の多様化が進んでいます。その背景にあるのは、ハイテク化、情報化、サービス化、国際化が進み、ビジネス環境が変化したことです。この結果、従来の枠組みでは対応できなくなり、その枠組みを超えた経営戦略を展開するようになった、といえます。
 変化といえば、企業の海外移転事情も変わってきました。かつては人件費や地代、優遇措置など、日本より生産コストがはるかに安いという理由で、企業の海外移転が多かったのです。しかし、今回アジアの経済危機を迎えて、その海外戦略を見直す企業もあるでしょう。
 あと3年足らずで21世紀ですが、変化はダイナミックにつづくにちがいありません。大きな流れとしては「国益より人類益を考えるべきだ」という傾向も出はじめています。いいかえれば、モノを生産することも、モノを消費することも、地球環境とセットで、ということですが、それとともに企業経営のあり方も対応が迫られる、という時代になりつつあります。
 ともあれ、どのような変化が起こっても、十分に対応できるように、情報感覚を磨いておきたいものです。そのためにも、本書『日本人の生活意識調査情報事典』を十分に活用していただければ、編者としても喜びにたえません。なお、アンケート調査を実施し、その貴重なデータを提供していただいた各企業、研究機関、団体の方々に、心から感謝いたします。

●竹内 宏(たけうち・ひろし)
1930年静岡県清水市生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。同行専務取締役調査部長を経て1989年より長銀総合研究所理事長。ほかに財団法人静岡総合研究機構理事長、政府の審議会委員などをつとめる。雑誌、テレビ、講演会で幅広い人気をもつエコノミスト。1989年に創刊した『アンケート調査年鑑』(並木書房)の編者をつとめる。著書は『路地裏の経済学』(新潮社)、『歴史の知恵、経済のヒント』(PHP出版)、『竹内宏選集』(NTT出版)、『父が子に語る昭和経済史』(PHP出版)、『「せぬがよき」文化の黄昏』(東洋経済新報社)、『静岡産業風土記』(静岡新聞社)など多数。